« 2011年9月 | 2011年10月 | 2011年11月 »

10月25日(火)

  • ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~ (メディアワークス文庫)
  • 『ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~ (メディアワークス文庫)』
    三上 延,越島 はぐ
    アスキーメディアワークス
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)
  • 『ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫)』
    三上 延
    アスキー・メディアワークス
    583円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • 瞳の中の大河 (角川文庫)
  • 『瞳の中の大河 (角川文庫)』
    沢村 凜
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    901円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • きりこについて (角川文庫)
  • 『きりこについて (角川文庫)』
    西 加奈子
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    572円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 まさかこんな早くに続編が読めると思わなかった三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち 』(メディアワークス文庫)の2巻め、『ビブリア古書堂の事件手帖 2 栞子さんと謎めく日常 (メディアワークス文庫) が出たので、早速購入し、貪るように読む。

 これは北鎌倉の古本屋「ビブリア古書堂」を舞台にした本にまつわる日常の謎系ミステリーなのだが、いやはやその古本に関する薀蓄がうまく物語と融合しており、本好きにはたまらない展開なのであった。

 もちろんそれだけではなく探偵役である女性店主・栞子とアルバイトで主人公の大輔との関係もドキドキで、表紙のイラストが私のような40歳のおっさんにはちょっと気恥ずかしいのだけれど、沢村凛『瞳の中の大河』と西加奈子『きりこについて』(ともに角川文庫)に挟んででも買うべき1冊。「本の雑誌」を読んでいるような方には、もう絶賛オススメの文庫です。あっ、『瞳の中の大河』と『きりこについて』も絶賛のオススメで、解説が北上次郎と吉田伸子なのであった。

 営業は中央線へ。
 もうまもなく一次投票がスタートする本屋大賞なのだが「今年はどうなりますかね?」と何人かの書店員さんから訊ねられる。どうなるもこうなるも私にはまったく見当がつかないのだが、こうやってある時期になると本の話題ができるようになっただけでも、設立した意義があったのではないかと思う9年目なのであった。さあ、忙しくなるぞ。

10月24日(月)

  • スティーブ・ジョブズ I
  • 『スティーブ・ジョブズ I』
    ウォルター・アイザックソン,井口 耕二
    講談社
    2,090円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 通勤読書は『ポーカー・フェース』沢木耕太郎(新潮社)。『バーボン・ストリート』、『チェーン・スモーキング』(ともに新潮文庫)の系譜を注ぐ沢木節炸裂のエッセイ集。

 ただし高峰秀子への追悼文のなかで尾崎豊について触れられているが、沢木耕太郎が本当に後悔しなければならないのは、尾崎豊の本棚に自著がたくさん並べられていたからライブに行くべきだったのではなく、尾崎のライブは対峙する客が多ければ多いほど迫力に満ちていたのである。

 営業にでると書店さんは『スティーブ・ジョブズ』ウォルター・アイザックソン(講談社)の発売日について話題にしていた。朝からテレビで今日発売と報道されていたのだが、本日取次店に搬入されるのであって、一部の大きな書店さんには今日中に本が届くが、その他の書店さんは明日か明後日に入荷するのであった。

 ようするに出版業界ではそのタイムラグを埋めるべく、というかごまかすために「搬入発売」という表現をしてきたのだが、そんなことはお客さんにわかるわけがなく、多くの書店さんが「なんでないのよ!」と叱られているのであった。しかも今日発売といえば朝から並んでいるイメージをもたれるのは当然で、10時開店の段階で何人ものお客さんがお店にやってきたという。

 そもそも発売と同時に話題になりそうな本、例えば『ハリーポッター』などは事前に出版社や取次店が話し合い発売日が決められ、そこから逆算して本が作られ納品されていく。要するに遠いお店の分から出荷されていき、発売日には各書店さんに到着している段取りになのだが、今回の場合はジョブズの死を受け急遽発売日が前倒しになったから対応出来なかったのだろうか。

 ちなみに「本の雑誌」2011年3月号で取材した『KAGEROU』水嶋ヒロ(ポプラ社)は、「11月8日、発売日を12月15日とすることを決めました」とあり、こちらは離島を除く全国の書店さんで一斉に発売されたのであった。

 ただ12月15日に一斉発売するためには、12月9日に搬入しなければならなかったそうで、このスケジュールを『スティーブ・ジョブズ1』当てはめると、やはり相当日数がなかったと思われる。

10月21日(金)

  • わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3(マグロなんかが釣
  • 『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3(マグロなんかが釣』
    椎名 誠
    マガジン・マガジン
    1,466円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 おそらく今日あたりが私の本の雑誌社への入社記念日で、今年で15年目に突入するはずだ。ということは来年は勤続15周年であり、今まで15年も勤めた社員はひとりもいないのだが、私と松村がついにその禁断の15年に足を踏み入れるのであった。そういえば事務の浜田も契約社員から数えるとちょうど15年で、私たち3人はどうやら来年ハワイに連れていってもらえるらしいともっぱらの噂だ。ハワイだけでなく金一封に特別休暇も付くらしい。その噂を流しているのは、私であるが、私は14年経った今も、一度も社内規程というものを見たことがない。

 通勤読書は、『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソードⅢ マグロなんかが釣れちゃった篇』(マガジン・マガジン)。あまりのバカらしさに感動を覚える。

 一日中社内にこもって『おすすめ文庫王国2012年度版』のテープ起こし。

 夜、松戸へ移動し、良文堂書店さんで行われていた営業マンが販売数を競う『ガチンコ対決』フェアの結果報告会に参加。私にはその結果よりも、私と同じテーブルでメディアファクトリーの営業マンを囲む角川書店の人たちの会話が気になるのであった。

10月20日(木)

 本日発売された『辺境の旅はゾウにかぎる』の改題文庫『辺境中毒!』高野秀行(集英社文庫)に解説を書かせていただいた。

 大ファンであり、担当編集&営業でもある高野秀行さんの解説なので、全著作解説や高野秀行論を大展開したかったのだが、編集者からの希望は「高野さんの人となりが伝わるような文章を」とのことだったので、高野さんの人となりの核心をつく文章を書いたつもりである。

 ところが本日発売の集英社文庫一覧を見て驚いたのであるが、なんとそこに並ぶ豪華解説陣(私を除いて)の凄さたるや。『楊令伝5』は小久保裕紀だし、『ハナシがうごく!』は月亭八方ではないか。その他も鹿島茂や瀧井朝世、池上冬樹というそうそうたるメンバーで、何だか私一人格落ちしているのであった。

 しかしおそらくどの解説子より著者を愛しているのは間違いなく、ぜひとも私の高野秀行愛にまみれた解説をお読みいただければ。それと実はこの文庫本、単行本から一編だけエッセイが除かれているのだが、実は私はその一遍がとても好きだったりするのである。

10月19日(水)

 白水社WEBの「蹴球暮らし」第17回「チケット」を更新。

★   ★   ★

 一度会社に行くが滞在時間約1時間で、地元に戻る。

 なぜなら明日からこの「WEB本の雑誌」で連載スタートなる大竹聡さんの新連載「ギャンブル酒放浪記」の第2回取材先が、私の家から自転車で20分の浦和競馬場だったからだ。

 浦和競馬場は相変わらず時代に残された感じで、とても素敵だった。馬券はあんまり素敵でなかったが。

10月18日(火)

 昼、いつもどおり営業。
 中井の伊野尾書店さんを訪問するが、残念ながらお出かけ中とのことでチラシのみを渡して、高田馬場へ。高田馬場のBIGBOXでは恒例の古本市が開催されており、レジには「本の雑誌」11月号で「突発的古書店主座談会/古本屋の時代が来たぞ!」に登場いただいた古書現世の向井透史さんがいらっしゃった。

 そういえばこの人生相談を特集した号と、7月に出版した沢野ひとしの『山の帰り道』がここのところ売れていてうれしい限り。

 なんだかお客さんが途切れず向井さんもお忙しそうなので挨拶はせず、芳林堂さんへ。こちらの文芸担当Nさんも大変忙しそうだったので、新刊2点をご案内しただけで、すぐお店を後にする。「空気を読む」という言葉は大嫌いだが、営業に大切なのは相手の気持ちを察し、行動するということだと思う。

 通勤読書は『待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控』志水辰夫(新潮社)。
 飛脚が主人公のこのシリーズは、そのストリーだけでなく、道が出来上がっていった様子や物がどのように運ばれていたか、あるいはその街道沿いで人がどのように暮らしていたかがさり気なく、しかし克明に描かれているので、二重に楽しめる作品だ。

 志水辰夫に関して言うと、今年は傑作長編『夜去り川』(文藝春秋)も読めたので大満足の一年だった。

10月17日(月)

