通勤読書は『俺俺』星野智幸(新潮社)の再読。
どうしてつい最近読んだ本なのに、読み直しているかというと、7/18の朝日新聞書評欄での中島岳志さんの書評があまりに素晴らしかったからだ。
そういえば保坂和志さんが『四十日と四十夜のメルヘン』青木淳悟(新潮文庫)の解説で「小説というのは音楽と同じで一読すればわかるようなものでなく、『このおもしろさはどこからくるんだろう?』と考えながらもう一度読んだり、読まなくてもそのひっかかりをいつまでも持ち続けることによって、おもしろさを発見する。というか、いままで自分が知らなかったおもしろさに向かって、思考が開かれる。ということは思考の様態が変わる。」と書いているが、私のとって『俺俺』はまさにそういう小説になるだろう。
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暴力的な暑さの続く中、真面目に営業をし、笹塚駅へ無事到着。
「プシー。ベースキャンプ応答願います」
「プシー。はい、こちらベースキャンプ」
「ただいま無事本日目標だったすべての書店へのアタックを終了し下山します」
「プシー。登頂おめでとうございます! 無事の帰還キンキンに冷やしたビールとともにお待ちしております。」
「プシー。了解しました。あと少し頑張ります」
しかし炎の営業が会社の扉を開けることはなかった。
10号通り商店街に捜査隊を派遣するがいまだ見つからず。
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夜、気付いたら140Bの青木さんと飲んでいた。
「おとこは泣かない。おとこは泣かない」
朝起きると5歳の息子が窓辺でつぶやいている。坊主頭にはうっすらと汗をかいており、首の周りにできた汗疹が痛々しい。
「どうした?」と声をかけると同じ言葉を繰り返す。
「おとこは泣かない」
隣で寝ていた10歳の娘が笑いながら説明してくれた。
「今日、幼稚園のお泊り保育なんだよ」
息子、頑張れ!
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なるほどなあと思ったのは、この夜、いろんな業種の人たちが集まった飲み会でのこと。
なぜか話題が電子書籍となり、そこにいた広告系の仕事をしている人がこう話したのであった。
「もうね、スポンサー(広告主)が、iPad込みの要求をしてきてるんだよ。例えばデジタルカメラだったら、取材記事を動画で撮って、それを電子版のページに埋め込んでくれって。そうすればそのデジカメの動画撮影力がすぐ伝わるってことでしょう。それから別のスポンサーもやっぱり動画で撮影して欲しい、それを電子書籍と店頭の販促に使いたいってさ。この動きは止まらないよ」
「本の雑誌」のPDFを電子雑誌として売り出しませんか? とiPadの話題がでるずっと前から言われていて、どんなもんかとテスト版を作ったことがあった。しかし出来上がった電子版「本の雑誌」は、まあ言ってみれば紙版をそのまま取り込んだけど、あまりにチャチなシロモノで、私はそれがとても売り物にならない、いや売るべきレベルのものではないと判断し、電子化はストップしたのであった。
要するに私は出版営業として今のところ電子書籍を必要としていないのだが、広告側からすれば、もはや電子版がなければ広告が集まらないのかもしれない。ということは、そこに読者がいようがいまいが、電子化は進んでいくということだ。
35度を超える殺人的な爆暑あるいは暴暑のなか、いつも通り営業に出かける。もちろんそうやって仕事をしているのは私だけでなく、どこの出版社の営業マンも同じ様に、まるでエベレストの頂上アタックをするような息も絶え絶えな様子で本屋さんを廻っていた。
出版営業というのは「そこに本があって当然」と思われている仕事であって、だから会社の上役や編集者、そして著者からも不平を言われることはあっても感謝されることはほとんどない。
本当は年間8万点以上あると言われる新刊のなかで、その本が、大手書店の平台や町の本屋さんの棚にささっているだけでも十分評価に値する、というかその陰で、こうやって猛烈な暑さのなか営業マンが歩いているのである。
ただしそれが苦労なのかと言われるとよくわからない。
私の場合はかなり楽しんでいるというか、例えば本日は小田急線を営業したのであるが、本厚木のY書店では担当者さんがお休みで残念無念だったのだが、海老名のS書店では久しぶりの訪問になってしまったにも関わらずMさんから笑顔で迎えられ感動を覚え、そして長いつき合いである町田のY書店Sさんとは1時間ちかく話し込んでしまった。
自分の仕事の特異性みたいなものは、自分自身ではわからないのだが、今朝、水筒を渡す妻から毎日会社から出て行くの面倒くさくないの? と不思議がられたが、私は逆に一日会社にいるほうが気持ち悪いし、こうやっていろんな人に会うことがつらいことだと考えたこともない。
それはどこで人の縁がつながり、深まっていくかわからないからだ。例えば本日名刺交換させていただいたL書店Sさんと今後どのように仕事をしていくことになるのか予想もつかないのだが、例えば今深く付きあわせていただいている書店員さんたちとの最初の一歩もすべてこのようなぎこちない名刺交換から始まっているのだ。
そして何よりも本が売れたときの喜びは何ものにも代えがたい。「杉江さん売れているよ!注文、注文」の言葉以上に私の胸を熱くするのは、浦和レッズの勝利ぐらいである。
先週発売した新刊荻原魚雷『活字と自活』が、東京堂書店の売れ行きベスト1に輝く。こういう本が強いお店だけれど、それにしても1位はすごい。
担当編集の宮里をみんなでワッショイワッショイ胴上げし、浜田の先導で、ビールがあけられる。旨い!
