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3月30日(月)

  • 油うる日々──明治の文人 戸川残花の生き方
  • 『油うる日々──明治の文人 戸川残花の生き方』
    目時美穂
    芸術新聞社
    3,300円(税込)
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 先週は風邪薬を飲んでいたのだけれど、これが恐ろしいほど眠くなる薬で、睡魔との闘いとあくびを噛み殺すのに一週間費やしてしまった。あんな薬を飲むくらいなら風邪をひいているほうが絶対マシだった。

 いよいよ本屋大賞の準備が大詰めを迎えているわけだが、実は本屋大賞は仕事ではない、というところに大きな罠が潜んでいる。どんなにがんばっても日常の仕事はそこにあるわけで、その動かざる山を見ては心に暗黒星雲が巣食っていく。

『油うる日々 明治の文人戸川残花の生き方』目時美穂(芸術新聞社)を読む。まったく未知の人物の評伝なのだが、すこぶる面白い。

3月23日(月)

  • 定本 黒部の山賊 アルプスの怪
  • 『定本 黒部の山賊 アルプスの怪』
    伊藤正一
    山と渓谷社
    1,320円(税込)
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 週末に読み終えたのは、去年幻の名作復活!と各所で話題になっていた『定本 黒部の山賊』伊藤正一(山と渓谷社)。北アルプスの最奥部で山小屋を経営する著者の昔語りなのだが、これが山小屋版『遠野物語』といったところで、不思議なことや興味深いことだらけですこぶる面白かった。その流れで古本屋で買っておいた『喜作新道』山本茂実(角川文庫)を読み始める。このように本が繋がっていくのは読書の醍醐味。

 朝、出版健保に立ち寄る。先週末より喉が痛く痰が絡んでひどいので診察を受ける。先々週はウィルス性胃腸炎でダウンしたが、一ヶ月に二度病院にかかるのは人生で初めてかもしれない。精も根も尽き果てると人間は病気になるものなのだ。

 診察を終え出社すると、昨日、朝日新聞書評欄で紹介された『猪変』と売れ行き絶好調中の『本で床は抜けるのか』、そして事件から20年を迎えた『サリン それぞれの証』の注文の電話がひっきりなし。『猪変』と『本で床は抜けるのか』はただいま重版中で4月1日出来。ずいぶん早く手を打ったつもりだったけれど、それ以上のスピードで売れていってしまった。痛恨。

 夕方、テリー植田さんと打ち合わせを終えた後、ジュンク堂書店池袋本店へ。『オシム 終わりなき闘い』(NHK出版)刊行記念で、著者の木村元彦さんと高野秀行さんのトークイベント。

 NHK出版の編集の方の「人名のわかりにくい本を書くのがふたりの共通項」という紹介に笑い転げつつ、もはやノーベル平和賞ものの役割を果たしているオシムさんのことを、高野さんが上手く引き出していき、あっという間の1時間。

「オシムさんにはずっとジェフの指揮を取って欲しかった。なぜならあのサッカーを毎週見られるんですよ」「書くモチベーションのひとつは隠れたファインプレーを世の中に残しておきたいから」「(オシムさんは日本のサッカーをどう変えたかったと思いますか?の質問に)私見ながら、日本代表に限らず子どもたちのサッカーを含めて、サッカーをすることによって社会がつながっていくカルチャーを作りたかったのでは」など印象に残る言葉多数。

 木村元彦さんと高野秀行さんの共通項は「人名のわかりにくい本を書く」以外に、知性、行動力、取材力、表現力を兼ね備えた稀代なノンフィクション作家、ということだろう。

 それにしても途中、突然なぜか私に話が振られ、オシムさん風のユーモアのつもりが、あまりに自虐的ブラック・ジョークとなってしまい会場を凍りつかせてしまったのは反省。

 打ち上げに誘っていただいたものの、喉の痛みがひどいので泣く泣く帰宅。

3月19日(木)

