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2月22日(月)

 昨日は娘のサッカーチームの中学生の部とお父さんで試合。近年稀にみる、というかサッカー人生で最高のプレイを連発し、よもや38歳でピークがくるとは思いもしなかった。

 これは間違いなく一年以上続いているランニングの成果以外何ものでもないのだが、こうなるといつでも走っていたい。しかし世の中スーツ姿で走っているのは不審者で、街中を疾走したところで振り返られるのが山であろうし、営業で書店さんを走っていたら万引きと間違えられる。それでも私は、24時間走りたいのである。

 ところが本日スーツで心置きなく走れる場所を発見した。
 駅だ。
 通勤時の駅のコンコースには遅刻しそうになっているのか、乗り換えの関係か走っている人がたくさんいる。しかも私が乗り換える武蔵浦和駅(武蔵野線と埼京線)と新宿駅(埼京線と京王線)はホームが離れているため走りがいもある。人ごみを交わすのに必要なステップはサッカーでディフェンダーを抜く際に役立つトレーニングになるだろうし、そのまま階段を駆け上がれば、いつもは鍛えられない筋肉を刺激することになるだろう。一石三鳥ではないか。
 というわけで、本日から駅を疾走しているのである。気分はメッシ。

 WEB本の雑誌の会議の後、表参道の青山ブックセンターへ。
 相変わらず面白い品揃えをされており、思わず営業を忘れて見入ってしまう。

 帰宅途中、池袋のヤマダ電機へ。デジカメの電池が充電してもすぐ切れてしまうため買い替えにいったのだが、電池が4000円するのに、新品のデジカメが8000円程度で売られているのはどういう手品なのであろうか。出版業界もカバーや帯を1000円程度で売り出したらどうか。

 初めて地下の書籍売り場を覗いたが、そこには「ポイントで本を買おう」の張り紙。
 そうか我々が作っているのは、おまけだったのか。

2月19日(金)

 本を見た瞬間に羨ましく思う本がときにある。こういう本が作りたい、こういう本を営業したい。その本の企画、内容はもちろん、たたずまい、活字の組み方すべてから発せられる本の気とでもいうのだろうか、そういうものが手に持ったときに伝わってくるのだ。名作というのは内容に与えられる賞賛の言葉ではなく、本自体に贈られる言葉だ。

『居酒屋百名山』太田和彦(新潮社)は、まさにそんな本だ。趣味が高じて作られた「居酒屋研究会」から20年。こちらも名作の『ニッポン居酒屋放浪記』(新潮社)などで日本中の居酒屋をくまなく飲み歩き、ついにここにたどり着いたのである。ひとつのことをやり続けた人間だけが出すことができる決定版の本だ。

 北から南まで、全国百軒の居酒屋が愛情こもった文章で綴られる。そうなのだ。この本には太田和彦さんの居酒屋への愛が詰まっているのだ。かつての『ニッポン居酒屋放浪記』では、酒や肴の紹介が主であったが、今作ではお店そのものを伝える文章が並ぶ。店主の人柄、地元での愛され方はもちろん、建物、内装、酒器、燗付け器にいたるまで丁寧に描写される。もしこの世に「居酒屋」がなくなったとしてもこの本があれば再現することができるだろう。そういう意味では一級の資料価値のある本でもある。

 1軒に対して原稿用紙7枚ぐらいの文章だが、ガイドブックの文章なんかとは比較にならない。大阪の明治屋、ながほり、長崎の安楽子などは涙なしには読めない。行間から伝わる想いが素晴らしいのだ。そして何よりも、お店というものの、原点を知ることができる。紹介されている老舗の居酒屋のように、何十年も愛される続ける本になるだろう。

★    ★    ★

 田町から恵比寿を営業。

 田町のA書店さんで、平井和正の話題で盛り上がる。私たちが高校生の頃、夢枕獏など教室で貸し借りされていたっけ。「緑色の背表紙の平井和正の作品を復活してほしい」とS店長さんは話す。

 恵比寿のY書店さんは入り口の壁棚がすべて『人間失格』の文庫本になっていて壮観であった。映画の宣伝か?