ただしやっぱりもうちょっと涼しいほうがいいと思う。せめてあと5度、日本の温度をリモコンで下げて欲しい。風量「強」でお願いします。
通勤読書は『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』鴨志田穣(講談社文庫)。アル中闘病小説なのであるが、私の周りには酒飲みがたくさんいるので、心配になる。なにかに依存している人を弱い人間のように言うけれど、世間を顧みず(本当は顧みてまた依存するわけだが)ある一線を越えられるのは、逆に強いことなのではないか。ちなみに鴨志田穣の作品では、『日本はじっこ自滅旅』(講談社)が大好きだ。
それにしてもこの暑さは何なのだ。
油断していたら週末からいきなり35度越えだ。
何度も負けそうになりつつ、なるべく商店街のお店の自動ドアを開けながら道を歩く。もはや日陰など何の役にも立たない。すべてが蜃気楼のようだ。
最近やたらと靴を盗まれる夢を見るんだよ、と事務の浜田に話すと、パソコンで夢検索をしてくれ、「靴は社会的地位を現しているようですよ。杉江さん、偉くなりたいんじゃないですか」と指摘される。そうだよ、俺はいきなりお使いを頼まれるような社会的地位から脱出したいんだよ。
紀伊國屋書店新宿本店さんへ『放っておいても明日は来る』を直納。先日まで行われていた「出版社営業・編集が選ぶおすすめ本リレー」で売上3位に輝いたので、そのご褒美に好きな本を1冊1ヶ月間平積みさせていただけることになったのである。
実は1位だったらワゴン1台を1ヶ月間使えることができたそうで、そうなったら『放っておいても明日は来る』を多面積みし、世の中にアスクルフィーバーを起こすはずだったのであるが......。
その『放っておいても明日は来る』に登場願った韓国の出版エージェント姜さんが来日されたので、高野さんと一緒に会いに行く。
アスクルメンバーの人たちはやはりどこか思考回路が違うようで、「出版は仕事をたくさんいただいてうれしいんですが、なかなか儲からないので、もっと儲かりそうなもののエージェントをやろうかと思うんです」と言い出すので、えっなに?と高野さんと同時に訊き返すと「武器とか」と平然と言い放つのであった。
「欲しい国いっぱいあるのと思うし、金額が大きいから儲けも多いはず」
そりゃそうだろうけれど、いやはや脳を揺さぶられる対談であった。
営業に出かけようとしたら、事務の浜田から「どっち方面に行きますか?」と訊ねられる。
そうは聞かれても風のむくまま気の向く方へ、売上の匂いに誘われて歩くのが、私の営業スタイルだから答えるわけにはいかないのだ。
無視して出かけようとすると、「今日、市ヶ谷の地方小出版流通センターさんに伝票の切り替えにいかないと今月の売上にならないんですよねぇ。でも試験中で助っ人アルバイトが一人もおらず。ああ、アラフォー寸前の女子をこのカンカン照りで日焼け必至のに外に出ろってことですかねぇ。パワハラパワハラ......」と140字を超えてつぶやかれる。
けっ、日焼けサロンのマシーンが、壊れるほどの厚顔のくせしやがって......。
そして30分後、私は市ヶ谷の急な坂を汗を垂らしながら登っているのであった。
偉くなりたいと腹の底から思った夏の午後。
書店店頭の6月の売上の酷さは、私がこの業界に入って最悪かもしれない。売れない、どころかお客さんがいない。これまで好調だったお店も急激にストップした感じだ。
天気やワールドカップのせいではないかと話していたのだが、本日とある書店さんの話を聞いて、その当然過ぎる原因に気づく。
世の中にお金がないんだな。
