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2月27日(水)

 夜。紀伊國屋書店新宿南店にて高野秀行さんのトーク&サイン会。
 東京で3回はちょっとやり過ぎかもと考えていたのだけれど、どの会場も満員で、いやはやどんだけ人気あるんだ、高野さん。

 サイン会の後、ふたりで犀門へ。先週ここで出版記念パーティーを開いたのが遠い昔のようだ。

 本が出来てからふたりで飲むのは初めて。お互い「売れている現実」が信じられず、何か悪いことが起きるのではなかろうかとやたら心にストッパーかけつつ会話。まるで浦和レッズサポと一緒だ。

 勝者のメンタリティーが欲しい。

2月26日(火)

 白水社WEBで連載させていただいている「蹴球暮らし」第36回「グラウンド」を更新。
 その白水社の担当の人とシンガポール料理屋「マカン」で昼食。今後のことについて。

 中央線を営業。東中野の東京堂書店さんがだいぶ客層とマッチングした売り場に変わっていた。本屋さんはやっぱりこうやってお客さんと対話して出来上がっていくんだなと実感する。声なき声に耳を傾け、棚に反映していく。そういった工夫の積み重ねなのだろう。

 夜。坪内祐三さんが来社。浜本と食事にでる際に一緒にどうかと誘われるが、今夜は浦和レッズのアジアチャンピオンズリーグがあるのでと泣く泣くお断りする。

 試合を見て一段と泣く。

2月25日(月)

  • 謎の独立国家ソマリランド
  • 『謎の独立国家ソマリランド』
    高野 秀行
    本の雑誌社
    2,420円(税込)
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    honto

月曜日が好きだ。特に新刊を出して初めて迎える月曜日。週末の間に本が売れていれば書店さんから注文が入る。誰よりも早く出社してFAXの受信トレイを確かめ、電話のベルに心を躍らせる。

 もちろんそれはほとんど期待だけに終わり、昼過ぎには日本列島をそれて北上して行ってしまった台風の後のような気分になるのだが...。
 それでも夢が見られる月曜日が好きだ。

★   ★   ★

 会社に着くと電話のベルが鳴っていた。受話器を取ると『謎の独立国家ソマリランド』の追加注文だった。それもかなり大量の部数。その後も、その後も注文だった。事務の浜田や経理の小林が事務仕事の手を休めて、何度も電話に出る。

「在庫ございます。ありがとうございます。杉江に直納させましょうか」

 おい、勝手に決めるなよ。重いんだよ、この本は、と思いつつ、自然と顔がほころんでくる。浜田も小林も、そして編集部のみんなが笑っている。

 本が売れるのは何より楽しい。

2月22日(金)

夜。社内にカラープリンターがないのでキンコーズへ走る。『謎の独立国家ソマリランド』のポスターを20枚ほど刷り出してもらい、パネルに貼る。

 集中力が落ちているのは気づいていたのだが、パネルにあてた定規から親指がはみ出ており、そこへ勢いづいたカッターの歯が突き刺さる。あっ、と思った時には大量に血が流れ出し、指先がぱっくり切り裂かれていた。

 みんなにバレると大騒ぎになるので、血の滴り落ちる指先に口をあて、救急箱からバンドエイドを出す。しかしバンドエイドはすぐに真っ赤に染まってしまい役に立たない。

 そうこうしているうちに浜田やカネコッチに見つかり、腕を上に上げろ、輪ゴムで止血しろ、バンドエイドじゃむりだからガーゼと包帯だ、などなど結局大騒ぎになってしまう。20分後にどうにか血は止まったがパネル作りの作業を続ける勇気はなくなり、帰宅。思っているよりずっと、疲れているのかもしれない。

2月21日(木)

  • 集落が育てる設計図 (LIXIL BOOKLET)
  • 『集落が育てる設計図 (LIXIL BOOKLET)』
    藤井 明,LIXILギャラリー企画委員会,石黒 知子,井上 有紀,TUBE graphics,川原 真由美,ゆりあ・ぺむぺる工房,東京大学生産技術研究所藤井研究室
    LIXIL出版
    1,980円(税込)
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    honto

