作家の読書道 番外編:杉江由次さん

こよなく本を愛し、書店を愛し、そして浦和レッズを愛する本の雑誌社営業マン、杉江由次氏。ほぼ毎日更新している本サイトの「炎の営業日誌」も、はや8 年。書店めぐりだけではなく、本はもちろんなぜかサッカーについても熱く語るこの営業日誌が、このたび1冊の本になりました。それを記念して「作家の読書道」番外編、杉江由次の登場です。実に意外な読書歴、というよりも人生の変遷が明らかに!

その1 「ひょっとしてアウトローだった?」 (1/9)

――えー、この度は『「本の雑誌」炎の営業日誌』を上梓されたということで、ぜひに「作家の読書道」番外編として杉江"先生"にご登場いただきたく...。

杉江 : うわーっ! やめてくださいっ! 恥ずかしいっ!(と照れながら、私物の本を机の上に並べる)

――おお、読み込んでいる痕跡がありますね。

杉江 : でも僕、18歳まで本を読んだことがなかったんですよ。

――ええっ?

杉江 : 小中高の読書遍歴は、一切ないんです。

――はあっ?

杉江 : 3つくらい理由があるんです。まず、うちの母親が、家の中で本を読んでいるような男の子が大嫌いで。5つ離れた兄が本好きで、末は博士かと言われているくらい本を読んでいたんですが、母親は兄から本を奪って捨てて外に追い出してました。それで僕は一切、本を与えられずに、学校から帰ってランドセルを置いたらすぐ「外に行け!」と言われるような状態で。近所の子と遊んでいました。

――二つ目は。

杉江 : 小学校の高学年か中学生くらいから、うちがたまり場になっていたんです。家に帰ると誰かがいるし、下手すると朝から誰かがいる。そうすると学校には行かないんですけれど。週1回学校さぼってうちに来ようとする奴が5人いるとすると、僕はもうずっと学校に行かないことになる。とにかく一人でいる時間がまったくなくて、当然本を読む時間もなかった。

――三つ目は。

杉江 : 漢字が読めなかったんです(キッパリ)。

――......。学校で読書感想文などの課題だってあったはずですよね。

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杉江 : それが嫌で嫌で、『Dr.スランプ』などの漫画の感想文を書いて叱られたりしていました。漫画は読んでいたんですよね。今でもちばあきおの『キャプテン』『プレイボール』は年末年始に実家に帰った際に、全巻読み返します。もう儀式みたいなものです。

――中学野球、高校野球の話ですよね。杉江さんはサッカー好きの印象がありますが。

杉江 : サッカー漫画も読みましたが、天才的なプレイとか、走っててゴールが地平線の向こうとかっていう描写って許せなくって。でも『キャプテン』や『プレイボール』は、地区大会とかで負けるんですよ。それでちゃんと練習して勝っていく。そこがすごく好きでした。

――現実的でない、華々しい必殺技などではなく。

杉江 : そういうものに夢を感じなかったんです。『キャプテン』では谷口くんという男の子が、お父さんと夜神社の境内で練習していたりする。そういう姿にグッとくるんですよね。

――ちなみに杉江さんがサッカーをはじめたのは?

杉江 : 小学校の時ですが、1日で辞めたんです。ちゃんとやったのは中学校の3年間だけ。

――おうかがいしていると、学校に行かなかったり、部活をすぐやめたり...。意外とアウトローだった?

杉江 : いやいや、時代がそうだったんです。中学校にバイクで来る奴もいたし、パンチパーマでウロウロしている奴もいたし。『BE-BOP ハイスクール』のリアル版みたいな感じでした。その中で見ると僕は悪くはなかったんです。

――おうちがたまり場となって、何やってたんですか。

杉江 : 麻雀をやったりファミコンをやったり。漫画がいっぱいあったから、それはみんな読んでいましたね。親はとにかく女の子さえ部屋に連れ込まなければ、何をしようが関係ないという感じで。玄関に男の靴があふれていましたね。そして18歳になるまで、本は一切読まなかった。兄貴も親父も本好きだったのに、まったくもって母親のゆがんだ教育による結果ですね。

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プロフィール

(すぎえ・よしつぐ)本の雑誌社の炎の営業マン。2008年10月に当サイトにて連載中の「帰ってきた炎の営業日誌」が書籍になり作家デビュー。本とレッズをこよなく愛す二児の父。