  • Get back,SUB!
  • 『Get back,SUB!』
    北沢 夏音
    本の雑誌社
    3,080円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 1冊590グラム、14冊合計8キロ260グラムの十月の新刊『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』北沢夏音著の見本をカートに乗せて、取次店を廻る。階段の登り下りのたびに、腕が引きちぎれそうになる。

 取次店の仕入れ窓口は銀行のようになっているのだが、そこで顔見知りの営業マンと遭遇。面白い本屋さんの情報や営業そのものに付いて情報交換する。先に自分の番が来たので「では」といって別れたが、結局誰もが同じコースをたどって取次店を回るので、次の窓口でも顔を合わすこと3度。何だかおかしくなって「食事でもどうですか?」と誘われるが、残念ながら私はこの後地方小出版流通センターに行かなきゃならず、なくなく断る。

 師走よりも10月の方が忙しい気がするのは、その師走に売る『おすすめ文庫王国』の制作が始まるからだ。私の担当は書店員さんによる座談会ふたつの収録及び編集で、この日は「書店員匿名座談会 BNK48選抜総選挙」を開催。

 腹がよじれるほど笑ったのだけれど、これを来週までにテープ起こしをし、原稿化していかなければならないのであった。それも日常業務の終わったあとで......。

 夜、本屋大賞の会議。
 もうすぐ始まる第9回本屋大賞に向けて最終調整。こんなことをもう9年も続けているのかー。

10月14日(金)

 昼、いつもどおり営業。
 銀座の教文館さんを訪問すると隣のアップルストアーに長蛇の列。「iPhone4S」が発売されたとかで、朝の段階で700人くらい並んでいたそうだ。今時こんなにものが売れたりするんだろうかと思わず目をしばたいてしまった。それにしてもあの魔境「アップルストアー」でモノを買うなんてことは私にはできない。というかソフトバンクでもauでもない「アップルストアー」でどうして「iPhone4S」が買えるのかもよくわからないんだが。

10月13日(木)

 昼、いつもどおり営業。
 夜、「本の雑誌」12月号の特集<今、作家はどうなっておるのか?>の取材で、浜本や宮里とともに坪内祐三さんに新宿の文壇バーを案内していただく。

 最後に寄ったバーから出ていく時、カウンターで飲んでいた女性から「あなた素敵ね」と声をかけられ、手の甲にキスをされる。

 思わずぎゅっと抱きしめそうになったが、お相手はどう少なく見積もっても70代の女性で、仮面ライダーの死神博士そっくりだった。

10月12日(水)

 朝、埼京線のドア脇の小さなスペースで私は途方に暮れていた。
 それは『不愉快な本の続編』絲山秋子(新潮社)の最後のページを読み終えた東十条駅から新宿駅までの、都心の電車にしてはやけに一駅間が長い三駅分にわたって続いていた。もし仕事がなければそのままずっと電車に揺られていたかもしれない。

 そこまで言葉、文体、文章、そして小説の力、軽やかな凄みに圧倒されてしまったのだ。
 作中、呉、東京、新潟、富山と漂白するヒモの主人公ボクは、富山県立近代美術館に出会い、「芸術ってやつはお互いの魂が飛び出しちまうこと」だと気づくのだが、私の魂も『不愉快な本の続編』という芸術の前に、飛び出していた。

 こんな気分になったのは、最愛の小説『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子(文春文庫)を読んで以来だ。どうしていいかわらかない。途方に暮れるしかない。

10月11日(火)

 白水社WEBの「蹴球暮らし」第16回「レギュラー」を更新。

 サッカーといえば、J2降格寸前の15位と低迷する我が浦和レッズが、ナビスコカップ決勝に進出するという快挙。一部では暴挙と言われているらしいが、相変わらずサポーターの気持ちを振り乱す素敵なチームだ。

 国立競技場よ、待っておれ!

★   ★   ★

『本の雑誌』2011年11月号搬入。
 爆笑の人生相談特集に、必読は、甘くなかった古本屋の、プロの方々が話し合った「突発的古書店主座談会/古本屋の時代が来たぞ!」か。

★   ★   ★

 とある町の本屋さんを久しぶりに訪問し、軽い調子で「ご無沙汰してます、お元気ですか?」と店長さんに挨拶すると、「それがさ、調子悪くて、明日検査なんだ」と表情を曇らせる。

