自動販売機は「9990」。
そろそろホットコーヒーが飲める季節になるので、この自販機ともおさらばだ。結局当たらずじまいに私の夏が終わる。
朝、高野秀行さんから電話。夕方、会う約束をする。
午後、営業に出かけようと神保町駅に向かっていたところ突然の豪雨。慌てて書泉グランデさんに雨宿りに入ると文芸書売上げランキング1位に「本の雑誌」352号が! ジュンク堂書店池袋本店に続いての快挙。国書刊行会50周年の際は、1冊3万円くらいの豪華別冊を作ろう。
仕方なく会社に戻り、予定変更、新刊チラシ作成。
雨もやんだ夕方、高野さんが来る。
「魚百」にて『謎の独立国家ソマリランド』の打ち合わせなどしていると、魚百のテレビで巨人対ヤクルトが放映されているではないか。確か今夜、巨人が勝つと3年ぶりの優勝で、隣で朝から酒を飲み続けていたらしい高野さんは巨人ファンで、なにを隠そう私はヤクルトファンなのであった。巨人が優勝するのはもう仕方ないとしても、ヤクルト戦での優勝は勘弁してほしい。いやそれを見たくない。
7回が終わって巨人リードの6対4で、もはやこれは巨人の優勝まちがいなしだろう。胴上げの瞬間なんか見たくないので、何気なく酔ったふりをして「そろそろ帰りましょうか?」と高野さんに声をかけるが、「もう一杯飲もうよ」とハイボールを頼まれてしまう。
そうして私は巨人ファンとともに自ら応援するチームが負けて目の前で胴上げを食らうという屈辱を味わうのだった。
高野さんは何度も「杉江さん、俺も浦和レッズが優勝するときには埼玉スタジアムに行くから」と言っていたがそれとこれとは違うと思うのであった。
夜、出版営業マンになった頃いろいろとお世話になった大先輩のお通夜に浜本ともに参列する。たくさんに人がお別れに来ていた。
ご冥福をお祈りします。そして営業頑張ります。
通勤読書は『ガス燈酒場によろしく』椎名誠(文藝春秋)。
自動販売機は「0001」。
0もあるのか!?
書泉グランデ、三省堂書店にPOPを取りにいき、そのまま営業へ。
こんな時期でも売上をアップさせている書店員さんに秘訣を伺うと、「ベストセラーがないときはどんどん平台や棚を変えてます。たとえば2週間平積みして5冊売れる本があるなら、一週間で平積みの本を変えて3冊ずつ計6冊売れるようにする。小さなお店だから飽きられないように気をつけてます」とのこと。
やっぱり積み重ねが大切なんだな。私も頑張ろう。
先週末、駐車中に当て逃げされバンバーが歪んでしまった車を修理に出しに行くと、なんとバンパー交換で7万3千円かかるといわれる。
何も悪いことをしていないのに7万円も取られるのかよと泣き叫んでいると保険屋さんが現れ、5万円までは免責(自腹)の契約だから残りの2万3千円を保険で払いましょう、ただし来年の契約は3階級ダウンで、保険料が上がると言う。
それでもそっちの方がいくらか得なので、車を修理屋さんに置いて電車で帰ってきたのだが、家に入ろうとしてあらビックリ。キーケースを車のなかに置き忘れてきてしまったではないか。
★ ★ ★
生きているのが嫌になる週末を過ごし、気の重いまま出社するとすぐに電話が鳴り、「本の雑誌」2012年10月号の20冊の追加注文。一気に気分回復。その勢いを借りて、今月の新刊『SF挿絵画家の時代』大橋博之著の見本を持って取次店さんを廻る。
御茶ノ水、飯田橋、市ヶ谷を経て会社に戻ると御茶ノ水のM書店さんから「本の雑誌」11月号用のPOPが出来たと連絡が入る。早速Yさんのところへ取りに伺う。こういうとき本当に神保町は便利だと実感する。Yさんから一度会いたかったらしいんですよと同僚のMさんを紹介される。
夕方、新宿の池林房へ。坪内祐三さんに司会をお願いし、三浦しをんさん、西荻窪の音羽館さん、目黒さんの座談会を収録。こちらは10月刊行予定の『古本の雑誌』に掲載予定。
猫目に向かう一向と別れ、帰宅。家に着くと同時に豪雨と雷。ぎりぎりセーフ。しかし5万円は降って来ず。
本日は自動販売機でなく、豆香房のアイスコーヒー。
午前中は、企画会議。
午後からの営業は、田園都市線と東急東横線をジグザグ。
夜、神保町に引っ越して以来、毎月のように本の雑誌社へ顔を出し、「今月遊びに来た人」欄のレギューラーとなっている青土社の営業マンE氏と酒。新宿・池林房に行くと誰が入れたのかわからないけれど「本の雑誌社」と書かれた「いいちこ」のボトルが出てきたので、それを飲み切る。
E氏と酒を飲むのは初めてで、もし暴れだしたりしたらどうしようかと思っていたが、ものすごく静かに酒を飲む人だった。
本日も当たりくじ付き自動販売機で「サントリー天然水」を買う。
この手の自販機は実は当りなんてないんだろうと考えていたのだが、昨日息子が自宅近くの自販機で当りが出、仮面ライダーサイダーを2本ゲットしていた。