 小説大好きの担当者Kさんに「面白い本ありますか?」と伺うともうすぐ発売になる乾ルカの新作『メグル』(東京創元社)が素晴らしいとのこと。

「杉江さんのおすすめは?」と訊かれたので、「アンギャマン!」と答える。

★    ★    ★

 夜、銀座の教文館のYさんと食事。
 教文館では3月19日に椎名さんのトーク&サイン会を開催。

開催日時 3月19日(金)18時30分開始(17時30分開場)
会場 教文館9階ホール 入場料 1000円(税込)
教文館にて店頭・電話ご予約受付中。
教文館
〒104-0061 東京都中央区銀座4ー5ー1
電話:03-3561-8447

2月18日(木)

 蒲田や品川などを営業。

 蒲田のY書店さんは面白いフェアをやられていることが多く、本日も入り口の平台で「不思議な生き物」フェアが開催されていた。まさにツボ。しかし「みんな見ていってくれるんだけど、なかなか買ってくれないんですよ」と担当のKさんは苦笑い。

 また大森のB書店さんでは「推薦するには訳がある」というフェアが開催されていた。こちらはお店で働く店員さんたちの推薦本フェアなのだが、絶妙なネーミングで思わずPOPを読み込んでしまう。

 品川のA書店さんでは、辻村深月さんの作品が売れているとか。直木賞候補にもなり、じわじわと読者が増えている気がする。

 また品川では椎名さんの写真展「五つの旅の物語ープラス1」がキヤノンギャラリーSで開かれているので覗いてみる。フィルムで撮られた粒子の粗いパタゴニアの写真が素晴らしい。椎名さんの写真は孤独なのにどこか温かい。

 夜は、Y書店の店長さんと酒。
 この集まりは97年から続いており、メンバーももはや同業者の枠を超えた人間関係である。だからこそ、酔いがまわると本気の議論が飛び出して、面白いのである。ときにはつかみかからんばかりの勢いで、いや実際につかみ合ったことも何度かあるのだが、本と本屋を愛する人たちとの酒は、とことん楽しい。

2月17日(水)

 上大岡のY書店を訪問すると、まるでバブル期の書店さんのように混雑していた。思わず目をこすって夢なのではないかと思ったがそんなことはなく、店長のHさんに伺うと「おかげさまで」と笑顔で話される。お店を一巡してみると、確かにお客さんの必要とする本がしっかり積まれている印象を受ける。信頼関係なんだろう。

 その後、いくつかの書店さんでいわれたのは、「文芸書(単行本の小説)の棚を減らそうと思っているんです」とのことであった。この10年で、すでにずいぶんと棚を減っているはずなのだが、売り上げから考慮するといっそう減らされる傾向にあるらしい。「すぐ文庫になりますからね」確かにそのとおりだ。

 その代わりに増える方向にあるのは実用書やエッセイなど女性向きの本だ。今ならダイエット、美しくなる、幸せになる、など。そういうものには1500円でも2000円でも出し惜しみしないとか。とある書店員さんは「お金を使ったらすぐ役立つように感じるものなら買うんじゃないですか」と分析する。

 夜遅くもっとも尊敬する書店員さんのお店を訪問する。

「ここ数年、いや本屋が金太郎飴といわれるようになってからずーっと個性のある本屋を目指してきたけど、この何年もの間で一番売れているのが、今やっている東野圭吾全点フェアなんだよね。自分が売りたいもの、じゃなくてお客さんが買いたいものをしっかり並べるのが大事なんだよね。勉強になったよ」

 個性も大事だが、やはりバランスが大切だということらしい。

2月16日(火)

 いま、私がいちばん注目している時代小説の書き手である好村兼一の新刊『行くのか武蔵』(角川学芸出版)を読む。これは宮本武蔵の新解釈を含んだ小説なのであるが、読みどころはそこだけでなく、いやそれ以上に武蔵の養父である宮本無二のキャラクターが素晴らしいのである。

 二刀流の遣い手であるのだが、負けた勝負を負けたと言えず、妻には逃げられ、戦の夜に忍び込んだ盗人を懲らしめつつ盗んだ金をフトコロに入れ、しかもその金は博打で散財してしまう。侍というのが主従の関係で成り立っているのがよくわかる小説で、主が負けてしまえばどこかに新たな主を求めなければいけないのである。特に関ヶ原以降の無二と武蔵の寄る辺を探す逃避行はその姿をあぶり出す。