というのも6月に発売された人気作家の新作が、発売週より、世間でいうボーナス支給週のほうが売れたというのだ。欲しいけれど買えなかった人がたくさんいたということだろう。単行本は「ボーナスが出たときにしか買えない」ものになってしまったのか......。
といっても7月になって売れているかというとそうでもなく、こちらも人気作家の新作が多数出ているにも関わらず相当苦戦しているようだ。
そんななか新宿のルミネ1にあるブックファーストさんを覗くと、売上1位に『素肌美人になれる正しいスキンケア事典』(高橋書店)という本が並べられており、むむむと奥付を見ると4月の発売の本ではないか。
これは後日聞いた話なのだが、突然売れ出して今はドーンと展開しているとかで、なんだろう夏はスキンケアなんだろうか。
どちらにしてもこのお店はこの手の実用書の反応が早いので、もしや他のお店でも売れ出すのではないか、そういえば客層の似ているとある書店さんを訪問した際、「なんか売れそうな本あったら教えてね」と言われていたのを思い出し、あわててメールをしてみる。
しばらくするとメールが返ってきて「もうこっそり売り伸ばし中で〜す」とのこと。私が気付いていないだけで、売れていたのか。
そうはいってもダイエットや小顔など美に関する本は不況に強いな。
『本の雑誌別冊 読むだけダイエット』の発売は近い!
ワールドカップが終わって私の記憶に残っているのはタコである。
あのタコに浦和レッズが今年優勝するか占ってもらうにはどうしたらいいのだろうか。
それはともかくとして、キャプテンとして頑張った「俺たちの」長谷部が、浦和レッズで優勝し中心選手として活躍していたときに「このままじゃいけない」とゼロからの挑戦となるドイツに移籍した話を改めて読み、何だか落ち着かない気分になっているのであった。
私もいつまでもここにいていいのだろうか。
出版営業マンになって17年近い年数が過ぎているが、あまりに知らないことが多すぎる。地方の書店さんのことはもちろん、取次営業というのもろくに経験していない。そしてそれはここにいる限り経験することはないだろう。それでいいのか。
そもそも私は何をしたいのか。
悶々と悩んでいると、夏だなぁと思った。
学生時代もこうやって長い夏休みに、もくもくと沸き立つような入道雲の下で、どうやって生きていくか悩んでいたんだよなあ。
38歳11ヶ月。まだちょっと悩めるか。
朝、本を読んでいると娘が覗き込んできて「何これ? 俺って字ばっかりじゃん!」と驚いたのは、星野智幸『俺俺』(新潮社)である。出来心で盗んだ携帯電話にかかってきた持ち主の<母親>に、これまた出来心でオレオレ詐欺を働いた主人公はある晩仕事から帰ると、見ず知らずの<母親>が部屋にいて、息子のように扱われるのである。慌てて本来の実家に帰るが、そこには別の<俺>がいて、気づいたら町中俺ばかりになっている。
まるで藤子不二雄の短編集みたいな話なのだが、その根底には自己とか個性とか実存とかものすごく複雑なテーマが入り乱れているのだ。ただそれらの問題ももちろんなのだが、読んでいるうちに読者である<俺>も何だかわからなくなってくるこの酩酊感がたまらない。とてもじゃないが100%理解できないけれど面白い小説であり、これは傑作だろう。
国際ブックフェアに行きたいのだが、やはり時間が取れず。
WEB本の雑誌の人たちと電子書籍とはまったく逆の方向で面白いことをしませんか?と打合せ。何ができるかわからない。原子書籍でも作るのか。
夜、浦和レッズ仲間のひとりが、イギリスへMBAを取りに留学するので、その送別会を開く。しかしMBAを取るような奴は忙しいらしく、本人が欠席。仕方ないので冬にみんなでイギリスへ押しかけることにする。プレミアリーグよ、待っておれ!
