7月15日(金)
おじさん三人組+坪内祐三さんでワイズ出版さんへ。「本の雑誌」9月号の映画本特集の取材。
会社に戻ると、大量に積んであった在庫がほとんどなくなっている。本の雑誌社に入って20年、最大瞬間風速。1冊の本が売れることはこれまで何度かあったけど、3種の本や雑誌が同時に売れたのは初めて。こういう本や雑誌を作れる会社で働けて幸せ。ただ、残念なのは最も喜んでくれる人がこの世にいないこと。
感謝と合掌。
« 2016年6月 | 2016年7月 | 2016年8月 »
おじさん三人組+坪内祐三さんでワイズ出版さんへ。「本の雑誌」9月号の映画本特集の取材。
会社に戻ると、大量に積んであった在庫がほとんどなくなっている。本の雑誌社に入って20年、最大瞬間風速。1冊の本が売れることはこれまで何度かあったけど、3種の本や雑誌が同時に売れたのは初めて。こういう本や雑誌を作れる会社で働けて幸せ。ただ、残念なのは最も喜んでくれる人がこの世にいないこと。
感謝と合掌。
追加注文の電話鳴り止まず。アルバイトの学生を総動員して、納品に勤しむ。在庫がどんどん減っていく。
『本の雑誌』8月号と『天使は本棚に住んでいる』の重版を決意す。
『吉野朔実は本が大好き』はすでに発売前重版をしているので、これにて3点すべて重版。
「本の雑誌」は創刊40年、398号の歴史において初の重版。月刊誌を重版するのは非常にリスクが高いけれど、そんなことは言っていられない。この号は届けるべき人に届けなくてならない。
『本の雑誌』8月号、『天使は本棚に住んでいる』『吉野朔実は本が大好き』搬入。3点同時の新刊刊行は初めて。
ほとんど同時進行だったので編集部は大変だったと思うけれど、本が出来上がって手にした瞬間こんなにドキドキしたのは『謎の独立国家ソマリランド』以来。間違いなく、魂が宿ってる。
早速、直納に勤しむ。
5時30分起床。混雑を覚悟していた埼京線もまだこの時間だと空いている。しかしみな新宿止まりだったので、山手線で乗り換え渋谷へ。ドトールで矢部さんと落ち合い、コミュニティラジオ「渋谷のラジオ」に出演。
冒頭、この「渋谷のラジオ」制作部長Nさんが、以前「ほぼ日」にいて書店営業していた際、「炎の営業日誌」を熟読し参考していたという話に驚く。こんなものが参考になるのだろうか。参考にしていいのだろうか。
9時出社し、8月からジュンク堂書店松山店さんで開催していただくバックナンバー&サイン本祭りの準備をしていると取次店N社から吉野朔実劇場2点の追加注文。ネット書店の予約がたいへんなことになっているらしい。
そうこうしているうちに江弘毅『濃い味、うす味、街のあじ』の新刊見本出しで上京した140Bの青木さんが『矢部潤子とリブロ最後の日』(208GATE)を購入しにやってくる。ちょうどそこへ昼御飯をご一緒しましょうと約束していた矢部さんが来社。即席サイン会をしていると、「本のフェス」実行委員会の人々がやってきたので、そのままふたりも含め、ブレスト。そのブレスト中に、双葉社のSさんが『矢部潤子とリブロ最後の日』を買いにきたので、こちらもブレストに参加していただく。
だんだんと本の雑誌社が私の部屋化しているのだけれど、さすがに手狭で隣の空き部屋を借りてもらえないか浜本に談判。イベントもできるし、座談会もできるし、どうですか、と説得するもなかなか首を立てに振ってくれない。それもそのはず、私がヘッドロックして談判しているから。
今週は、吉野朔実劇場と本の雑誌の大反響でただでさえテンションが上がっていたのに、朝から延々たくさんの人と話、テンションはMAX。
こういう日はうまくソフトランディングしないと寝られないんだよなと思いつつ、やり投げの第一人者・溝口和洋を追った一人称評伝『一投に賭ける』上原善広(KADOKAWA)を読み出したら、これがもう私のテンションの遥か上をいくテンションで、寝るどころでなくなる。
世界記録まであと6センチを迫る大遠投をし、日本人初の遠征でWGPに挑戦した溝口和洋は、もはやアスリートというよりは探検家か冒険家だった。
度肝抜かれる逸話とトレーニングの数々に常識がぶっ飛ぶ。超一流とはまさに常識を疑い、改めて本物の常識を探求するところから生まれるのだ。
溶けるような暑さのなか、ジュンク堂書店池袋本店さんに〈吉野朔実劇場〉の原画を届けにいく。失くしたら大変とキャリーケースを手に縛り付ける。
