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8月30日(木)

  • 狼の群れと暮らした男
  • 『狼の群れと暮らした男』
    ショーン エリス,ペニー ジューノ,小牟田 康彦
    築地書館
    2,640円(税込)
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 年に一度の健康診断。昨年までは新宿の一般病院で受診していたのだが、今年から歩いていける御茶ノ水の出版健保にて行う。出版健保の健康診断会場はそれ専用になっており、用意された診察着に着替えると受付番号ごとに様々な検査へ一斉に動き出す。

「1番から5番の方身体測定へ。6番から10番の方レントゲン撮影へ」

 まるで鵜飼に操られた鵜のように検査を終えていくのだがしかし、なんだか健康診断を受けているのが中高年ばかりなのである。

 腹の出たおっさん、禿げたおっさん、ちびのおっさん(私)そんな人ばかりが着ているだけで憂鬱になりそうな診察着を着てウロウロしている。明日の出版界を変えよう、1ページでも面白い本を作ろうという活力にあふれた若者は一人もいないのだ。

 さすが斜陽産業。そういう若者はもう出版業界を目指さないのだ......としばし本気で落ち込んでいたのだが、椅子の上に置かれてあったパンフレットを読むと、私が受けているのは40歳以上が受ける「成人病検診」なのだった。

★   ★   ★

 昼前に検診終了。バリウムにグロッキーされながら出社。下剤の効果がいつ来るのかわからないので、しばし社内でデスクワーク。

 驚くべきスピードでバリウムを体外に排出後、池袋や高田馬場などを営業。

 旭屋書店さんはリニューアルを終え、落ち着かれた様子。もうしばらくすると併設するスターバックスもオープンするらしい。またジュンク堂書店さんでは、なぜか田口さんから「なんかあったらお金出すから言いなさいよ」と本の雑誌社のことを妙に心配される。「大丈夫です、大丈夫です」と笑いつつもなんだか涙があふれてくる。

 目黒さんが配本や営業をしていた頃、いつも田口さんと会うと2時間も3時間もお茶をしながら本の話や出版業界の話をしていたらしい。目黒さんに当時のことを訊くと「田口さんには本当にいろんなことを教わったんだ」ととても楽しそうに振り返る。そんな目黒さんとの関係を受け継ぐようにして、私は田口さんの『書店風雲録』を作らせてもらったのだ。

「田口さん、いつまでも元気にお店にいてくださいね」

 もう何度かけたかわからない言葉をかけると、隣で平台の整理をしていた若い書店員さんも大きく頷いていた。

★   ★   ★

 帰りに朝日新聞三八広告で見かけた『狼の群れと暮らした男』ショーン・エリス+ペニー・ジューノ著(築地書館)を購入。

8月29日(水)

 朝、金管バンドの練習に行く小学校6年生の娘と玄関で一緒になる。靴を履く娘に「ひとりなんだから黄色コースで行くのよ」と妻が声をかける。

 黄色コースとは人通りの多い国道を歩く通学路であり、それだけひと目に付くから安全度が高まるのだが、学校まで遠回りすることになってしまう。ただでさえ私の家は学校まで遠く、娘の足でも15分はかかるというのに黄色コースでは20分以上かかるのだ。

 小さく「めんど」と言った娘の肩を叩き、「いいよ、パパがいつものコースで歩いていくよ」と声をかけた。

 自転車を押して、いつもの通学路を歩き出す。頭上にはすでに日中であるかのような太陽がのぼり、あっという間に額を汗が流れ落ちる。肩を並べて来るだろうと歩道の右側を開けていたのだが、何時まで経ってもその空白は埋まらない。

 振り向くと3メートルほど離れたところに娘は立っている。
 私が歩き出すとまた背後で足を音が聞こえ、信号待ちの間もその距離は変わらなかった。

 娘が生まれるとすぐ引っ越したこの区画整理地は、当時まだ道路にアスファルトも敷かれておらず、私の家と数軒しか家が建っていなかった。遊びに来た友人は「よくこんなところに住むよな」と驚いていたが、今はもう私と娘の歩いた道もアスファルトが敷かれ、歩道には街路樹が植えられており、両脇には多くの住宅が建ち並んでいる。

