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8月29日(金)

  • ROADSIDE BOOKS ── 書評2006-2014
  • 『ROADSIDE BOOKS ── 書評2006-2014』
    都築 響一
    本の雑誌社
    2,200円(税込)
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 三省堂書店有楽町店さんへ『この子オレの子!』を直納。
 それにしてもこのお店はいつ来ても楽しい気分にさせられる。売る側にも買う側にもエネルギーがあふれていて、なんだかお祭りにいるみたい。

 その後、東京駅へ。あまり本の街、本屋さんの街と認識されることのない場所だけど、実はここ数年東京駅近辺は大型書店にセレクトショップと様々なタイプの本屋さんが店を構える本屋散策にはとっておきの場所だったりする。

 おすすめのコースは、駅ナカ「BOOK EXPRESS」→八重洲地下街「東春堂」→八重洲南口「八重洲ブックセンター」→日本橋「丸善日本橋店」→八重洲地下街「R.S.Books」(古本屋)→八重洲北口「三省堂書店東京駅一番街店」→丸の内北口「丸善丸の内本店」→丸ビル「ふたば書房丸ビル店」→KITTE「マルノウチリーディングスタイル」と東京駅周辺をぐるっと一周するコース。

 立地やサイズによって本屋さんってこんなに違うんだと驚かれるだろうし、最後の2店「ふたば書房丸ビル店」と「マルノウチリーディングスタイル」では、それまで合計3千坪以上の棚を見たにも関わらず気付かなかった本に出会えるはず...ってすっかり営業を忘れ......。

 夜、紀伊國屋書店新宿本店さんにて『ROADSIDE BOOKS』の出版記念イベントで都築響一さんのトークショー。

 担当のAさんとMさんが最近都築さんがハマっている盆踊り仕様にイベント会場を飾り付けしていただく凝りようにうれしくなる。しかも7階の売り場では都築さんおすすめの本が並ぶフェアも開催していただき、そこにはあの傑作写真集『張り込み日記』(roshin books)も並ぶ。

 出版記念イベントは今日で4回めなのだが、今回もほぼ満員。どれだけ人気があるんだろうと驚くけれど、トークを聞いていていつも思うのは、やりたいことはやればいいんだよ、やる方法はいくらでもあるんだよという都築さんからの強烈なメッセージ。

 この日紹介されたカーボン紙を挟んでタイプすることで5部だけ製作された本やレントゲン・フィルムに溝が掘られたボーンレコードなど、まさに作らずにいられないものたち。

 作る側にいる私に突きつけられるのは、「お前にそこまでして作りたいものがあるのか?」という強烈な問いなのであった。

8月28日(木)

  • サンリオSF文庫総解説
  • 『サンリオSF文庫総解説』
    牧 眞司,大森 望,大森 望,牧 眞司
    本の雑誌社
    1,980円(税込)
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『サンリオSF文庫総解説』の校了日なのだが、出てくるはずのものがまったく出てこず、ジリジリと苛つく。約束を守れないなら約束はしないほうがいい。信用はこうして失われていくのだ。

 夜、エンタメノンフ文芸部の暑気払い。浅草橋の「ジョンティ」。アルザス料理と聞いて偏食の私に食べられるものがあるだろうかと心配していたのだが、どれもシンプルな味付けでメチャウマだった。また行く。

8月25日(月)

  • 大江健三郎自選短篇 (岩波文庫)
  • 『大江健三郎自選短篇 (岩波文庫)』
    健三郎, 大江
    岩波書店
    1,518円(税込)
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  • 近世物之本江戸作者部類 (岩波文庫)
  • 『近世物之本江戸作者部類 (岩波文庫)』
    曲亭 馬琴,徳田 武
    岩波書店
    1,122円(税込)
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 リブロ池袋店Yさんを訪ね『サンリオSF文庫総解説』のフェアの相談。最近面白かった本の話などしていると、何の流れか『大江健三郎自薦短編』の話題になり(とても売れているらしい)、岩波文庫の棚の前に移動。そこで「これ、めちゃくちゃ面白いんだよ」と教えていただいたのが、曲亭馬琴著『近世物之本江戸作者部類』。こ、これは面白そう! ありがとうございます。