ジュンク堂書店池袋本店さんでは、かつて吉野さんのトークイベントを開催していただいていたこともあり、縁の深いこのお店で開催できることを大変うれしく思っている。当時から担当のTさんと話していると涙があふれそうになる。
原画展は搬入とおなじ11日(月)からスタート。カラー3枚、手書き原稿1枚含む31枚の原画を展示します。
夜、社内で収録していた映画本座談会を終えたときわ書房のUさんとなぜか収録を聞きに来ていた角川のブルドーザー営業マンヘンミ氏とともに「SANKOUEN」で飲む。
酒飲み書店員大賞の頃からの付き合いなので、気心も知れており、久しぶりに終電車近くまで話し込んでしまう。こういう仲間がいるからこそ仕事を続けられているのだ。年に何度かあるいい酒。
「杉江さん、明日新刊見本出し、2点もあるじゃないですか。しかも1冊は648ページの超ぶ厚い本で、これを十数冊ずつ運んだら腕がひきちぎれちゃいますから、私も手伝いますよ」と泣かせることを言っていた事務の浜田は9時15分になってもやって来ず、ひとりで大量の本が入った袋を両手にぶら下げ、新刊見本出しへ。
腕がひきちぎれるというよりは、足が地面にめり込む。かんじきを履いてくればよかった。今回だけは、見本出しの軒数が減ったことに感謝す。
見本出し恒例「黒兵衛」で「味噌ワンタンメン」を食しパワーを充填し、会社に戻ると昨日からずっと考えていた『吉野朔実は本が大好き』を重版することを決意。印刷所に連絡をいれると「あの...、発売前ですけどいいんですか?!」と戸惑いを隠せない様子。
発売前重版とはまるで村上春樹のようで社内は沸き立つが、要するにこれは私の初版部数の設定ミスであり、初めから刷っていれば原価もぐっと下がったのだ。短期間の重版というのは実はミスでもあることを忘れてはならない。うれしいけどかなしい。
「乗り越えられる試練しか与えない」というけれど、私利私欲を捨て、人のために生き、こんなに徳を積んでいるというのに、いったい神様は今西和男にどほれどの試練を与えたら許してくれるのだろうか。
徹夜で読み終えた木村元彦『徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男』(集英社)は、木村氏が「育将」と名づけた今西和男の人物伝でありつつ、Jリーグのクラブライセンス制度の問題点とその権力に群がる人間たちの腐った精神を浮き彫りにする告発の書であった。
明け方読み終えた後も感動と慟哭でとても眠る気になれず、またすぐ冒頭から読み返したくなるほどの傑作だ。今年度【元祖】サッカー本大賞であり、「サッカー」というジャンルに拘らずノンフィクションとしてもNo1間違いなし。
特にこの秋から始まるバスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE」に注目している人は必ず読んだほうがいい。あなたがこれから生活のすべてをかけて応援するリーグが、どんな人物によって運営されるのか知っておくべきだ。
サッカーが好きというよりは、浦和レッズが好きな私は、今西和男といってもその名前くらいしか知らなかったのだけれど、この本でインタビューされているなかだけでも、森保一、久保竜彦、風間八宏、高木琢也、森山佳郎といった日本代表レベルの選手を見出し、育ててきた偉大なる人物なのであった。
しかも今西氏の場合、育てるといっても単なるプレイヤーとして育てるのではなく、「サッカー選手である前に、良き社会人であれ」と人間としてきちんと引退後も生きていけるよう育てるのであり、しかも一度面倒を見た人間を裏切ることなく、セカンドキャリアの面倒まで見ているのだ。それはトップの選手だけでなく、トップチームにあがれなかったユースの子たちの世話もしているのだ。
だから多くの選手やスタッフが今西氏のことを恩師と呼び、何かあれば報告し、困ったことがあれば相談する。その相談に応えるのが今西氏なのである。これまで木村元彦氏が心酔し、『オシムの言葉』など何度も描いて来たイビチャ・オシムと変わらぬ大人物なのであった。
しかしだからといって厚遇されたわけではなかった。特に縁もゆかりもない土地で、身を削りチーム存続に尽力を注いだFC岐阜時代の、Jリーグによるパワハラは、読んでるこちらが怒りに打ち震え、愚か者に天罰がくだるよう祈ってしまうほど酷い仕打ちを受けたのである。