「杉江さんの大好きな西村賢太の新作が出ましたよ!」と何軒かの書店さんで声をかけられたのだが、その西村賢太は新作『人もいない春』(角川書店)の帯に書かれているとおり<破滅型私小説>作家で、せっかく手にした彼女に対しても、些細なことをきっかけにぶち切れ、暴力をふるってしまったりするのだから大変な人なのだ。
確かに私はそんな西村賢太が大好きで、おすすめ文庫王国の1位に『どうで死ぬ身の一踊り』(講談社文庫)を熱烈推薦したし、『本の雑誌』8月号ではオールタイムベストテンの原稿を依頼し、また新作も書店員さんに言われる前に、台車に積んであるのを発見し、一声かけて購入していたのであるが、むむむ、そんな大きな声で言わないで欲しい。なんだか私も破滅型のようではないか。
しかし『人もいない春』を読んで気づいたのだが、前作『瘡瘢旅行』(講談社)あたりからその破滅が柔らかくなり、爆発一歩手前、あるいは暴力までは及ばずにどこかふと止まるようになっているのだ。歩いは狙っていないと思うが、読んでいるほうは思わず笑ってしまう部分も少なくなく、この変化はいったいどうしたのだろうか。また本人も「気に入っている」とあとがきで書かれているの表題作の「人もいない春」の、この地べたから湧き出す希望は何なんだろうか。
やっぱり私は西村賢太が大好きなのである。
国際ブックフェアが開幕したので覗きに行きたいのだが、時間が取れず。
そんな夜、いつも私の営業を心配してくれているK書店のHさんから、上京されている書店員さんを紹介しますからと、飲み会に誘われる。
向った先は月島のもんじゃ焼き屋さんで、そこには京都のO書店Yさんはじめ、各店の店長さんがいらっしゃる。あわてていつも訪問出来ずにいることを謝りつつ名刺交換。こんなことだから「出版業界のレアキャラ」と言われてしまうのだ。
もんじゃ焼きをヘラヘラしつつ、話題にあがるのはやはり電子書籍。本日のブックフェアでも混雑していたのはそちら関係ばかりだったそうだ。
それにしても月島。ここに来たのは20年ぶりぐらいなのだが、もんじゃ焼き屋が異様に増えているではないか。その立ち並ぶ看板を見ながら、出版もこうなればいいんじゃないと思ったりしつつ、終電で帰宅。
今月の新刊、荻原魚雷の『活字と自活』の見本が出来上がったので取次店廻り。この暑さのなか、10数冊の本を持って歩きまわるのがどれほど苦しいかは、やった人にしかわらないだろう。というわけで営業マンには冷えた水を!
待ち時間に改めて『活字と自活』を読んでいると、そのあまりにロックな言葉にシビれまくりなのであった。編集担当の宮里は、「本好きの若い子にはどうしても読んで欲しいですね」と言っていたとおり、まさに本を通してのライフスタイルを提示した1冊だろう。
私には作れないタイプの本で、ちょっと嫉妬を覚える。
会社に帰ると、その著者である荻原魚雷さんが来社され、予約分にサインをしていただく。
売れて欲しい、というか多くの人に読んで欲しい1冊が、また出来たのである。
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- 『散歩の達人 2010年 07月号 [雑誌]』
- 交通新聞社
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宮田珠己さんの酒飲み書店員大賞受賞作にして、幻の作品であった『東南アジア四次元日記』が幻冬舎文庫から復刊され、その見本が届く。なぜ私のところに見本が届いたかというと、酒飲み書店員大賞に推薦した責任を取って文庫解説を書くよう宮田さんから依頼されたからであった。
おそらく人生最初で最後の文庫解説。しかも宮田さんの作品である。
まさにジャイアント馬場とタッグを組んだマイティー井上の気分というか、カバー表4の「解説・杉江由次」の文字が、何だか自分の本が出来たとき以上にうれしい。
そういえばすっかり報告を忘れていたが、おそらくこちらも「炎の浦和レッズ応援記」連載史上最高傑作になるであろう衝撃の回が掲載された「散歩の達人」も発売中。
いったい私は何者なのかというと、単なる出版社の営業マンで、日が出ている間は、書店さんを訪問しているのであった。
渋谷のリブロさんを訪問すると独自の文庫をセレクトした「うらなつ2010」が始まっていた。木下晋也さんがイラストを書かれた帯がとてもカワイイ。担当のYさんとは会えなかったが、100冊のリストをいただいて帰る。