 店長さんはお店を開いて40年近く、雨の日も風の日も店に立ち、自転車に乗っては配達に出かけていた。

「家内からいつももっと人間らしい生活しなさいって言われてきたんだけど、やっぱり本が好きだしね」と笑う顔には力がない。

 しばらくそうやって話していると体調の悪い店長さんに代わって配達をしてきた奥さんが戻ってくる。

「ずっと思ってたんだけど本当に本屋って仕事は大変よ。毎日、雑誌や新刊がでるから休むわけにも行かないし、お店を開けたら朝から晩までいなきゃいけないんだから」

 もちろんそれ以上に儲からないと言いたかったんだろうけれど、そのあと店長さんが薬を飲み忘れていることに気付き、あわてて水を用意しに行った。

 私がこのお店に通うようになって15年が過ぎようとしていた。その間いつも私は店長さんに「いつまでもお店を続けてくださいね」と言い続けてきたのだけれど、もしかしたらそんな言葉が店長さんやご家族を苦しめてきたのかもしれない。

「お大事になさってください」と言葉をかけて、そのお店から出て首を振ると50メートルも離れていないところ、全国チェーンの本屋さんの看板が立っている。そのお店が出来たのは今から5年ほど前のことで、その2階が新古書店になったのは先月のことらしい。

10月8日(土)

 春に続いて、不忍ブックストリートの一箱古本市に参加するが、いやはや一箱古本市は甘くなかった。

 いや本の雑誌関連のものは売れていくのだが、各自が持ち寄った蔵書はほとんど売れない。値付けをした「本屋・本の雑誌」店長の宮里キャンドル潤は、「やっぱり高すぎたかなあ」と反省しきり。昨日まであんなに強気だったくせに何を言っているんだ。

 そんななかひとり気を吐いたのは、助っ人で司法試験に合格した古本者の大塚セーネンで、この辺が売れるんじゃないかなあと持ち寄ったダブりの蔵書は、まるで一本釣りのように高額で売れていったのだった。

「古本屋の道は甘くないなあ」と浜本と宮里と泣きながら千駄木をあとにした。

10月7日(金)

 会社に着くなり、事務の浜田改め、新事業開発部部長の浜田が、「あー今日は『本の雑誌』の定期購読者の袋にラベルを貼るツメツメの日なのに、助っ人がいないなあ」と大きな声で叫び、明日に迫った一箱古本市の店長・宮里は「あー値付けとか全然終わらないや」と私の顔を見る。

 どうもこの会社の人間は私がよほど暇だと思っているらしい。

 しかし気づいたら作業机に座らされ、ラベルを袋に貼る作業に没頭させられていたのはどういうことだ。しかも十分置きに「あれ、杉江さん早いなあ」とか「やっぱり助っ人とは違うわ」なんておだてられ、ついつ昼飯も忘れ、ハリハリしまくる。

 その後は、宮里が白紙の短冊を持ってきて「僕がいう値段をスタンプで押していってください」とペタペタさせられたのであった。

 すべての作業を終えたのは夕方で、この夜は、第21回鮎川哲也賞授賞式に参加するため飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントへ。

 受賞作『眼鏡屋は消えた』山田彩人(東京創元社)をお祝いしつつ、鮎哲賞名物のフォアグラ丼を頬張った。

10月3日(月)

  • ワルツ(中) (角川文庫)
  • 『ワルツ(中) (角川文庫)』
    花村 萬月
    角川書店(角川グループパブリッシング)
    943円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ワルツ 下
  • 『ワルツ 下』
    花村 萬月,ゴトウ ヒロシ
    角川グループパブリッシング
    7,408円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 人生で初めて、引き分けでもいいと切に願った週末であるが、ガンバ大阪に敗北。
 J2降格ゾーンの16位ヴァンフォーレ甲府とは、勝ち点2しか離れていない。
 いったい私の冬はどうなってしまうだろうか。

★   ★   ★

 通勤読書は、週末に読みだした『ワルツ(上・中・下)』花村萬月(角川文庫)。中巻の帯にある北上次郎の推薦文「読み始めたらやめられない 現代エンターテイメントの傑作だ。」につられて読みだしたのだが、そのとおりだった。

 終戦直後の新宿を舞台に特攻崩れの城山とイケメンでキレ者の朝鮮人林、そして誰もが振り向くような美貌の百合子が任侠の名の下に動き出すのだが、いやはやまるで北方謙三の「ブラディ・ドール」シリーズを読んでいるときのような興奮で、北上次郎さんの言うとおり、読み始めたらやめらない。現在、上巻を読み終えたところなのだが、とても仕事どころではない。