 学校の前で別れた娘は、校門に入る途中で一度振り向き、そして校舎に消えていった。


★   ★   ★

 読書仲間がTwitterで宮部みゆきの『ソロモンの偽証 第一部 事件』(新潮社)を読み終えたと呟いていたので、全3巻出揃う前に読んでも大丈夫か確認する。宮部みゆきだから当然登場人物の書き分けもしっかりしているし、ストーリーも魂を持っていかれるほどだから逆にインターバルを置いて読んだほうかいいかもよとのこと。全巻刊行を待たずに読み始めることを決意する。

 常磐線を営業。
 配達に行っていたO店長さんには会えなかったが、千駄木の往来堂書店では思わず営業を忘れ、しばし棚を眺めてしまう。品揃えに関しての、お店の人の目線とお客さんの目線のバランスが最適なのだ。

DSCF2364.JPG


 その後、北千住、松戸、新松戸などを営業。
 松戸の良文堂書店さんでは私も参加させていただいている「出版営業ガチンコ対決 Round-8」フェアが開催中(綾瀬店、八千代台店でも開催中)。売上によってフェアスペースをいただけるこのフェアは(逆に悪いと参加権を失う)、まさに「PRIDEを賭けた闘い!!」だ。

 明日の健康診断に備えて直帰する。

8月28日(火)

  • 光圀伝
  • 『光圀伝』
    冲方 丁
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    6,058円(税込)
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 本日の自動販売機。「7778」

 ふと考えてみると今営業で懇意にしてもらっている書店員さんの多くが5年、10年の付き合いで、なかには私が本の雑誌社入社以来ずっと面倒を見てもらっている書店員さんも少なくない。

 ただそれも初対面のときにそういう付き合いになると考えていたわけでなく、毎月の訪問を重ねた結果なのだった。

 どうしてもその日の注文ばかりに意識がいってしまい、なかなか長い目で営業を捉えることが難しいのだけれど、今日出会った書店員さんとも5年、10年の付き合いになるかもしれず、そういった出会いを大切にしていかないと私の10年後もないのだろう。今の付き合いだけに満足しないよう注意しなければならない。

 ここ半年くらい営業がスランプだったのだが、改めて営業の楽しさを味わうことができるようになってきた。

 渋谷を営業。
 リブロ渋谷店が、パルコブックセンター渋谷店へリニューアルされており、あの懐かしいオレンジ色とお店のロゴが戻ってきていた。(ブックカバーも当時のものになっているそうだ)それこそ以前ここがあのパルコブックセンターだったとき、私は右も左もわからず、当時の店長だった矢部さんを追いかけるように営業していたのだ。

 その後山下書店渋谷南口店を訪問するとKさんから「すごい面白かったですよ!」と冲方丁の待望の新作『光圀伝』(角川書店)の話をされる。それはすぐに読みたいのだけれど、本はまだ出ていないのだった。ううう。

 4時に会社へ戻り、高野秀行さんと『謎の独立国家ソマリランド』の単行本打ち合わせ。スケジュール、造本、装丁など意見をすり合わせる。打ち合わせを終えた後、石井スポーツで高野さんの買い物に付き合い、その足で魚百へ。高野さんはこの後新宿で他の出版社と打ち合わせがあるそうなので、その時間まで酒を飲む。

8月27日(月)

  • ブルックリン・フォリーズ
  • 『ブルックリン・フォリーズ』
    ポール オースター,Auster,Paul,元幸, 柴田
    新潮社
    11,616円(税込)
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  • 百年法 上
  • 『百年法 上』
    山田 宗樹
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    1,998円(税込)
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 白水社WEBで連載している「蹴球暮らし」第30回「コーチ」を更新。
 いつの間にか30回も続いていたことに驚く。来春の娘の卒団まで書ききる予定。