朝、直行で埼玉のラジオ局、NACK5へ。高野秀行さんがゲスト出演する「セイタロー&ケイザブロー おとこラジオ」の収録に無理矢理着いて行ってしまった。ラジオ局に対しては出版社と同様に憧れがあるのだ。

 そしてスタジオには、いつも声を聞いている大野勢太郎氏がおり、思わず緊張するが、なんだか妙にアットホームな雰囲気ですぐに打ち解けてします。高野さんと大野さんはブースに消えていき、収録が始まる。(放送は2月22日金曜深夜)

 華やかなところへ行けば行くほど、何者でもない自分、何者にもなれなかった自分に気づかされる。もはや何者になりたかったのかもわからないのだけれど。

 昼。会社に戻ると浜田が興奮した様子で『謎の独立国家ソマリランド』の追加注文を報告してくる。大食いにして屈強なアルバイト学生のチョモランマ高橋とともに26キロ分の『謎の独立国家ソマリランド』を丸の内まで歩いて運ぶ。

『集落が育てる設計図』藤井明(LIXIL出版)を購入。アフリカやインドネシアで集落としてどのような建物で人々が暮しているか、写真やイラストなどを多数使用し紹介した本。こういう本を見つけるとドキドキしてくる。

 夜。高野さんのトークイベント第1弾。満員。

2月20日(水)

  • メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)
  • 『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故 (講談社文庫)』
    大鹿 靖明
    講談社
    1,210円(税込)
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    honto

大鹿靖明『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社文庫)を読む。帯に「これは愚かな人間たちの物語である。」と書かれているとおり、原発事故に関わったものすごく愚かな人間たちを徹底的に取材した素晴らしいノンフィクションなのであるけれど、私が知りたいのはどうして人はそのように愚かになっていくのかということなのだった。

「本の雑誌」3月号を西葛西の文教堂さんに直納。なにせ西葛西を地盤沈下させている原因の特集なのだから。

「本の雑誌」や単行本を印刷していただいている中央製版印刷のひとたちと酒。十年以上の付き合いになるけれど、ほんとにいつも気持ちよく仕事をさせていただいている。ありがたい。

2月19日(火)

CDを購入。


「No Beginning No End」Jose James
「TIM BUCKLEY ORIGINAL ALUBUM SERIES」TIM BUCKLEY

 Jose Jamesは「元春レディオショー」で聴き、TIM BUCKLEYは猫目で坪内祐三さんに教わった。坪内さんに連れていっていただく文壇バーであるはずの猫目は、私にとってロック喫茶だったりする。

 浦和のK書店Nさんから評論の棚のつくり方について相談を受けるが、上手く答えることができず宿題とする。直帰、10キロ走る。

2月18日(月)

  • 謎の独立国家ソマリランド
  • 『謎の独立国家ソマリランド』
    高野 秀行
    本の雑誌社
    2,420円(税込)
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高野秀行著『謎の独立国家ソマリランド』搬入。高野さんから「ソマリランドに行ってみようと思ってるんだ」と初めて伺ったときから約5年。ずっとこの日を夢みてきた。

 今、目の前に、本がある。この本を、売る。
 まだ何も始まっていない。

 夜、犀門にて出版記念パーティー。

2月6日(水)

「雪が降るぞ、雪が積もるぞ」と騒いでいだだけで、我が武蔵野線は70%運行となり、しかも「お客様混雑」で運転を見合わせてしまった。いつか、こんな人間味溢れる武蔵野線を主人公にした「がんばる武蔵野線」という絵本を作りたい。

