12月7日(水)

 午後、営業に出かけようとすずらん通りを歩いていたら、「杉江さん」と背後から声をかけられた。

 振り返るとそこには、おそらく一度しか会ったことのない、とある出版社の編集の方が立っていた。ずいぶん久しぶりのはずなのによく気づいたなと驚いていると、「先日、弊社の営業から2月に出す新刊のプルーフを送らせていただいたのですが、お忙しい中ご迷惑かもしれませんが、よろしければ読んでいただけましたらと思いまして」と言って、道端にも関わらず、90度腰を折って頭を下げたのであった。

 夕方、取次店の方が会社にやってきたので、いろいろと話す。その方は以前、書籍の仕入れ窓口におり、当時は毎月のように見本出しで顔を合わせていた。

「あの頃、俺が見本受付で一番見ていたのは、その本に対する熱ですよね。部外者として一番最初にその本に接する俺を説得できなくて、俺のあとに控える興味も関心もない人に手にとってもらえるわけないだろうって。だから版元の営業マンがどれだけ熱をもって本の話をするかそれをじっくり見てましたよ」

 果たして私は本のためにあんなに腰を深く曲げて頭を下げたことがあっただろうか。あるいは人を引き込むほど熱を込めて本の話をしたことがあっただろうか。

11月28日(月)

 中村計『笑い神 M-1、その純情と狂気』(文藝春秋)読了。

 これはあの、前人未到のノンフィクション賞4冠を成し遂げた鈴木忠平『嫌われた監督』(文藝春秋)と同レベルの超傑作ノンフィクションであり、そしてまた同種の、目標を達成するために狂気に取り憑かれていく人間の様を描いたノンフィクションでもある。

 私はテレビを観ないので、この本の中心人物である「笑い飯」という漫才コンビを知らなければ、その笑い飯や現在の漫才コンビがそこで優勝することを目標としている「M-1」というのもまったく知らないのだけれど、それでも380ページあっという間に一気読みだった。

 なぜならここで描かれているのは「人間」だからだ。自分と他人の評価の間で揺れ動き、それによって狂わされていく人間なのだ。誰だって大なり小なり毎日他人の評価や視線を気にし、どこかで狂わされて生きているわけだから、ここに普遍があるのだ。

「人を笑わす」というとても困難な営みにのめり込み、狂うほど真剣になっている人たち。笑いとは、漫才とは......。その深淵が覗ける狂気のノンフィクションだ。

★   ★   ★

 というわけで出社後すぐに大阪出身のお笑い大好き新人編集の前田君に貸し与える。感想が楽しみ。

 午前中は、年間ベストの書店掲示用のパネル作りに勤しむ。午後はできたばかりのパネルを持って書店さんに配って歩く。

11月21日(月)

 とある書店さんを訪問すると、売上がよくない原因にpaypay等の電子決済を導入していないのもあるかもと悩まれており、導入しているお店ってどんな感じなんですかね?と質問されたのだった。

 私が知っている範囲では、キャンペーン期間中の売上は爆上がりで、まとめ買いやら日頃いらっしゃらないお客様までやってきて、私のような営業は訪問を控えたほうがいいくらいな感じであり、しかもそのポイントバック分の原資は自治体が持ってくれたりするので負担もかからず、多くの書店さんが喜んでいると伝えつつ、もちろん手数料やキャッシュフローの問題もあることをお話し、本の雑誌社でも神保町ブックフェスティバルからキャッシュレス決済を導入し約5%の人が利用したなどと......いったい私は何の営業をしてるんだろうと思わないわけではないけれど力説は止まらないのであった。

 私自身はいまだ電子決済を使ったことがなく、新刊が出たら即買いする作家、黒川博行『連鎖』(中央公論新社)をこの日も現金で購入したのだけれど、休憩で入ったドトールでは4人並んでいたお客さんの私以外はみな電子決済で会計を済ませているのだった。

11月20日(日)

 母親から電話。入院している父親が食事を取らなくなってしまったらしい。7月に腰椎の圧迫骨折から寝たきりになり、老老介護の限界からショートステイで介護施設に預けたところそこでコロナに感染。病院に入院となり精密検査をしたところ、心臓に問題が見つかり、カテーテル手術をするも一度は成功、二度目は失敗。再度の手術待ちをしているのだけれど、コロナのおかげでお見舞いにも行けず、いったい父親は今どうなっているのだろうか。

 本日も特別副反応はなく、ただ走り回るのもなんなので、本を読んで過ごす。

11月19日(土)

  • 裏横浜 ――グレーな世界とその痕跡 (ちくま新書)
  • 『裏横浜 ――グレーな世界とその痕跡 (ちくま新書)』
    八木澤 高明
    筑摩書房
    946円(税込)
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  • 聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし
  • 『聞き書き 世界のサッカー民 スタジアムに転がる愛と差別と移民のはなし』
    金井真紀
    カンゼン
    1,870円(税込)
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 6時起床。明るくなるのを待ってランニングへ。先週20代の子たちにサッカーでチンチンにされたのが悔しく、ランニングの終盤にダッシュを取り入れる。こんなことやってもサッカーが上手くなるわけではないけれど、なにかしないと悔しさが晴れないのだった。

 10時に息子と病院に行って、4度目のワクチン接種。病院はコロナワクチンとインフルエンザワクチンの接種に通常の診療で大わらわ。まるで先日開催された神保町ブックフェスティバルのよう。

 これまで3度は接種後、熱が出て寝込んだので、寝込むより先にベッドに入って準備万端整える。先日買い求めた八木澤高明『裏横浜』(ちくま新書)と金井真紀『聞き書き 世界のサッカー民』(カンゼン)を読み終えるも、一向に熱があがる気配もなく、初めてのファイザーのおかげか4度目の正直ということで副反応はなく終了。

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