 その姿を無様と読むか、人間らしさと読むかは読者によって違うのだろうが、私は宮本無二の人間らしさに非常に好感を持つのである。いやあ、面白かった。そしてこんなキャラクターを書ける好村兼一は、やはりぐんぐんと羽ばたいていくのではないか。あとがきに触れられているような続編が描かれるのであれば、その日が楽しみだ。

★    ★    ★

 太田和彦さんと単行本の打ち合わせをした後、銀座へ。
 教文館さんで行うイベントの打ち合わせ。

 山野楽器でオバチャンたちが夢中になってガチャガチャをやっているのにビックリした。東方神起らしい。

2月15日(月)

 宮田珠己さんから「まだ読んでなかったんですか。それはいけません。」と半ば呆れられた『高丘親王航海記』澁澤龍彦を読む。じっくりと読む。その傑作ぶりに驚く......というか今さらこんなことを書いていて私は大丈夫なんだろうか。しかし無知というかバカなのだから仕方ない。恥を晒してでも死ぬまでに読めて良かった。いや死ぬ間際まで、何ども読みなおすことになるだろう。

 天竺へ向かう高丘親王なのであるが、そこで描かれるのは「どこだろう、ここは。」であり、「おや、へんなものがある」であり、すなわち旅そのものである。その未知と発見がまず素晴らしいのだが、読み進めていくうちに気づくことになるのは旅=人生という主題であり、最後の章で書かれす死生観は、言葉を失うほど美しい。

 ああ、この本は文庫本ではなく、単行本で読みたかった。いや単行本を持っておきたいと思わされる本である。しかしならが読み終えた後、文庫版についている高橋克彦の解説を読むと、またこの解説の作家愛、作品愛、作品理解の素晴らしさに打ちのめされる。最高の小説に、最高の解説。

★    ★    ★

 しびれるような読書に身を委ねた後考えていたのは、あまりに体たらくな姿となった日本代表チームのことであった。私は今や浦和レッズ至上主義なので、正直代表チームがW杯でどんな成績を残そうとどうでもいいのであるが、日韓戦といえば97年のフランス大会予選の国立競技場で放たれた山口素弘のループシュートであり、その後の逆転負けの悔しさだ。あの日は確か前夜から国立競技場の隣の公園にテントを張って相棒とおると泊まり込んで日本代表を応援していたのだ。

 それが今や......。しかしこんなチームでも、こんな選手でも日本代表なのである。カズとゴンは引退していないけれど、あの頃、あるいはそれ以前に日本代表として戦った選手たちを見よ! と八王子に向かう京王線のなかで叫びそうになった瞬間、出版業界の新しい制度を思い浮かんだ。

 そうなのである。出版物には絶版はあっても引退はないのである。だからこそいつまでも『高丘親王航海記』のような名作が読めるわけだが、しかし日本代表チームのような新陳代謝は進まないのである。

 サッカーに例えて言えば、書店の棚にはいまだマラドーナやクライフが、釜本や杉山が現役で戦っているのである。スーパースターがそこにいるかぎり、現役の選手が割って入るのは至難の業だ。この10年で成功した作家は、東野圭吾と伊坂幸太郎と佐伯泰英ぐらいだろうか。

 というわけで、私が提案するのは出版物引退制度である。引退は作家の死後なのか、年齢なのか、出版後の年数なのか判断のムズカシイところだが、たとえば発表後20年で、作品を引退させなければならないとなったら書店の棚は様変わりするのではなかろうか。いつまで経っても夏には『人間失格』が売れていたのではいかんのではないか。夏目漱石もそろそろ引退してもらって、ガバリとあいた棚と平台に新しい作家が並ぶべきなのではないか。そうでないと作家が育たないし、食っていけないではないか。

 また明日で『さらば国分寺書店のオババ』は引退です、なんてセレモニーとともにフェア展開したら、名波の引退試合のように盛り上がるのではないか。引退した本ばかりを集めた新たな出版流通を作ってはどうか。