 その後、東中野、高円寺などを営業。とある書店さんのバックヤードの壁一面に貼りだされていたスリップに興奮。次回改めて管理方法を伺ってみようと思いつつ帰社すると、ちょうど本屋大賞実行委員会事務方のU社のSさんが総会と理事会の議事録を持ってきたので、ハンコを押す。

 一息ついたところで浜本に呼ばれ『サンリオSF文庫総解説』のカバーのラフ案を見せられる。ああでもないこうでもないと営業的視点を伝える。紀伊國屋書店新宿本店さんから電話があり、今週金曜日29日に行う都築響一さんのイベント分の注文をいただいたので、直納の準備をして仕事終了。

 会社を出たところで妻からメールが届く。私の海パンが見つからないという。
 実は明日休みを取って息子をプールに連れて行く予定なのだが、そういえば去年まで履いていた海パンはゴムが伸び伸びになって、飛び込みをしたらいつ半ケツになってもおかしくない状態だったから捨てたような気がする。というわけでVictoriaに寄って、海パンを購入して帰宅。

8月22日(金)

 夜、本の雑誌社にて白水社カレー部の会が開催されるのだが、私は美術書系出版社のフットサルチーム「アルトムント」の練習会へ。カレーとサッカーなら断然サッカー。焼き肉とサッカーでもサッカー。すき焼きとサッカーだと3分悩む。

 東武練馬の「すこやかプラザ」にて2時間。今回の参加出版社は、芸術新聞社、東京美術、西村書店、芸艸堂、BNN、PIE BOOKS、日貿出版社、国書刊行会、技術評論社、本の雑誌社。今日でチーム発足1年らしい。

8月21日(木)

 家に帰ると、塾の夏期講習に行ってるはずの娘の靴が玄関に並んでいた。
 具合でも悪いのかとリビングを覗くと、そこには疲れ切った表情をした妻がひとり立っていた。

 我が全神経がすぐさま退去せよと緊急警報鳴らしているが、もう逃げられる状況ではなかった。
 妻は私をロックオンすると今日の午後起こったことを一気に話しだした。
 塾に行こうとした娘は夏期講習のテキストが見つからず大騒ぎしだし、しまいには勝手に荷物を整理する妻に逆ギレしたらしい。そしてよくよく聞いてみれば中学校の夏休みの宿題をほとんどやっておらず、塾に行くどころじゃなくなったという。

 これは報告のように見えて実は命令なのである。娘が風呂から出てきたら、舐め切られている自分に変わって叱り飛ばせという厳命なのだ。

 そうは言っても私はその場に居なかったから腹は立っていないのである。怒っていないのに怒るにはどうしたらいいのか。浜本とか浜田の顔を思い浮かべればいいのだろうか。いや今日はたいして二人と接していないから怒りも何も湧いて来ない。うーん、しかしここで怒らなければ妻の怒りが私に向かってくる可能性が大きい。

 悩んでいると娘が風呂から上がってきた。
 場の空気がおかしいのは理解しているようで、すぐにリビングのテーブルに広げた宿題にかかりだす。

 妻が私のことを見つめている。
 ゴール前にボールを出したのだからゴールを決めろということらしい。
 
 あっ! 浦和レッズのことを思いだせばいいのだ。リーグでは首位というもののここ数試合敗戦も多く、また勝利した日もすっきりしない勝ち方ばかり。引いた相手にぐだぐだボールを回す消極的サッカーも見飽きているのだ。それどころか昨日の天皇杯ではJ2のザスパクサツ群馬に逆転負けし、2年連続の3回転敗退を期したのであった。

 ああああ、ムカムカしてきた!

「こら! お前、何してんだ! 塾も行かねーでテキストなくしやがって、しかもそれを母ちゃんのせいにするとはどういうことだ! どうしていつも同じ交代しかしねーーんだよ。原口元気の穴埋めの補強はないのかよ!! えっ! 優勝する気あるのかよ、おい答えてみよろ、こら!!!」

8月20日(水)

 担当編集である浜本がゲラを読んで何度も涙した、中場利一さんのまさかの育児エッセイ『この子オレの子!』が搬入となる。

 出社して初めて取る電話が注文か返品か。それによってその日一日の運勢が決まる出版営業占い。本日は、夏100を特集した「本の雑誌」9月号の追加注文10冊。いいことあるはず。