しかしこの渋谷にはあと数カ月したら、丸善・ジュンク堂書店が出来るという。
渋谷の書店さんは、いったいどうなっていくのだろうか。
通勤読書は、椎名さんがPR誌「波」で、「この人の才能はますます文章界のタカラモノのような存在になっていく」と最大級の評価をしている『夏の入り口、模様の出口』川上未映子(新潮社)。「週刊新潮」連載のエッセイなのだが、見た目や名前から想像するようなとがった感じはまったくなく、とても常識的なのであった。なんだろう、この文体がいいのだろうか。
とある書店さんを訪問するといきなり「杉江さんはエライわよ、こんな暑い中汗かきながら営業に来て」と褒められる。いきなり予想外の展開なので準備が間に合わなかったが、いつも私のことを見下し、そして見放している妻と両親を連れて正座させて聞かせたいところだ。
そう言われるといっぱい汗をかいた方が良い気がし、しかし俳優ではないのでそうすぐ汗も出ず、とりあえず出ているふりをしようとハンカチで顔をゴシゴシ拭いていたのだが、しかしどうしてただ営業に来ただけで誉められるのだろうか。
謎だと思って話を聞いていると、なんだか今度、大手出版社で相当な給料を貰っていた人が希望退職し、その顛末を書いていたブログが本になるとかで、どうもその本の営業の後に私が訪問したようであった。
「どうしてそんな本売らなきゃいけないのよ。こっちの給料の何倍も貰っておいて、それでやめるからなんだっていうのよ。そもそもみんなもっと苦労して仕事探したりしているのよ」
書店員さんはプンプンなのであるが、話を聞いている限り、そのようなブログがどうして本として成立するのかよく分からない。
とりあえず「天国と地獄」というPOPとともに超零細出版社の営業マンの真実の悲哀を描いた『「本の雑誌」炎の営業日誌』(無明舎出版)を隣に置くようオススメすると、なんと冷蔵庫からキンキンに冷えたペットボトルの水を渡されるではないか。
「頑張ってね!」
クーラーのかかったお店を後にすると、モワッとする暑さに本当の汗が吹き出してきたが、それは心地良い汗であった。
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会社に戻ると、朝、発行人の浜本が「今日から本の雑誌社も社内公用語は英語だ!」と宣言したおかげで、沈黙が支配していた。
ワールドカップが始まって二度目の徹夜。
日本代表は負けてしまったが、ワールドカップの面白さはここから始まるのであった。ベスト8、ベスト4の試合こそが、ワールドカップなのである。
我が地元・春日部のL書店さんを久しぶりに訪問すると、一歩遅く、旧くからお世話になっていた書店員さんは退職された後だった。
注文書の脇に何だか異動か引越しを匂わすようなことが書かれていたのが数カ月前のことで、ずーっと気になっていたのだが、なかなかお店も行けず、そして電話もしなかったのが、この痛恨事につながるのであった。なんだろう、そういうときについ腰を引いてしまう性格はまさにこの春日部で過ごした少年時代から何ら成長していないのであった。
店長さんに話を伺うと、なんとその書店員さんは北の大地にいるそうで、こうなるともう一生会えない気がするではないか。
営業マンと書店員さんというのは当然仕事のつながりであり、それはやっぱり友達とは違うと思うのだが、その友達まではいかないにしても、それぞれの書店員さんに想いはあったりして、こういうあやふやな人間関係をなんて呼べばいいのだろうか。
自分自身これでも結構フットワークよく仕事をしてきたつもりだったが、やっぱり決定的に何かが足りないのであった。中途半端な遠慮は、意気地なし以外何ものでもないのだ。
あわててこちらも随分お世話になっているが、最近顔を合わせていなかった浦和のK書店Sさんを訪問。
そこにSさんがいるだけで何だか嬉しくなってしまったが、『おべんとうの時間』阿部直美(木楽舎)の話などして盛り上がる。
Nさん、お元気で!
伊坂幸太郎や東野圭吾の新作が出て、書店の平台が賑やかに。
しかしなぜかお客さんがいない......。ゴールデンウィーク以降、日本の人口は半分くらいになってしまったのではなかろうか。もしかして今年のゴールデンウィークはまだ続いていて、みんな長期の旅行に行っているのではなかろうか。
それくらい深刻に売り場に人がいない。