2月12日(金)

 この間の日曜日、いつもどおり先に風呂に入って、娘を待っていたら、2階から妻と娘の言い争う激しい声が聞こえた。しばらくすると階段を強く踏みならす音とともに、娘は泣きながら風呂に入ってきた。

 どうした?と訊くと「弟が私のおもちゃをなくしたのに、ママが私に探させようとする」とつっかえながら説明する。わかった、わかったと娘の背中を洗い流しながら、「風呂から出たら一緒に探そう」と私は答えた。

 息子がなくしたのは、ニンテンドーDSのカセット「マリオパーティ」だった。昼間に息子がDSを貸してと娘に言い、そのとき「マリオパーティ」を渡したのだが、それがどこに行ったのかわからない。私は髪を乾かすと息子を呼びつけ、「どこへやった? すぐに探せ」とおもちゃでごった返す部屋を指さした。

 いつもはふざけているばかりの息子も私の声に驚いたのかおもちゃ箱にひとつひとつおもちゃをかたしながら、カセットを探し出した。しかしやはりまだ5歳児である。少し目を離すと、ミニカーなどを手に遊び出してしまう。それを私が咎め、「早く探せ!」と怒鳴りつけると息子は泣き出してしまった。

「ぼ、ぼく、やってないもん」
「嘘をつくな。お前ゲームやっていたろう、すぐ探せ!」

 しばらくするとおもちゃを動かすガチャガチャする音も泣き声も聞こえなくなった。どうしたのかと部屋を覗くと、息子はおもちゃ箱に手をつっこんだまま眠ってしまっていた。まだ晩ご飯も食べてないのだが、このまま寝かせるしかないだろう。慌てて布団を敷き、おもちゃ箱に引っかかった手を引き抜くと、うなされるように「ぼく、やってない」と震えていた。「わかった、わかった」と頭を撫で、寝かしつけたのであった。

 自分の部屋でもある屋根裏部屋を探していた娘を覗きにいくと、もはや足の踏み場もない状態で、物を探す以前に物を整理しなければどうにもならないようだった。私はゴミ袋を持って、部屋に入り、片っ端から必要なさそうなものを捨てていった。

 捨てているうちになんだか悲しい気持ちになっていく。今はいらなくなったおもちゃのひとつひとつに私なりに思い出があるのだ。どこのお店で買った、本当は違うのが欲しかったのだが、売り切れていた。今、探している「マリオパーティ」だって、去年の娘の誕生日に買ってやったものだ。そのとき娘が欲しがったのはあきらかに3日で飽きるキャラクターのゲームで、私たちは店頭でケンカしながら、「マリオパーティ」を買うことに決めたのだ。

 気付いたら「かなしいなあ」と言葉が漏れていた。そしてもう探すのをやめた。

 娘は手も足も冷たくなるまで部屋を探し続けたようだが、結局カセットは見つからなかった。とっくのとうに諦めコタツに寝転がって本を読んでいた私に、「ごめんなさい」と呟きながら背中に抱きついてきた。私は「ああ」と答えて、娘を抱きしめた。

★    ★    ★

「パパ様、今日も発見できませんでした」

 その日から家に帰ると、息子が何よりも先に、カセットの有無を報告するようになった。

「お前、マリオやったのか?」
「いえ、やってません! 僕がやったのはドラえもんであります」

 そういわれてみると、息子がDSを持ってうろうろしていたとき、聞こえてきたのはドラえもんの音だった。そのことを娘に話すと、娘は漫画のようにオデコに手を当て「わからなくなってきた」と話した。

 もしやこれはその日マリオがなくなったのではなく、ずーっと前からなかったのではなかろうか。そうはいっても2センチ四方程度のものを探すのは大変だ。私は半ば諦めながら、毎日息子の報告を聞いていた。

★    ★    ★

 昨夜、家族が寝静まったあと、録画しておいたアーセナル対マンチェスター・ユナイテッドの試合を見ていた。私が現在一番好きなサッカー選手であるルーニーが、恐ろしいほどのカウンターで2点目をあげたとき、手にしていた缶チューハイがちょうど空っぽになった。