 3.11以降、人ごみが極端に苦手になってしまった私は、乗り換え駅が混雑しているというアナウンスを聞き、とっさにまだ動いていた武蔵野線の逆方向に乗ったのが、幸運のはじまりだった。その後、埼京線、高崎線、宇都宮線、京浜東北線(こちらは人身事故)までストップし、埼玉県民の多くが都内に通勤することが出来ずにいるなか、私は埼玉高速鉄道(南北線)に揺られ、普段と変わらずに出社することに成功した。

 今後はこの経路で出勤したいのだけれど、なんと定期代が倍以上になってしまうので会社に申告できず。さすがブルジョア埼玉高速鉄道。

 通勤読書は『庶民列伝』深沢七郎(中公文庫)。

 雪を恐れ、真っ赤なジャーズにジーンという普段着で出社してしまった私は、どこにも営業に行けず、貯まっていたデスクワークに勤しんでいると、何だか不思議なかたちの荷物を佐川男子が運んでくる。

「前略 炎の杉江さんは鮭の身卸しをのがれたと思って『ほっ』としていたようですがそうは問屋はおろしません。油断している頃に魚は届くのです。ワハハハ。」

 というわけで八戸の定期購読者・中里さんから毎年恒例の塩引き鮭が届いた。

 たいそうありがたいのであるけれどこの一本の鮭を切り身にするのが、なぜか営業部の仕事でしかも本の雑誌社が常備している包丁は、もはや包丁と呼ばず鉄のかたまりとしか思えぬ切れ味なのであった。

 いつの間にか雨に変わった外を眺め、逃げ出そうとしたその瞬間、事務の浜田にむんずと腕をつかまれる。

「ぐふふふふ。初めての共同作業しましょうよ」
「えっ?!」
「シャケ、入刀です!」

 集英社文庫編集部の人から文庫解説を書いてくれないかという依頼。娘の中学校入学の制服代を稼がないとならないので、〆切も気にせず受ける。

 一度は読んでいるその本を読みながら帰宅。帰りはプロレタリアな武蔵野線。

2月5日(火)

高野秀行著『謎の独立国家ソマリランド』と並行しながら編集作業を続けていた3月刊行の大竹聡著『ギャンブル酒放浪記』について、本の雑誌社居候にして編集右腕のカネコッチと諸々打ち合わせ。

『謎の独立国家ソマリランド』を見て頂ければわかるとおり(まだ出来てないけど)、カネコッチの編集・デザイン能力はハンパないのである。というわけで私以外にこの右腕をお貸ししますので、カネコッチの手をかりたい方、本の雑誌社までご連絡ください。

 常磐線を営業し、直帰。8キロ、ランニング。

2月4日(月)

  • 謎の独立国家ソマリランド
  • 『謎の独立国家ソマリランド』
    高野 秀行
    本の雑誌社
    2,420円(税込)
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    honto

営業マンの話という噂を聞いて手に取ったすばる文学賞受賞作『狭小邸宅』新庄耕(集英社)がすこぶる面白かった。

 大学を卒業し不動産屋会社に就職した主人公は、そのあまりに過酷な営業の現場と理不尽な上司に翻弄され(その人物造形が見事!)、ギリギリのところで働いている。辞めるか、辞めてどうするのか、起き上がるのも苦しい中、一軒5000万円以上の家を売るのは至難の業だ。

 営業トークだけでなく「まわし」などといった不動産営業ならではのディテールが細かく書き込まれ、読んでるこちらも思わず一緒に営業している気分になる。そして私も角田光代氏が帯で書いているところで涙を流した。小説を読んで泣いたのは久しぶりだ。

★   ★   ★

『謎の独立国家ソマリランド』の編集作業がすべて完了する。520ページ、口絵、図版、年表つき。
 しかし私の仕事は終わらない。営業が待っている。校了で一息つける編集者が羨ましい。

 しかも今回は高野さんから「杉江さん、今回の杉江さんはW杯フランス大会アジア最終予選の岡野だよ。あのジョホールバールの中田英と一緒で俺は最高のパスを出したから、あとは杉江さんがゴールを決めるだけだから。もしこれでゴールが決められなかったら日本に帰れないよ」とプレッシャーをかけられているのであった。