  • 夜の国のクーパー (創元推理文庫)
  • 『夜の国のクーパー (創元推理文庫)』
    伊坂 幸太郎
    東京創元社
    858円(税込)
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    honto

 4時起床。長友の体幹トレーニング後、読書。腹が減ってしまったので家族が起き出す前に朝食。ふと気づくと二度寝しており、目覚めたら8時10分。がばり。

 9時45分出社。数日前よりいつかやらなきゃ、なるべく早くしないとまずいぞと考えていた仕事に取り組む。まあ本屋大賞がらみの郵送物なんだけど、これが間違ってはならずの組み合わせもので神経をつかうのだ。集中力を高め、一気に仕上げる11時30分。

 午後、雨降るなか週末の朝日新聞で書評が掲載される予定の『猪変』の直納と営業。夕方、会社に戻ると『本で床は抜けるのか』の新たなパブリシティが決まっていたので、早速案内を作って書店さんに連絡。

 18時半終業。秋葉原まで歩いて息子が欲しがっていたカードゲーム「バディファイト」のスタートデッキ「サンシャインヒーローズ」を探すが明日発売とのこと。

 地元のツタヤに寄り道すると、伊坂幸太郎の『夜の国のクーパー』が文庫化(創元推理文庫)されて山積みになっていたので、娘に買って帰る。とツタヤを出たところでその娘とバッタリ。塾に行くとのこと。中学生は大変だ。私よりずっと忙しい。「あんまり勉強するとバカになっちゃうぞ」と言うと「あんたみたくなりたくないから」と返ってくる。たしかに私のようになって欲しくない。

 21時就寝。

3月18日(水)

『火花』又吉直樹(文藝春秋)を読みながら出社。9時。10時半の企画会議までデスクワークに勤しむ。本屋大賞にまつわる様々な雑務が一気に押し寄せるこの時期は、反射神経で仕事している。まるで卓球のようだ。10時半企画会議。宮里から再提出された単行本の企画を2本通す。

 昼食。なぜか神保町には長らくパン屋さんが不在で、パン難民だったのだが、すずらん通りに2月にオープンしたホテルの一階に「リトルマーメイド」が開店。というわけでパンを買いにいく。なんだって美味い。

 午後、おじさん三人組の取材で都内某所へ北方謙三さんを訪問。小説のキングから直々に話を伺える機会なんて一生に一度ものなので、1時間半みっちり質問する。

 取材終了後、こんどは本の雑誌40周年記念出版「本の雑誌1〜10号BOXセット」の箱のデザインをお願いしに太田和彦さんのところへ。快諾いただく。

 夜、会社に戻り、また反射神経で仕事をする。18時半退社。どんなに忙しくても残業はしない。杉江家家訓。
 帰宅後、ランニング7キロ。22時就寝。

3月17日(火)

  • Playland
  • 『Playland』
    JOHNNY MARR
    NEW VOODOO
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 木村元彦著『オシム 終わりなき闘い』(NHK出版)を読みながら出社。9時30分。午後、「着せ替えの手帖」取材予定の内澤旬子さんから濃霧で船が止まっていて遅れそうと連絡が入る。本日も『本で床は抜けるのか』の注文が止まらない。在庫と売上データを睨みつつ重版を決める。昨日『猪変』の重版を決めており、まさかの二日連続重版発注に印刷所の営業マンも耳を疑っていた。

 そういえば『謎の独立国家ソマリランド』の電子書籍版を作ったとき、これで過在庫や返品や品切れから開放されると喜んだのだが、そんなものは賭けない麻雀や自宅でするスロットマシーンと一緒だった。売上報告だけ上がってくる商売なんてぜんぜん面白くない。やっぱり立て続けに鳴る注文の電話や出社すると分厚く溜まっている注文のFAXを前に、増刷するかどうか決断することこそが出版の醍醐味なのだ。