★   ★   ★

 通勤読書は「本の雑誌」2012年8月号で佐久間文子さんが「親しい人にとっておきの話を聞かせるような語り口に魅せられた」と紹介していた『ブルックリン・フォリーズ』ポール・オースター(新潮社)。本当は先週取っていた夏休み中に読む予定だったのが、終始子どもがまとわりついてきて、1ページも読めなかった。今日から読み始める。

「豆香房」のアイスコーヒーは週2回の贅沢(200円だけど)としており、それ以外の日は建築関係の専門書店南洋堂書店の路地を入ったところにある自動販売機で「サントリー 天然水」(100円)を買っている。

 しかしこの自動販売機、当たりクジ付きで購入すると4桁の数字がピコピコ回り出すのだが、すべてリーチがかかった上で最後の1桁が止まるまでに異様に時間がかかる。

 その間に他の人が自販機で飲み物を買おうと私の背後に並ぶことも多く、そうして並んだ人は早く飲み物を買って会社に出社したいわけで、私に向かって早くどけよという光線を送ってくるのであった。

 私は決してたかだか100円の水をもう1本欲しいわけではないのだが、まるでパチンコ屋でハイエナされるように私の当りを他人に奪われるのは気に入らない。というわけで毎朝、いかにもペットボトルが機械の出口に引っかかったような芝居をしつつ時間を稼ぎ、最後の数字が止まるのを待ち望んでいる。

 本日の番号「2223」。

 発売になったばかりの『自由でいるための仕事術』森永博志著、9月刊『SF挿絵画家の時代』大橋博之著と10月刊『本の雑誌別冊 古本の雑誌』の営業。

 三省堂書店有楽町店、教文館、八重洲ブックセンター本店、タロー書房、りんご屋清澄白河店、しまぶっくなどを訪問。宮部みゆき『ソロモンの偽証 第Ⅰ部 事件』(新潮社)、伊藤計劃、 円城塔『屍者の帝国』(河出書房新社)など話題作が出揃い文芸書は賑やか。しかし途中で会ったF社の営業マンUさんから各書店の文芸書棚の縮小の話を聞かされる。文芸書はもはや専門書という扱いらしい。

 夜は書店員さんと飲み会。もうみんな文庫サイズで低価格にして本を出せばいいよという意見になんだか納得行かず反論してしまった。

 角川書店の営業Yさんが『百年法(上下)』山田宗樹(角川書店)を「絶対、読んでください!」と叫んでいた。あれはおそらく酒の力でもなく、営業の力でもなく、本の力だったと思われる。次、読もう。

8月9日(木)

  • ユリイカ2012年9月臨時増刊号 総特集=平成仮面ライダー 『仮面ライダークウガ』から『仮面ライダーフォーゼ』、そして『仮面ライダーウィザード』へ・・・ヒーローの超克という挑戦
  • 『ユリイカ2012年9月臨時増刊号 総特集=平成仮面ライダー 『仮面ライダークウガ』から『仮面ライダーフォーゼ』、そして『仮面ライダーウィザード』へ・・・ヒーローの超克という挑戦』
    白倉伸一郎,國分功一郎,高岩成二,井上敏樹,宇野常寛,川上弘美,井上伸一郎,福士蒼汰,井上正大,綾野剛
    青土社
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  • 出版屋の考え休むににたり: 出版屋の考え休むににたり
  • 『出版屋の考え休むににたり: 出版屋の考え休むににたり』
    福元 満治
    石風社
    1,980円(税込)
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  • 医者 井戸を掘る―アフガン旱魃との闘い
  • 『医者 井戸を掘る―アフガン旱魃との闘い』
    中村 哲
    石風社
    1,980円(税込)
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 午前中、S社の営業マンE氏が「『ユリイカ』の仮面ライダー特集がバカ売れして直納直納で大変っすよ」と聞いてもいないことを叫びながらやってくる。