 午前中、単行本の企画会議。

 午後、書店さん向けDM作りに勤しむ。10月刊行の森山伸也著『北緯66.6°』と11月刊行の小山力也著『古本屋ツアー・イン・神保町』のチラシを作る。

 夕方、編集右腕のカネコッチがやってきたので諸々遅れている進行を再調整。

 事務の浜田が夏休みのためサボれず駒場に行けず、19時仕事終了。秋葉原まで歩く。

 靖国通り小川町交差点を渡ってすぐ、いつも行列のラーメン屋「二代目つじ田」の並びにある古本屋(「安い本」という看板が出ているお店)の店頭本を覗くのが楽しみ。すると新書の店頭棚に「本の雑誌」9月号、共立中学高等学校の図書室取材でその存在を知った「平凡社カラー新書」がずらりと並んでいた。

 このシリーズは今では考えられないほどカラー写真や図版が多く丁寧に作られており、なんと今では大ベストセラー作家となった佐伯泰英のデビュー作『闘牛』も出版しているのであった。

 一瞬全部購入しちゃおうかと思ったが、そうすると全作(100冊くらいあるらしい)揃えないと気が済まなくなりそうなので、『日本の城』『日本の石橋』『発掘』『大相撲』を購入。『大相撲』(すべて216円)の著者は、敬愛する山口瞳氏の先生である高橋義孝氏。

 

IMG_6291.JPG



 東浦和駅で、東浦和中学校とともに全国大会に出場した尾間木中学校サッカー部の子を見かける。たくさんの荷物を抱えているところをみると高知で行われている大会から帰ってきたところらしい。残念ながら2回戦で敗退してしまったが、真っ黒に日焼けしている身体と着ている大会記念Tシャツは一生の宝物だろう。思わず「お疲れさま!」と声をかけると「ありがとうございます」とぺこりと頭を下げた。

 帰宅後、息子にその話をし、パパもあのTシャツが欲しかったなとこぼしたら、「大丈夫。僕がもらってパパにあげるから」と胸を張る。
 22時、娘を塾に迎えに行ってから共に夕食。
 平凡社カラー新書をコンプリートするかしばし悩みながら就寝。

8月19日(火)

 引き続き猛暑。
 どんなに暑くても、そこに本があるかぎり営業。

 恵比寿の有隣堂さんはリニューアルしつつの営業で完全に出来上がるのは10月下旬とのこと。

 夜、NPO本屋大賞実行委員会の理事会・総会。
 なんだかみんな頭が良いよなあとうちひしがれる。

 とりあえず、第12回は開催決定。

8月18日(月)

 事務の浜田が夏休み。慣れない事務仕事に四苦八苦。
 
 夕方、三泊四日の少年団の合宿から帰ってくる息子と妻を迎えにいくため早退。

 ここ数日気持ちが塞ぎ込んでいたのは、息子の顔が見られなかったからのようだ。
 子どもって何なんだろう。

8月15日(金)

 朝、少年団の合宿に向かう息子と世話役として付き添う妻を車で送る。

 東京駅から高速バスに乗ってお墓参り。いつも一緒にいたような2年間を振り返る。

 夜、春日部の実家へ。先に来ていた娘とともに週末居候。

8月14日(木)

 横浜の有隣堂西口店さんがリニューアルオープン。
 地下街のメイン通路に面した場所に移転され、お客さんでいっぱい。
 こちらは、みんなこんなに本を必要としてくれているのかと胸がいっぱい。
 文芸書の棚も多く、これからとても楽しみ。

8月13日(水)

 お盆休みは取らずに出社。
 同じく出社しているらしい青土社のエノくんを覗きにいくと、真剣な表情でパソコンを見つめ、エクセルで常備のリストを作っていた。どうやら人が休んでいるときに働き、ポイントを稼ごうとしているらしい。私と一緒だ。缶コーヒを差し入れ。

8月12日(火)

 山岳ライターの森山伸也さん来社。
 10月出版予定のノルウェー、フィンランド、スウェーデンの三国をまだぐ北極圏トレイルを歩いた旅の記録『北緯66.6°(仮)』の写真をセレクトする。
 あまりに素晴らしい写真が多く、カラーページを増やせないか見積りをやり直す。

 社内は9月刊の『サンリオSF文庫総解説』の編集作業山場を迎え、殺気立っている。
 こういうときは近寄らずにとっとと帰る。

8月11日(月)