 あちこちに連絡を取りつつ本屋大賞がらみのデスクワークをした後、11時某出版社の編集者と落ち合い「FOLIO」へ。某書の文庫化の打ち合わせ。昼、会社に戻り、今度は編集の宮里を誘って昼食へ。宮里の希望で「近定」。ここの定食は、安くてボリュームがあって、しかも美味い。『本で床は抜けるのか』重版の労をねぎらうため、「おごってやるからなんでも食っていいよ」と言ったらちょっと高い「生姜焼き定食」を注文する。しかも私の日替わりランチに付いてきたメンチカツを凝視しやがる。眼力に負けてメンチを進呈すると大満足の様子で腹を叩く。

 午後、丸善日本橋店さんへ直納。その後、タロー書房さんなどを営業。夕方会社に戻って、来週月曜日に池袋のジュンク堂書店で行われる木村元彦さんと高野秀行さんのトークイベントに申し込む。書店横断フリーペーパー「晴読雨読」に掲載していただく対談をまとめていると、浜本が相撲を見ている坪内さんのところへ行くというのでついて行く。照ノ富士対琴奨菊の取り組みに力が入る。18時半、浜本とともに青山へ。どうにか上京できた内澤旬子さんと落ち合い、閉店時間の迫るブルックスブラザーズ青山本店へいざ出陣。怒涛の着せ替えの模様は、「本の雑誌」にて。

 22時帰宅。風呂に入ろうかと思ったら塾に行っている娘から自転車がパンクしちゃったと連絡が入る。妻とふたりで車で迎えに行き、私は自転車を押して帰宅。なかなか一日が終わらない。届いていたJOHNNY MARR「Playland」を聴きながら就寝。

3月16日(月)

 先週は、ハーフマラソンの筋肉痛が治ったと思ったら左足脹ら脛の肉離れとなり、その痛みを引きずったまま仕事していると夜中に突然嘔吐下痢の悶絶の苦しみに襲われ、一晩トイレで過ごした後、ほうほうの体で病院へ向かうとウィルス性胃腸炎と診断そのまま点滴、寝込んでしまった。恐るべしハーフマラソン後遺症。

 しかし、土曜日の我が浦和レッズのホーム開幕戦にはすっかり体調も戻り、腹の底からWe are Diamondsを高らかに歌い上げ、今日はすっきりと出社。

 出社すると、昨日「読売新聞」書評欄に著者インタビューが掲載された、西牟田靖著『本で床は抜けるのか』の追加注文がどかどかと入り出す。すぐさま直納へ。重い。『本で床は抜けるのか』で腕は抜けるのか?

3月9日(月)

 昨日参加した初ハーフマラソンは、1時間55分8秒で完走。
 これよりも早い人がたくさんいた。遅い人もいっぱいいた。
 ただ、そんなことはどうでもよかった。
 敵もなく、味方もなく、ただずっと自分と向き合い、自分だけを頼りに、身体を動かし、ゴールした瞬間に味わった解放感と達成感は、ほかのことでは味わうことのできない快感を生んだ。

 これはやめられないかもしれない。

★    ★    ★

 満身創痍で出社。
 平面移動は出来るが、すべての階段がエベレストのヒラリーステップに見紛う苦しみを生む。始発電車を待って座るが、今度は立ち上がることができない。こんなひどい筋肉痛は中学校の部活初日の翌日以来かもしれない。

 今日一日デスクワークでリカバリーに専念するしかないと思っていたが、先週発売した『本で床は抜けるのか』と『サリン それぞれの証』の注文が入り、決死の直納に向う。その後、打ち合わせと営業。

kansou.jpeg

3月6日(金)

 駅から家に帰る道すがら、幹線道路沿いにツタヤがある。二階建て。一階は本と文具とゲーム、二階はレンタルだ。

 たぶん郊外のどこにでもあるツタヤ、だと思うけれど週に2,3度引き寄せられるように立ち寄る。仕事でこの何十倍も本があるお店を訪れ、あるいはこだわりのお店を訪問しているにも関わらずだ。もしあなたにとっていちばん大切な本屋さんはどこですか? と訊かれたら私はこの、近所のツタヤと答えるだろう。