 しかし大変という割にはクーラーの効いた本の雑誌社に1時間以上も居座り、例によって饅頭やらせんべいをパクパク食べ、冷たいお茶を何度もお代わりしていった。私もいつか彼のような堂々たる営業マンになりたい。

 通勤読書は『出版屋(ルビ:ほんや)の考え休むに似たり』福元満治(石風社)。『世間遺産放浪記』や『藁塚放浪記』(ともに藤田洋三著)や『医者井戸を掘る』中村哲著などのヒット作を出している福岡の出版社・石風社の社長である福元さんが、今まで綴ってきた本についての文章をまとめた一冊。出版社ということについて書かれた第1章「私は営業が苦手だ」は、今まで読んできたどんな出版本よりも地に足のついた内容で、同規模の小さな出版社で働く私にとっては、これから仕事をしていく上で礎になるであろう言葉に溢れていた。

 ふらふらと営業に出かけるが、なかなか書店員さんに会えず撃沈。もうこういう営業スタイルでは仕事にならないのかも。

 夜、レッズサポ仲間と暑気払い。

8月8日(水)

  • 幸福な食堂車 ― 九州新幹線のデザイナー 水戸岡鋭治の「気」と「志」
  • 『幸福な食堂車 ― 九州新幹線のデザイナー 水戸岡鋭治の「気」と「志」』
    一志 治夫
    プレジデント社
    1,980円(税込)
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    honto
 夏休みに入った息子(小学2年)が毎朝会社に連れて行けとうるさい。

 まあ会社に連れていくのは社会勉強になるからやぶさかではないし、私も小学生の頃、夏休みになると父親の工場に顔を出し、周りでバドミントンをする従業員の人たちにおだてられるまま、従業員に代わってボール盤でプラスチックに穴を開ける作業を何時間にも渡って行い、またその出来上がった部品を父親と車に乗って届けに行ったものだ。

 父親は取引先で「杉さん」と呼ばれ、重そうに機械部品を持ち運びながらも、私や家族の前で見せない表情で楽しそうに働いていた。

 私の仕事の原点はまさにあのときの父親の姿なのであるのだが、そうなると息子が今、私の会社に来た場合、この猛暑のなか営業するよりもドトールで涼む時間の長い私の姿が、息子の仕事の原点になってしまう可能性が高い。

 というわけで本日も息子を家に置いて出社。
 通勤読書は、一志治夫の『幸福な食堂車 九州新幹線のデザイナー水戸岡鋭治の「気」と「志」』(プレジデント社)。

 開店と同時に東京堂書店さんにて「本の雑誌が神保町にやってきた」棚の欠本チェック。まさかまさかの売れ行きで常設が決定したこの棚だが、相変わらず売れ行きが好調で補充が追いつかない。

 欠本調査終了後、内澤旬子さんのところに向かい、打ち合わせ。その後、腹が減ったので、白山通り沿いのとんかついもやでご飯少なめのとんかつ定食を食べ(750円)、いったん会社に戻る。本日は「本の雑誌」2012年9月号の搬入日なので、その手伝い。

 搬入後、また外に出、三省堂書店さんで9月から始まる国書刊行会40周年の話など。実は「本の雑誌」2012年10月号でその謎に満ちた出版社・国書刊行会を特集するのでその部数などを相談。

 御茶ノ水の丸善さん、秋葉原の有隣堂さんなどを覗いた後、また神保町に戻り、三省堂書店の前で待ち合わせしていた化学同人の営業マン山田さんとおちあう。山田さんはかれこれ10年ほど前に、私が関西出張する際宿泊費がないと嘆いたら部屋に泊めてくれた恩人だ。山田さんと「魚百」でしゃりしゃりレモンサワーを飲みながら、先月出張した九州の書店さんの話などを伺う。

 7時に会社に戻り、「本の雑誌」2012年10月号に掲載する座談会の司会。酔っている頭を冷やすため水をがぶがぶ飲んで頑張る。

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