そうか当りがあるのか。ならばやっぱり最後まで見つめていなければならない。
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3。
「本の雑誌」2012年10月号ができあがってくる。
特集は謎多き出版社、国書刊行会なのであるが、実際に訪れてみるとまさに謎だらけで素敵な出版社だった。ぜひ本誌をご覧ください。
昼、突如、白水社カレー部の皆さんがカレーとご飯と皿とスプーンを持ってやってくる。部員のひとりが南インド風カレーを作ったとかで、そのおすそわけというか食べる場所がないからやってきたらしい。
電子レンジでチンし、食した南インド風カレーは、甘さ、辛さ、そして酸味が絶妙にマッチしており、編集発行人の浜本は「うまいっすねえ」と何度も連発しながらあっという間に平らげ、「来週もよろしくお願いします」と頭を下げていた。本の雑誌社に社員食堂が誕生するかも。
営業。西武池袋線。秋津のO書店さんでヴァンフォーレ甲府のサポーターである書店員Hさんから文芸書の新担当者さんを紹介される。その際、Hさんは「こちらがレッズサポの本の雑誌社の営業の杉江さんです」と妙な紹介したのだが、その瞬間、新担当のAさんの顔色が一気に曇っていった。
なんだ?!と思ったらHさんは笑いながら「AはFC東京サポなんです」と教えてくれる。
夜。本屋大賞の会議。10回目に向けていよいよ始動。
中央線を営業していると、事務の浜田から「会社の近所で火事です」というメールが届く。日本一燃えやすいであろう街で火事? あわてて会社に電話をいれると、興奮気味の浜田が「50メートルほど離れた飲食店が燃えており、一帯が煙く、社内も焦げ臭い匂いがする」と話す。
ひとまず会社は安心らしいのでそのまま営業を続け、夕方会社に戻る。すずらん通りや周辺の道路には多くの消防自動車が停まり、消火活動が続いていた。本の雑誌社が入るビルの通りには「立入禁止」の黄色と黒のテープが貼られていたので、これは仕方ない直帰かと思ったが、警察官がテープをあげて入れてくれたので、会社に戻る。
夜、どこからか音楽隊がやってきて、すずらん通りを演奏して歩いていたが、あれは何だったのだろうか。
夜、東京堂書店神保町店で行われた川本三郎さんと坪内祐三さんのトークイベント「東京の記憶を語る」を拝聴。かつて両国駅が終着駅だったとは知らなかった。そして現在の開発は地形も変えてしまうというのには恐ろしさを感じる。お二人が絶賛されていた野口冨士男氏の本を読もう。
また暑くなってきた。もう夏はいい。引っ込んでいて欲しい。
通勤読書は、絲山秋子の『イッツ・オンリー・トーク』(文春文庫)再読。
この文庫解説はかつてM書店さんなどで活躍されていた書店員・上村祐子さんが書かれているのだが、改めて読みなおしてみると刺激的な文章にあふれている。
「私は、十九歳の頃から書店員を始めて直感だけで仕事をしてきました。『イッツ・オンリー・トーク』の配本のときに、ひとめ惚れ。そういう本にはなかなか出会えないものです。最近は特に出会えません。みんな事前に知らせてくれるからです。『これ面白いよ』『初版◯千部だからさ』『映像化きまっているから』とか。自分でも事前に調べているということもありますが。もちろん恵まれた状況にあると思います。けれど次、何がおもしろいか、誰が売れるのか? そんなことどうだっていいんです、うんざりしています。あの時のように自分の勘だけで売れるものを決められたらなぁ。と切実に思っています。」
上村さんがあの頃と振り返っているのはおそらく『イッツ・オンリー・トーク』の単行本発売時だから2004年、今から約10年だ。確かにあの頃は本が売り出される前に書店員さんにゲラが配られるなんてこともほとんどなく、またそれを読んだ感想がTwitter上で共有されるなんてこともなかった。だからあの頃書店員さんたちは、読者と同じタイミングで本を読んでいたし、多くは自分の興味のある本を読んでいたのだ。そして新刊の段ボールを開け、予想もしなかった本に出会う時、上村さんと同様に本から伝わるすべてのものを感じようと自身の勘を研ぎ澄ませていたのだ。
今と過去とどっちが良いのかなんて比べても仕方ないし、比べようもない。そして今だって上村さんと同様に勘を研ぎすませて本を売っている書店員さんもたくさんいるだろう。ただ上村さんの結びの一文は、どんなに時が経っても、そしてそれは書店員さんだろうが出版営業マンだろうが関係なく、忘れてはいけないことだと思う。
「『本』を売ることは大変です。食べ物のように『美味しい』なんてすぐにはわからないし、しかも腐らない。『本』は一人ひとりの感動の幅が違う。だからなるべく振り幅を多く持った感性が必要です。けれど、私がなくしてはいけない、失ってはいけないものは『この小説は何としても売りたい』という直感を信じ行動に移すことだと思っています。」