 ここにしかない本は、ない。でもこの町で暮らす私にとって、ただひとつの本屋さん。疲れたときも、喧嘩したときも、塞いだ気持ちのときも、ひとりになりたいときも、受け止めてくれる。本屋さんって本を買うだけの場所じゃない。

 今日もひき寄せられるようにして青と黄色の看板の下の扉を開けた。明るい店内を何の目的もなくうろつく。そして仕事中だったらとてもできない「立ち読み」をする。無意識に意識していたことに吸い寄せられる。「ロンドンで見る、買う、食べる、101のこと。」特集の「BRUTUS」と「クラシック・ヘビーデューティー」特集の「Free&Easy」を手にして、毎年、シーズン前に買っている「ELGOLAZO Jリーグプレーヤーズガイド2015」も見つける。

 その頃には仕事で味わった嫌な気分はすっかり消えている。どうだっていいや、あんなやつ。そう思いながら文庫の売り場に足を向けると、中学生くらいの女の子が棚の前に立っていた。気になる本を手にとっては、表紙と裏の説明書きを読んで、平台や棚に戻している。本は読みたいけれど、どんな本がいいのかわからないって感じ。

 声をかけたい。どんな話が好きなの? これまで読んだ本でいちばん面白いと思った本はなに? 今どんな気分になりたいの?

 そういえば先週こうやってツタヤに立ち寄ったときも中学生くらいの女の子が、文庫本の棚の前で本を探していた。東野圭吾の本を手にしてじっと説明書きを読んでいた。受験も終わって、悩んでいた進路も決まった。でも4月からの新しい生活に不安を抱え、少しでも気持ちを落ち着けたいのかも。そんなとき、本を読みたくなるのかも。それなのに読みたい本が見つけられなくて困ってる。

 だって、判断基準は表紙と帯と説明書きしかないんだもの。そんなに本を読んでいない人にとって、そこから一冊の本を選ぶのは清水の舞台から飛び降りるくらいの決断が必要だし、昔はもっと本屋さんって小さかったから選択肢が少なくて済んだけど、今は町のツタヤだって大きいから本がいっぱいあるんだもの。何冊も読んでみればいいじゃんって言われても、お小遣いは限られているし、一冊の本を読み終えられるかも不安なのに何冊も本を買うなんてできるわけない。

 自分の場合は、本好きの友達が教えてくれた。18歳の夏、「杉江には村上龍がピッタリだよ」って。そうして本と友達になれた。

 女の子は、テレビドラマの原作の本を手にとってしばらく考えている。その本を平台に戻すと、今度はイラストが表紙になったラノベを手にした。この一冊、ものすごく大切なんじゃない? 本と一生の友達になれるか、それともしばらく絶交するか。

 ねえねえ、君、一緒に探してあげようか? って、助けてあげたい。けどできない。どうしたらその言葉をかけられるようになるのかな。

3月2日(月)

 田口久美子著『書店風雲録』を再読しながら出社。

 一日中、電話、メール、そして対面して打ち合わせ。いろいろなことが一気に動き出す。私のように自分自身が空っぽの人間は、とにかく人に会って、考えることが大切。

 合間を縫って取次店さんへ電話し、今月の新刊『サリン それぞれの証』と『本で床は抜けるのか』の部決。手紙一通。

 『猪変』を多面展開していただいていた書店さんから、ほとんど売れてしまったのでと追加注文いただく。実はじわじわと売れている。理由不明ながら(この動きはラジオかな?)『果てしのない本の話』のAmazon売れ行きランキングが急上昇し、担当編集の宮里が腹を膨らます。

 先日、出版関係のJリーグサポが集まる飲み会で教わったスケジュールアプリ「ジョルテ」をインストール。すぐに浦和レッズのスケジュールをダウンロード。素晴らしい。

 帰宅後、ランニング。ランニング中、ふと明日が結婚記念日だということを思い出す。グッジョブ!

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