 まだ後半がある。もう一本飲もうとリモコンの停止ボタンを押し、冷蔵庫へ向かった。ついでにつまみになるようなお菓子をと、いつもお菓子が隠されている屋根裏部屋へ取りに行った。そこは娘の部屋でもあるわけだが、その部屋に入った瞬間、真っ暗な部屋の娘の机が輝いたような気がした。その瞬間の私は、ユリゲラーかMr.マリックだった。いや宜保愛子だったかもしれない。あっ全部違うな。超能力捜査官だったのだ。

 娘の机の脇には、トートーバックがかけられていた。それをむんずと掴むと中には、マンガ雑誌の付録かどこかでもらってきたポシェットや小さなバックがたくさん入っていた。直感的に怪しいと感じた。

 一つ目のポシェットを振ると、カタカタ音がした。ビンゴ! と叫びながらチャックを開けると、中から出てきたのは大きなあめ玉だった。いつ、どこでもらったあめだかわからないけれど、袋を破いて口に入れた。人工的なオレンジの味が口のなかに広がった。

 次のバックを振るとまた音がした。間違いない! そう思ってチャックを開けると、そこには赤い帽子を被ったひげ面のマリオがいたのである。

「あったどー」

 寝ている娘を揺り起こし、カセットを見せると娘は寝言のように一言呟いた。

「パパ、酒臭い」

 その隣で犬ころのようにくるまって寝ている息子に私は深く詫びたのであった。

2月10日(水)

「本の雑誌」3月号の搬入。
 今月は真剣に「書評」について考えてみた号である。発行人の浜本が「集まった原稿がみんな素晴らしかった」と話すとおり、どれもが読み応えのある原稿だ。

 なかなか伺えずにいた田園都市線を営業。

 たまプラーザの駅が再開発で大変なことになっていた。移転改装された有隣堂さんもすごい内装だ。しかしこの駅のホームで「南栗橋」行の電車が来ることに未だ慣れない。この電車に乗っていつまでも揺られていると私の実家がある春日部に着くなんて。

 夕方、もはやフィールド調査と化した、カバー折りについて取材。

 娘の誕生日なので、取材後直帰。
 ケーキカットには間に合った。わが町自慢のサンヴェールのケーキをみんなで食べる。ロウソクは9本。

2月9日(火)

 午前中は、新刊チラシの作成や太田和彦さんのエッセイ集の構成などを考える。

 午後から営業へ。
 往来堂さんを訪問すると入って右側の棚で「twitter初? twitter発 猫本フェア」が開催されていた。これはtwitter上で早川書房が「猫本を」と呟いたところ、いろんな方から猫本が推薦され、それを河出書房がネット上の本棚にまとめ、その棚を実際に往来堂さんがフェア展開している、らしいのだが、こう書いている私もイマイチよくわかっていない。

 とにかく面白そうな猫本がいっぱい並んでおり、店長のOさん曰く「土日には遠いところからtwitterを見て買いにきてくれるんですよ」と話されていたが、しかしそこはさすがのOさんである。ネット上の広がりだけでなく、こういうフェアをしているとき、そのことに興味がありそうなところへどんどん書店側が出ていかなければならないと言うのである。だからチラシを製作し、ペットショップや猫カフェに配布する予定だとか。

 その後、北千住へ移動。K書店のHさんと本屋大賞の話で面白い試みの提案をいただく。ありがたい。松戸のR書店では、いつもどおりTさんと長話になってしまう。申し訳ないと思いつつ、話はどんどん伸びていくのであった。

2月8日(月)

 もはや浦和レッズの試合がないかぎり、週末はすべて娘のサッカーとともにある。
 練習、試合、練習、試合、それでもまだ3年生だから公式戦は少ないが、これが高学年になると埼玉県内だけでなく、関東全域で試合が行われる。

「私、6年生まではサッカー、がんばる」

 そう話す娘を車に乗せて、早朝から会場に向かう。

★    ★    ★

 日本一回転ドアの多い地域を営業。書店さんの入れ替わりが激しいところなのだが、本日訪問したら一軒のお店は年末に閉店していた。これだけ人が働いているところでも、本は売れないのか。

2月5日(金)