 浦和レッズの堅守は復活しないのに猛暑は復活。そんななか今月の新刊『この子オレの子!』の見本を持って取次店さんを廻る。

 これまで見本出しは、9時30分に御茶ノ水の日販さんからスタートし、飯田橋のトーハンさん(徒歩12分)、トーハンさんから徒歩3分の太洋社さんと廻り、その後、東五軒町から上野公園行きのバスに乗車、春日駅で降りて大阪屋さんを訪問(徒歩3分)。それを終えると後楽園から南北線に乗り込み市ヶ谷へ移動し、最後に地方小出版流津センターさんへ(徒歩10分)というルートで行ってきたわけだけれど、これも仕入れ窓口の混み具合によってすぐに破綻する綱渡りのルートであり、勝負の分かれ目は10時43分東五軒町発のバスに乗れるかどうかにかかっていたのである。

 しかし今月下旬には太洋社さんが外神田(末広町)へ移転するそうで、果たしてその場合どう廻ればいいのだろうか。見本出しは基本的に午前中に完了しなければ翌日回しになってしまうわけで、これはもうひとりでは無理かもしれない。世間ではまったく話題にならない問題であるけれど、出版営業マンにとっては死活問題であり、各社の営業マンがお盆休み返上で新規ルートの開拓にあたっているという噂である。

 午後、見本出しを終え、息も絶え絶えになって会社に戻る。クーラーの前で裸になりたい衝動をぐっとこらえる。

 搬入になったばかりの「本の雑誌」9月号を助っ人がツメツメ作業しており、この作業に交じれれば私の一日は終ったも同然なのだが、なぜか人手不足に関わらず事務の浜田から声をかけられない。

 そうこうしているうちに電話が鳴り、紀伊國屋書店新宿本店さんから『謎の独立国家ソマリランド』の注文が入る。普通に処理していたのでは物流倉庫の休みの関係で納品がお盆明けになってしまうため、何度もクーラーを振り返りながら直納に向かう。そのまま干からびるまで営業。

 帰宅後、ランニング。
 営業で散々歩いているにも関わらずまた走るとはどういうことなんだろうか。これは酒飲みの人が朝からビールを飲み続け、夜になったらもっと強い酒が欲しくなりウイスキーをストレートで飲んでいるようなもんだろうか。

 とある書店員さんから年末に駅伝大会に出てみないかと誘われたので、試しにどれくらい速く走れるものなのか同じ距離を思い切り走ってみる。疲れた。

8月8日(金)

 9月発売の『サンリオSF文庫総解説』の編集作業が山場を迎え、3人来た助っ人アルバイトすべてがその調べ物にあたることに。というわけで事務の浜田の陣頭指揮の元、経理の小林と私は定期購読者のラベル貼り「ハリハリ」に没頭す。

 午後、高野秀行さんが来社。私に用があるわけではなく、カネコッチからパソコンの指導を受けに来たようだ。「へえ」「すげー」「うおー」まるでSTAP細胞が見つかったかのような興奮の声をあげているのだけれど、高野さんがカネコッチに教わっているのはトラックパッドの指使いだった。
 
 夕方、8月の新刊、中場利一著『この子オレの子!』の見本が出来上がってきたので、事前注文〆作業。

 帰宅後、女に走らず、街を走る。ランニングと長友の体幹トレ。

8月7日(木)

  • 謎の独立国家ソマリランド
  • 『謎の独立国家ソマリランド』
    高野 秀行
    本の雑誌社
    2,420円(税込)
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 発売から1年半が経っても売れ続けている『謎の独立国家ソマリランド』の重版が出来上がってくる。8刷3万1千部。

 営業から戻ると沢野さんが会社に来ている。

「杉江はつまらん。酒も飲まずランニングなんかして、女だ、女に走れ」と言われる。

 残業しているとKADOKAWAのブルドーザー営業マンことヘンミーがやってくる。

「2014年ナンバー1の小説のプルーフをお届けにあがりました!」

 9月下旬に上橋菜穂子のデビュー25周年&書き下ろし作品『鹿の王』が出るそうだ。

「放心亭」へ向かうが満員で入れず(最近飲み屋が混んでいる)、「ろしあ亭」へ。ジンジャーエールで、ピロシキ、冷製牛タンの塩漬けなど。何よりもロシア的接客を愉しむ。

8月6日(水)