 確かにこれだけの原稿を頂いたからにはゴールを決めなければならないだろう。岡野はあのとき二度も三度も絶好機を外し、中田英に呆れられ、監督の岡田は頭を抱えていたが、それでも諦めずにゴール前に飛び込んでいたのだ。だからこそGKがはじいたボールをゴールに押し込み、私たちをW杯に連れて行ってくれたのだ。

 信じて走るしかない。営業だから。

2月1日(金)

  • とびだせ どうぶつの森 超完全カタログ
  • 『とびだせ どうぶつの森 超完全カタログ』
    ニンテンドードリーム編集部
    徳間書店
    3,000円(税込)
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  • とびだせ どうぶつの森 かんぺきガイドブック (ファミ通の攻略本)
  • 『とびだせ どうぶつの森 かんぺきガイドブック (ファミ通の攻略本)』
    週刊ファミ通編集部,ファミ通書籍編集部
    エンターブレイン
    1,307円(税込)
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  • 任天堂公式ガイドブック とびだせ どうぶつの森
  • 『任天堂公式ガイドブック とびだせ どうぶつの森』
    任天堂
    小学館
    1,210円(税込)
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  • とびだせ どうぶつの森 ザ・コンプリートガイド
  • 『とびだせ どうぶつの森 ザ・コンプリートガイド』
    電撃攻略本編集部
    アスキー・メディアワークス
    3,980円(税込)
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ニンテンドー3DSのゲーム『とびだせ どうぶつの森』を誕生日プレゼントの前借りで手に入れた娘から「攻略本を買って来て欲しい」とメールが届いた。ちょうど本屋さんで営業しているところだったので、攻略本コーナーに移動する。むむむ。するとほとんど同じに見える本が4種類、多面積み展開されているではないか。そういえば、年末に書店員さんが売れまくり!と大騒ぎしていたのはこれだったのか。

『とびだせ どうぶつの森 超完全カタログ』(徳間書店)
『とびだせ どうぶつの森 かんぺきガイドブック』(エンターブレイン)
『任天堂公式ガイドブック とびだせ どうぶつの森』(小学館)
『とびだせ どうぶつの森 ザ・コンプリートガイド』(アスキー・メディアワークス)

「超完全」と「かんぺき」はどっちが偉いのだろうか。「コンプリート」よりもやっぱり「公認」のほうが詳しいのだろうか。値段もほとんど一緒だし、しかも並べられた本はすべてシュリンクされているので、中味を確認することができない。いや、もし中味を確認できたとしても、私にはどれがいいのかわからないだろう。

 そこでつい顔見知りの書店員さんに訊いてしまったのだが、そのとき無意識に出た言葉は「どれが一番売れてますか?」だった。そして私は書店員さんが指差したある一冊を手に、レジへ向かったのである。

 そうか、こうやって人は売れている本を買うのだ。

 私は、日頃接している本や音楽では、天邪鬼な性格から売れている本というだけでその場から離れ、たくさんの人が読んでいるならもう自分は読む必要がないだろうと、棚に埋もれそうな本に手を伸ばしているのだ。

 しかし結局そんな私も門外漢のジャンルでは、一番信用できる指針が「売れている」という事実なのだった。あんなに斜に構えていたくせに......。

 まあ、だからこそ書店さんには多くのジャンルのベストテン表示をしており、その棚から本が売れ、また昨年の年末も年間ベストセラーランキングが発表されると、1位だった『聞く力』阿川佐和子(文春新書)がいちだんと売れ出したりするのだろう。

 それにしてもどんな本も初めから売れていたわけではないのだ。
「超完全」も「かんぺき」も「公式」も「コンプリート」も、みんな一斉に書店さんの棚に並んだのだ。それがなぜこのように差がつくのか。

 初めから売れている本を作る方法はないだろうか。

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