★   ★   ★

 そうは言っても仕事はしなければならないので、京王線を営業。
 初めての訪問となった啓文堂書店多摩センター店では、担当のNさんにご挨拶。フェア棚では新作『いとみち』(新潮社)が出版された越谷オサムさんと音楽の本が並べられていた。

 また啓文堂書店では毎年恒例となった「啓文堂書店文芸大賞」がちょうど発表され、今年は『ジェノサイド』高野和明(角川書店)になったそうだ。

 それとこの文芸大賞とは時期をずらして、ただいま競い合っているのが、「啓文堂書店おすすめ文庫大賞」なのであるが、こちらは『鉄塔武蔵野線』銀林みのる(ソフトバンク文庫)や『アイの物語』山本弘(角川文庫)などがノミネートされており、素敵なラインナップであった。

 これらのフェアと別に、「店長の本棚」というコーナーがあって、そこはなんていうか1冊の本をすすめるというよりは、本当に自分の本棚を移植したような棚なのであった。多摩センター店では歴史書が並んでいたが、稲田堤店ではマラソンの本と進化の本が並べられていた。これがなんだか「売る」という作為のほとんど感じない、まさに文脈棚になっていて、これは非常に面白い。

 啓文堂書店全店舗でやっているのだろうか。もしそうならこれは全店、見てみたい。

★   ★   ★

 WEB白水社での連載「蹴球暮らし」、第14回「夏合宿」と第15回「レギュラー(1)」を更新しています。

9月30日(金)

  • 下駄でカラコロ朝がえり (ナマコのからえばり5)
  • 『下駄でカラコロ朝がえり (ナマコのからえばり5)』
    椎名 誠
    毎日新聞社
    1,540円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
 朝、昨日の顛末を娘に確かめると、怒られるのかと思ったのか目を合わせない。
 しかし「大変だったな」と頭を撫でてやると堰を切ったように話しだす。
 最後まで一緒に鍵を探してくれた友達がいたらしい。
 その友達に今日ちゃんとありがとうと言うようにいうと、わかっているよと返事が戻ってきた。

 娘よ、お前はわかってないぞ。そういう友達はな20年、30年経っても友達でいられるんだぞ。父ちゃんと子分のダボのように、一生友達でいられるんだ。

★   ★   ★

 通勤読書は、いつものように無計画に大量投下される椎名さんの新刊のなかの1冊、『下駄でカラコロ朝がえり』(毎日新聞社)。坪内祐三さんもおっしゃっていた気がするけれど、私も「週刊文春」の赤マントシリーズより、こちらの「サンデー毎日」のエッセイのほうが好きだ。久しぶりに椎名エッセイで、ぐふぐふ笑ってしまう。

 川崎から異動になった沢田さんを訪ね、丸善津田沼店へ。
 沢田さんは増床したばかりで乱雑に棚に収められた本を、1冊1冊関連を考えながら並べ直していた。

「この間ね、おじさんが棚を眺めながら『すごいなあ、こんな本があるのか』って嬉しそうに手にとっていたんだよね。自分たちも若いころ、東京の本屋さんを知ったときに驚いたじゃん。こんなにいっぱい本があるんだって。そういう喜びのある本屋さんにしたいんだよね」

 その姿はまるで荒れた大地から木の根や石をどかし、田や畑を作っているようだった。おそらくこれから種を撒いて、花を咲かせ、芳醇な実を実らせるのだろう。

 そういえばちょうど読んでいた椎名さんの本に、全国同じチェーンのハリボテのような風景を観察した、こういう文章があったのだ。

「ブックオフに代表される新古本屋を見て育った地方の子供たちはそれが「書店」だと思ってしまうだろう。都会にあるあらゆるジャンルの本を売っている本物の大型書店や神田あたりの本物の古書店をみてブックオフとの本質的な違いを理解するのは、その若者が都会の大学に合格して都会の街をはじめて歩いてからのことだろう。「めくるめくような知識の多様性と遭遇した」時にその若者はすでに脳が一番効率よく知的好奇心を集約して吸収していける時期を逃してしまっている」

 今、全国に1000坪を越える大型書店ができている。そういうお店を訪問してみると、正直本を詰め込んだだけのお店も少なくない。そのことを否定的に捉えることも簡単なのだが、もし沢田さんのようにそのお店の棚を耕し、種を撒くことができたら、「めくるめくような知識の多様性」をもっと多くの人が身近に接することができるのではないだろうか。

 いや、そもそもそういう場所を町の本屋さんが担っていたのだけれど。

« 2011年9月 | 2011年10月 | 2011年11月 »