 午前中、「本の雑誌」の企画会議。
 用意した企画はほとんど流れ、暗雲立ちこめたところ、最後の最後に神が舞い降りる。

 昼、飯田橋へ。来年作る予定の本が今まで作ったことのないタイプの本で、どう進めたらいいのか見当がつかず、その手の本のエキスパートであるKADOKAWAの編集Kさんに教えを乞う。

 自分自身、一冊でも多く本が売れるために工夫しているつもりだったが、Kさんの話を伺っていると考えてもいない同然だった。ベストセラーはたまたま生まれるのではなく、様々な工夫の積み重ねによって作られるものなのだと実感する。

 授業を終えると、会社から編集右腕のカネコッチが出頭、もとい出社したと連絡が届く。
 ここのところ猛暑のせいか多忙せいか、カネコッチはなかなか出社せず(といってもカネコッチは本の雑誌社内に机があるだけで、フリーのデザイナーだから出社する義務はまったくない)、もし私が営業中に顔を出した際には連絡するよう罠を仕掛けておいたのだ。カネコッチが逃走する前にあわてて会社へ戻る。2時45分、カネコッチ、身柄確保。山積みの打ち合わせ。

 帰宅後ランニングしようと思ったけれど気温が下がらないので、長友の体幹トレ。

7月31日(木)

 飲み会やらイベントやらで三日連続帰りが遅くなってしまったので、朝、歯を磨いている娘の背中に「今日は早く帰ってくるから」と声をかけた。

 すると娘は、あわてて口をゆすぎ、私の顔を見て言い放った。
「早く帰ってこなくていいからちゃんと仕事して! ドトールでお茶飲んでばかりなんだから!」

 どうしてバレているんだろうか。
 もしかしたら私が使っているスマホは、GPS機能付きのキッズ携帯なのかもしれない。

 猛暑復活。
 営業に出かけた瞬間、身の危険を覚える。ふらふらとドトールに吸い込まれそうになるが娘の声を思い出し、神保町駅へ向かう。

 高田馬場の芳林堂書店さんを訪問すると新刊平台に第21回松本清張賞受賞作『推定脅威』未須本有生(文藝春秋)が多面展開されていた。聞けば初回搬入分があっという間に売り切れ、2度めの追加注文だとか。

 次なるお店を訪問しようとしたところでふと思い出す。そういえば今日は長年お世話になった印刷会社の担当者Mくんの最終出社日だった。おそらく本の雑誌社にも挨拶に来ることだろう。

 というわけで会社に戻ると、ちょうど新任の担当者を連れてMくんがやってきた。

 8年前、新入社員としてやってきた彼は先輩社員とふたりで本の雑誌社の担当になった。こちらが何か言わなければ無駄口も叩かず、ただただ言いつけどおりに仕事をしているような印象だったが、気づけばMくんが担当になってから納期のズレや配本の間違いなどミスがほとんどなくなっていた。それどころかこちらが考えている時間よりも必ず少しだけ早く本や伝票が届く。

 特に『謎の独立国家ソマリランド』は予想を上回る反響で、何度か品切れの危機があったのだけれど、その度に納期を切り上げ対応してくれた。どれだけMくんが現場の人に頭を下げたのかわからない。そういう苦労を絶対顔に出さなかった。

 年に何度か上司を連れてMくんがやってくるときがあるのだが、その度に私は値引きはしなくていいから担当を絶対替えないで欲しいと言い続けていた。上司の方はその約束を守ってくれた。だから本の雑誌社の印刷物はすべてMくんに任せるようにしていた。

 一緒に酒を飲んだ回数は数えられる程度だった。ただ会社で顔を合わせば軽口を叩き、そして書籍の相談をする。Mくんはその場で答えられることはすぐに答え、わからなければ調べてきちんと教えてくれた。

  Mくんの顔を見るたびに、以前書店員さんに言われた言葉を思い出す。
「私が知りたいのは、どんな本が出て、それが自分のお店にいつ、何冊入るのか、それだけなの。それをきちんとしてくれる営業マンを私は信頼するわ」

 8年前、新入社員だったMくんは、私の目標とする営業マンになっていた。

「お世話になりました。また顔を出しますから」
 そう言ってMくんは去っていった。

 Mくんは、必ずまた本の雑誌社にやって来るだろう。

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