暑すぎる。
7月半ばに涼しくなって思わず今年の夏はたいしたことないのではなんて油断したのがいけなかった。しかも本日は昼、夜と予定があり、その移動が東京、神奈川、千葉、埼玉と一都三県をまたぐ小旅行なみなのであった。
Y書店の本部でIさんとお話。Iさんとは、Iさんが売り場にいた頃しょっちゅうお会いしていたのだが、本部に異動されてからはなかなか顔を見ることができずにいた。それもこれも本部営業を苦手とする私が悪いのだが、どうしても今月の新刊『三時のわたし』を大きく展開したく、アポイントを取ったのであった。やっとお会いできたIさんであるが、なんと来月には別部署に異動になるとかで痛恨の極み。
夜は柏で、昔馴染みの書店員さんたちと酒。
かれこれ10年以上の付き合いの人たちばかりで、まったく気兼ねなく、互いの仕事の状況や本や出版の話をできる、私にとってものすごく大切な場所だ。
その思いは年々強くなるばかりで、なぜかというともはや書店さんを廻ってもこのようにゆっくり人間関係を築いていく時間はなく、ひとりの書店員さんの仕事量たるや10年前とまったく比べ物にならないほど増えているのであった。だから訪問しても数分会話できればいいもので、ほとんどがそこまでいたらず新刊の説明だけで終わってしまう。また書店員さんの、あるいは営業マンの退職も多い。
「むかしはよく出版社の営業さんとお茶を飲みにいったよね」
「今は考えられないよ」
そんな会話がこの日の飲み会でも交わされていたが、本当に余裕というものがこの業界からなくなってきた気がする。そしてその傾向はこれから一段と強くなるだろう。どうやって人間関係を築いていけばいいのだろうか。ネットか。それとも人間関係なんて不要な世界に変わっていくのだろうか。
夜遅く電車に揺られながら、『夜去り川』志水辰夫(文藝春秋)を読む。
年に1作程度、志水辰夫の時代小説を読める幸せを噛み締めつつ、じっくり一文一文読み進める。
夜になっても暑かった。
昨夜、地元の夏祭りに娘と息子を連れていった。
夏祭りといっても出店は子ども会やソフトボールのお父さんたちがやっているだけで、小さな小さなお祭りである。
そんなところでも小学校一年の息子には夢のテーマパークに映るようで、いざ連れていく間際に雨が降りだすと、肩を震わせて泣いているのであった。
妻には止められたが、傘をさして出かける。祭ばやしの太鼓を叩く音が風に乗って運ばれてきて、先ほどまで泣いていた息子の瞳は、ちょうちんの灯りを受け輝いていた。
会場に着くと、私は小遣いを渡し、小五の娘に息子を任せ、生ビールを買って、祭りの灯りの届かないところで飲んでいた。埼玉スタジアムが近いからとここに引っ越してからもうすぐ10年が経とうとしていた。顔見知りも増え、紙コップをぶつけて何度も乾杯を繰り返す。
祭りが終わると、息子と娘は手にヨーヨーやら化学反応で発光するプラスチックの管やらスーパーボールを持って、私のところに戻ってきた。
娘、私、息子という順番で、三人で手をつなぎ歩いて帰る。
「パパ、ありがとうね。お祭りに連れてきてくれて。僕、ものすごく楽しかったよ」
手にしていたヨーヨーをポンポン音を立てながら突いている息子が、見上げるようにして私に声をかけた。
★ ★ ★
人生最大の哀しみと怒りを抱えたまま出社し、猛烈な暑さのなか営業に出かける。青葉台のブックファーストやアカデミア港北店など。どちらのお店もこういうお店が家に帰る途中にあったらいいなあと思わされるお店だ。
『耳をふさいで、歌を聴く』加藤典洋(アルテスパブリッシング)。
あの加藤典洋が、日本のポップス&ロック(奥田民生、スガシカオ、じゃがたら、フィッシュマンズ、忌野清志郎、桑田佳祐)の音楽、歌詞、発言からその本質を探る評論集。NHKで放映されている佐野元春の「THE SONGWRITERS」(これも本にして欲しい!)のようで、非常に刺激的な1冊だ。
今まで訪問していなかったお店に飛び込んでみる。
残念ながら担当者さんが休みでお会いできなかったが、初めて覗いたときからどうしてもうちの本を置いて欲しいと感じていたのである。うまくいくかわからないけれど改めて訪問しよう。
