« 前のページ | 次のページ »

10月15日(月)

 知人のツイートで知ったnote連載の古き良き時代のノンフィクション書籍編集者氏による「その出版社、凶暴につき 情報センター出版局クロニクル」を読む。涙があふれてくる。そうだった。自分は椎名さんや藤原新也さんの本を読みこのH山さんに憧れてこの世界に飛び込んだのだ。H山さんが後に設立した三五館には手紙と履歴書送ったこともあった。

 本の面白さを十代後半になって初めて知り、あの最後のページ閉じた瞬間のもう別世界にいるような気持ちを前に、自分も本を作りたい、自分がこうして本を読んで人生を変えられたように誰かの人生を変える本を作りたいと思ったのだ。いやそんな大それたことを考えたのではなかった。ただただ圧倒的な力のある本というものに関わって生きたいと願ったのだった。

 どうにか幸運にもこの業界の片隅に潜り込め、片隅ながらも最初はその想いのもと、必死に本と格闘してきた。

 それがいつの間にか今の自分に満足したり、他人の評価を気にしたり、うまく立ち回ろうとしたり、社内のくだらぬことに愛想を尽かしたりしてるうちに出版がすっかり仕事になっていた。

 毎月雑誌を出して、単行本の営業や編集をしているうちに、あの十代最後に本気で本気で苦しんで、寝ずに過ごした明け方に覚悟を決め、親に土下座して一年分の支払った予備校の授業料をドブに捨て、少しでも本の周辺に近づこうとした情熱や想いを見失ってしまっていた。情けない。

 自分なりには頑張ってきたつもりだったけれど、自分なりなんて言い訳に過ぎない。本当に人の気持ちを揺さぶる本を作り、売ることができる人間は、こんなもので満足するものじゃない。一生満足なんてしないのだ。

 こんな惰性で生きるくらいなら、大学に行ってふつうに就職してたって何にも変わらなかった。自分はあの時、仕事を選んだんじゃない。生き方を選んだはずなのだ。

 両頬を思い切り叩かれ倒れたところを腹蹴りされた気持ちで、何度も何度も「その出版社、凶暴につき」を読み、何度も涙を流す。

 原稿の向こうで十代の自分が睨みつけている。すまなかった。こんなもんじゃない。こんなもんじゃない。

« 前のページ | 次のページ »