それでも今西氏はそのことを多くは語らず、本書では木村元彦氏の執念の取材において、衝撃的な事実が浮き彫りにされるのであった。そういう意味では、サッカー版『殺人犯はそこにいる』清水潔(新潮文庫)なのだ。
タイトルの『徳は孤ならず』は論語の「徳不孤 必有隣」(徳は孤ならず 必ず隣あり)である。その意味は、カバー袖に書かれているとおり、「本当に徳のある高潔な人物は、決して孤立したままでいることはない。必ず理解してくれる隣人たちが集まってくる」だ。
確かに今西氏にはたくさん隣人が集まっている。しかしその功績を考えたら、まだまだ多くの隣人があってしかるべきだと思う。この本をひとりでも多くの人が読み、隣人になることを願う。
とある書店員さんが憤っていた。ある出版社の営業が来て、ある文庫の仕掛け販売をしてほしいと猛烈に売り込んできたので注文したのだけれど、Amazonを見てみたらKindle版がバーゲンで100円になっていたと。
営業は自社の電子書籍価格もきちんと把握すべし。
そしてKindleといえば先日月額1000円程度で読み放題サービスを始めると話題になっていたけれど、こういう話がでると必ず参加する出版社の「生き残りをかけて」といったコメントが載るのだが、果たしてそこまでして生き残ってどうするのだろうか。生き残ったところでそこは本も本屋さんもない、まるでコーマック・マッカーシー『ザ・ロード』のような世界なのではなかろうか。
我々がすべきはデストピアに向かってサバイブすることではなく、ユートピアを思い描き、木を植えることだ。
お給料が出たので、やっと木村元彦『徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男』(集英社)購入。本屋さんを出てすぐ読み出す。単なる人物伝を木村さんが書くわけがなく、とんでもない爆弾が仕掛けられているらしい。
『ジブリの仲間たち』鈴木敏夫(新潮新書)読む。あまりにおもしろくて、去年まで助っ人アルバイトでいたジブリ・オタクの谷口くんにLINEしてしまった。
ジブリのプロデューサーである鈴木敏夫氏が、これまでジブリの映画をどのように売ってきたかが語られているのだけれど、当然それはひとりでできるものではなく、いろんな企業のいろんな人たちと一本の映画をより多くの人に届けるために格闘してきたのである。
配給、興行、宣伝、広告...規模や仕組みは出版業界とは違うのだけれど、編集や営業といった枠を越えてプロモーションが大切になっている現在、必読の書だ。物(コンテンツ)を売るということの面白さと難しさがこの1冊に詰まっている。出版社もこれくらい一作に集中できたらいいんだけど。
朝、机を拭いていると事務の浜田が、目を充血させて出社してくる。
「どうしたの?」
「昨日も外れちゃって...」
「えっ?」
「日曜日に競馬の宝塚記念があったんです...」
もしやまた目黒さんの予想を信じて馬券を買ったのだろうか。
「メールが届いたんですよ、目黒さんから。『朗報』って件名で」
「......」
「『日頃の感謝をこめて、渾身の宝塚記念予想を送ります』って書き出しで、その後、えんえんと予想が書いてありました。最後には『今年上半期の総決算、宝塚記念で夢をつかもう! グッドラックだ!』って結ばれていたんです」
「買ったの?」
「買いましたよ。だってグッドラックですよ。幸せになれると思うじゃないですか」
「それって壺売りつける人と一緒じゃん。あの人達も『幸運を』って必ず言うでしょう」
浜田は下を向いてしまった。
「それで当たったの?」
「当りませんよ......。当たるわけないじゃないですか」
「じゃあ、なんで買うんだよ」
「だってかわいそうじゃないですか。きっともう、誰も目黒さんの予想なんて信じてくれないんですよ。だから最後に残った私ぐらいは買ってあげないと...」
「それは同情できないね」
「私に同情しなくていいんです。でも目黒さんには同情してあげてください」
「なんで?」
「だって、本当に当たらないんですよ。今回、目黒さんが本命にした馬、17頭中16着のブービーなんですよ。その前の安田記念も本命にした馬が12頭中11着のブービーで、そんな馬を本命に予想するほうが難しくないですか」
もしかすると目黒さんは、競馬はブービーを当てるものだと思っているのかもしれない。