そういえば私の父親も経営者という名の営業マンなのだが、その営業は基本的にいままで付き合いのある取引先を訪問する営業であって、いつも私に向かって「お前はよく見ず知らずのお店に飛び込めるな」と驚かれるのであった。
確かに勇気のいることなのであるが、飛び込んだ先での新たな出会いが、新たな仕事と新たな人間関係を築くもので、そもそもどんな人だってはじめは初対面なのである。「こんにちは」と挨拶してみない限り、世界は広がらないのであった。
まあ、ほとんどうまくいかないんだけど。
夜、大竹聡さんと中野の「ブリック」。9月発売の『下町酒場ぶらりぶらり』の校正のやりとり。
昼食をとってから電車に乗ると、もうダメだ。
クーラーの心地良い風と絶妙な振動が、私のまぶたを下ろさせる。2駅で降りなければいけないのに、気づいたら5つも6つも進んでいて、あわてて飛び降りるのもしばしばだ。
どうしてこんなに疲れているんだろうか?と思ったら、先週末は娘のサッカーの合宿に付き合っていて、休みどころか三ヶ月分くらいの疲労を背負っていたのであった。解決法は、昼飯を抜くしかなさそうなので、ここのところ一日2食で過ごしている。
書店さんを訪問するとなんだかみんな猛烈に忙しそうで、レジの列はなかなか途切れないし、抜け出せてもすぐに呼ばれているのであった。なんだと思ったら「ONE PIECE」63巻の発売日だった。初版、390万部、らしい......。
というわけで、あまりお邪魔にならないよう営業していると、なんとカバンのチャックが壊れ、閉まらなくなってしまった。書店さんを訪問するのに口の開いたカバンを持って入るというのは、一番してはいけない行為なので、あわてて適当なカバンを購入する。余計な出費。
夜、北極圏から帰ってきた角幡唯介さんと酒。
そのデビュー作『空白の五マイル』(集英社)は、「開高健ノンフィクション賞」「大宅壮一ノンフィクション賞」「第一回梅棹忠夫 山と探検文学賞」と三冠王に輝いたのであるが、8月末に出版される『雪男は向こうからやって来た』はそれ以上に面白いらしい。今から楽しみだ。
八重洲ブックセンターのUさんが連載終了時から大絶賛していた『マザーズ』金原ひとみ(新潮社)を読み始める。まだ冒頭なのだがいったいこの物語はどこへ向かっていくのだろうか。怖い。
そういえばUさんに先日お会いしたときは、『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』深町秋生(幻冬舎文庫)を熱烈にプッシュされたのだった。アウトローの女刑事もので、おそらくシリーズ化されるのではないかと話していた。これも読まねばならない。
ちなみに私のお薦めは、同じ幻冬舎でも『ツノゼミ ありえない虫』丸山宗利で、虫嫌いの私も、この異様さには思わず毎晩チラ見しているのであった。
とある書店を訪問すると、ベテランの店長さんから「あんたも頑張るね」と声をかけられる。おそらく、ちょっと厳しい店長さんなので、途中で訪問しなくなる営業マンも多いのだろう。そこへたいして注文もいただけないのに、毎月訪問してくる私を不思議に思っての発言だったようだ。
ただなんていうか、昔の書店員さんは一癖も二癖もある書店員さんが多く、そういうなかで何度も叱られ揉まれてきた身としては、逆にそういうお店ほど足を運んでしまうのであった。決して頑張っているのではなく、会いたくて行っているのだ。なんだか少しだけ認められた気がしてうれしかった。
その後訪問した吉祥寺の啓文堂さんでは、『なかよし! いのかしら7きょうだい』という京王電鉄が出版している絵本が売れていた。
小田急線を営業。
町田の有隣堂で、内澤旬子さん熱烈ラブPOPを見つけるが、本日は担当者不在で、お話を伺えず。次回訪問時には写真も撮らせていただこう。
三省堂書店成城店で、『やはりいなり』畠中恵(新潮社)の初回限定版というのが平積みされており、何かと思って手に取るとパッキングされた別梱包で「鳴家携帯ストラップ」がついているとか。
担当のMさんに話を伺うと「限定品なんで追加注文ができないのが残念なくらい売れています」とのことだが、いやはや雑誌の次はついに単行本も付録戦争が始まるのであろうか。有川浩の本なんかに付録を付けたら売れそうだ。
夜、会社で「書き下ろし時代小説担当編集者座談会」の収録。あまりに面白く笑い転げる。