 最近、私が会う多くの書店員さんが、ここ数年進んだ「書店の大型化」に疑問符を投げかけている。なかには自身が大型書店の店長さんだったりするのだが、何だか違ったのではないかと感じているようだ。

 八重洲ブックセンターのオープンから始まった「ない本はない」を目指す大型化は、後にジュンク堂の飛躍とともに、全国に波及していった。出版不況もなんのその、いやそれを埋めるために自転車操業と化した出版社の新刊点数の増大とともに進んでいったのだ。しかしその大型化の象徴だったジュンク堂書店池袋店のオープンから約15年、2000坪への増床から10年が経った今、書店という場は変わってきているのかもしれない。

 そう私自身も感じたのは、その大型書店で書店員さんを待っていたときだ。あまりに多くのお客さんがお店に入ってくるとともに検索機をたたいているではないか。そしてプリントアウトされた紙を持って棚に向かう。おそらくその本を手にレジに行くのだろう。

 もちろんそれは間違った行為ではないし、私自身も本を探すときにそうしているのだが、そこで行われている行動は、ネット書店で本を買っているのとまったく変わらない姿だと気付いたのだ。検索、購入、検索、購入。そう気付いた瞬間、目の前にあるリアル書店が、私にはamazonの倉庫に見えた。

 大型化は本来、本を探す、いやたくさんの本を発見する場を提案するはずだったはずだ。こんな本があったのか、こんな本も出ていたのか。それなのにどうもそういう使われ方をされていない。その辺のジレンマというか矛盾点を、私が会った書店員さんは感じているのだろう。

 そもそも本屋さんに来るお客さんというのは、何割ぐらい買う本が決まって来店しているのだろうか。私が思う購入する本が決まっている人は意外と少なく、「なんか面白い本ないかなあ」と思ってお店に入ってきている人が多いのではないか。あるいは本当は購入したい本だけでなく、他になんかないかなと思っているお客さんも多いのではないか。

 そういう浮動票的なお客さんにとって1000坪、2000坪の本屋さんは実は使いずらいのではないか。何せ文芸書の棚の前で首を振っても、著者名が「か行」から「さ行」に変わるくらいの変化しかないのである。町の本屋さんのように、となりに自然科学の本が並んでいたりしないのだ。それではあまりに発見がなさ過ぎる。

 私は一昨年の年末、中井の伊野尾書店さんでアルバイトさせていただいたのだが、そのときレジに入りながらお客さんを観察してみると、約20坪の店内をくまなく歩いて見るお客さんがたくさんいた。購入する文庫本を手に、ひとまず全部の棚を徘徊していたのだ。

 その姿と大型書店で検索機を叩いて本を買って行くお客さんの行動を比較すると、実はお店の広さは伊野尾書店のほうが広いということにならないだろうか。

2月4日(木)

 今月の新刊『キムラ弁護士、小説と闘う』の見本ができあがったので、取次店さんを廻る。

 夕方、高野秀行さんと書店で会う。高野さんは身ぐるみ剥がすインド人のような顔をして、とっても魅力的な提案をするので、思わず一週間の長期休暇を会社に申請しそうになってしまったが、私がパスポートを持っていないことを告げると、高野さんの顔は急速に萎んでいった。

 夜、本屋大賞の会議兼送別会。仲間が異動になるのだが、絶対会いに行こうと決意した。
 そこはパスポートがなくても行けるところだ。

2月3日(水)

  • キムラ弁護士、小説と闘う
  • 『キムラ弁護士、小説と闘う』
    木村 晋介
    本の雑誌社
    1,760円(税込)
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    honto
『キムラ弁護士、小説と闘う』の営業で駆けずり廻りつつ、夕方原宿へ向かう。
 私と原宿の接点は、「ちゃおスタイルショップ」しかないのであるが、今日は「買って買って」娘はいないため、それ以外の場所に向かうのである。

 竹下口から歩いて5分。そこにあるのは「Bibliotheque」(渋谷区千駄ヶ谷3-54-2  TEL.03-3408-9169)である。こちらはデザイン事務所:スーパースタジオが長年に渡り蒐集してきた蔵書を一般に開放した図書館兼カフェである。写真集やアートブック、広告関係の雑誌などなど、カッコイイ本がいっぱい並んでいるのだ。