私も直感を研ぎ澄まし、行動に移していかなければならない。
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自動販売機は「5556」だった。
紀伊國屋書店新宿本店さんを覗くと前回訪問時はほとんど売り切れだった噂の「ほんのまくら」フェアに、ずらりとその書き出し部分だれが印刷されたかっこいいカバーで包まれた本が並んでいた。未だ注目は衰えていないようで、多くのお客さんがその棚の前で足を止め、何冊も本を抱えているのが印象的だ。
この10年近く、書店も出版社も「外したくない症候群」にかかったお客さんのために、いかにその本が面白いか、その本を読むとどんな気分になるかを伝え保証することによって売ることに苦心してきたのだと思うのだけれど、この「ほんのまくら」フェアは本の内容どころかタイトルも著者名も隠し、まるで駄菓子屋さんで糸を引いてアメを引っ張るような楽しさによって本を買わせることに成功したのである。
売り場の人に伺うと「フェア棚の前でお客さんがこれ買ったんだなんて話しコミニケーションツールになっているのがすごいですよね」と予想外の反応に驚かれていたが、ものを買う喜びには本来そういう楽しさがあったのだと思う。
地下にある仕入部に伺う途中、たまたま開いていた休憩室の扉の向こうに、納品された「ほんのまくら」フェア用の本に一生懸命カバーを巻いている書店員さんの姿があった。なんだかその背中からは本を売ることの楽しさが、びんびん伝わって来るようだった。
週末本屋さんをぶらついていたら、いつの間にか新装改訂版が出ていたらしい『海女の群像』岩瀬禎之(彩流社)を発見。値段も見ずに購入する。これはいくらだって買わなきゃいけない。人生にはそういうときがある。
というわけで通勤読書は以前古本屋さんで買っておいた『海女小屋日記』田仲のよ(新宿書房)を読む。いつ頃からか民俗学までいかないけれど、こういう暮らしぶりを綴った本が好きになっている。
本日は週2回の豆香房DAY。
いつもどおりアイスコーヒーのSサイズを頼むが、お店にいる三人のお姉さんが例の自動販売機のように「3」「3」「4」と数字を唱えだすのではないかと不安になる。
ゲリラ豪雨を避けながら『はるか南の海のかなたに愉快な本の大陸がある』を20冊抱えて、東京堂書店東中野店に直納。予想通り週末の人出がすごかったらしい。
その後、何軒もの書店さんを訪問したが、聞こえてくるのは文芸書の凋落ぶり。ある取次店さんのデータによると7月の文芸書の売上は対前年20数%ダウンというから恐ろしい落ちっぷりだ。
果してそれは読者が文庫へ移行していることを示しているのか(文庫の売上は対前年1%アップぐらいだとか)、それとももう小説は読まずロングブレスダイエットに勤しんでいるのか、あるいはスマホに指をのめり込ませているのかもしれない。
そんななか本日売れている聞いた本を列挙しておこうと思う。『楢山節考』深沢七郎(新潮文庫)、『戦後史の正体』孫崎享(創元社)、『聞く力』阿川佐和子(文春新書)、『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル(みすず書房)など。
通勤読書は、椎名さんの『続岳物語』(集英社)。文庫本も定本も持っているのだが、何度も手にした小B6のハードカバー版がいちばんしっくり来る。
『岳物語』を初めて読んだのは10代の終わりのちょうど今頃の暑い夏の終わりで、その頃自分の生き方を模索していた私は、この中の父親である椎名誠に猛烈に憧れ、一気に心酔していったのだった。
それから20年以上経った今、私は子を持ち、そして互いの年齢が当時の椎名さんと岳君とほぼ同じになると、すっかり椎名さんと同じ父親目線で『岳物語』で読んでいた。そして最終章「出発」では、『岳物語』を読んで初めて号泣してしまった。
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本日の自動販売機は「3334」。
オープンしたばかりの東京堂書店東中野店を訪れると、お客さんがいっぱいで溢れていた。しかし午前中はこれ以上に混んでいたらしく、店員さんも居場所がないほどだったとか。百数坪の店内は、ぐるっと見まわるにはちょうどいい広さで、しかもそこかしこに遊び心というか本好きの心をくすぐる品揃えがされていた。なんだかうれしい開店だ。
夜、私のことを「出来の悪い兄」と考えているフシのある角川グループパブリッシングの営業Hさんの誘いで、夜は居酒屋に変身するカレー屋「トプカ」へ。ハヒハヒ言いながらカレーを食べているおじさんやカップルの隣で、店員さんが薦める「鮪の中落ち」や「鶏の半丸揚げ」を食べる不思議さ。しかし居酒屋メニューも美味しければ、〆に食べたカレーも絶妙だった。今度はきちんと昼に来たい。