 それだって私に関係ないように見えるのだが、何を隠そうここを整理し、お手伝いしているのが、かつて青山ブックセンターや東京ランダムウォークでお世話になっていた、最も尊敬する書店員さんのひとりIさんで、Iさんはある日突然青山ブックセンターを退職されてしまったので、ご挨拶もなにもできないまま時が過ぎていたのである。

 再会を喜びつつ、珈琲を頂く。美味しい。何だか大変居心地の良い空間で、「そのうち60年代だけに限った古本屋さんをやりたいのよ」と話すIさんの話を聞いていたらあっという間に一時間が過ぎていた。

 節分のため、早く家に帰る。鬼。

2月2日(火)

 当日記で一番取り上げている作家は誰かと言うと、おそらく山本幸久なのではないか。新作が出ればすべて読み、ほとんどこの日記で紹介してきたように思う。しかしなかなかプレイクしないのが歯がゆいのであるが、なんとなくその理由も分からないわけでもなく、逆に山本幸久にも歯がゆい思いを持って見つめていたのである。

 そんなところに新作『愛は苦手』(新潮社)が出た。帯には「"アラフォー"って自分では笑えるけど、他人にそう呼ばれると、なぜか嫌。 20代はみんな私に優しくて、30代は大丈夫と思ってて。でも気づいたら前にすすめないよ...。愛についてふと考える彼女たち──連作短編集」とあり、裏面には「ラブとピースは、どこなのよ〜!! この説明は読者の年齢・性別を限定するものではありません。愛は時々わからなくなりますので注意しましょう。」とあるから、いつもの、著者紹介にあるような「軽妙な文章と物語」の作品なのかと思って読み出したのである。

 ところがである。もちろんそういう部分は今までどおりあるのだが、この短編集の山本幸久は明らかに変わりだしたと思う。どんな変化かというと、今まで山本幸久の手のひらの上で転がされてきた"小説"が、ついにこぼれ出し、本気で"小説"と格闘しだしているのである。あるいは、今までの山本幸久は上手さが目につき、仏を彫って魂入れずな感じがどこかにあったのだが、この『愛は苦手』にはしっかり芯があるのだ。

 30代後半から40代にかけて、このままでも暮らしていけるがそれでいいのか、10代、20代の頃に考えていた人生と今生きている人生の違いのなかで、今の自分を肯定していいのか、否定して何か始めた方がいいのか、そういうものがしっかり描かれているのである。

 できることなら、私は、この方向性の長編を読みたい。そしてその先には、角田光代や山本文緒の背中が見えるのである。それはもうすぐそこだ。頑張れ! 山本幸久。

 ところで帯に「連作短編」とあるが、どこが連作なんだろうか。

2月1日(月)

 通勤読書は、待望のというか、こんな続編がでるなんて!と驚きの『世界ぐるっとほろ酔い紀行』西川治(新潮文庫)である。新潮文庫での前作が『世界ぐるっと朝食紀行』でこちらは、著者が世界中で食べ歩いた朝食を紹介した本なのであるが、その語り口が素敵で、何度か読み直している大切な本であった。

 そして今回の『ほろ酔い』では、当然ながら世界中で飲んできた酒とツマミが紹介される。その世界の広いこと。タイ、フィリピン、韓国、モンゴル、インドネシア、ベトナム、フランス、スコットランド、スウェーデン、イタリア、イギリス、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、フィジー、そして日本と中国。酒のない国はないのである。ああ、素晴らしい文庫本だ。

 朝イチで、神保町の東京堂書店さんから電話。「『新書七十五番勝負』がなくなっちゃいそうで......」。あわてて直納に向かう。それにしても本の本が売れる東京堂さんとはいえ、発売からベストテン入りをずーっとキープしており、6位、9位、5位となっているのである。すごい。

1月29日(金)

  • アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編
  • 『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』
    左剛蔵
    エンターブレイン
    8,109円(税込)
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    honto
  • 孤独のグルメ (扶桑社文庫)
  • 『孤独のグルメ (扶桑社文庫)』
    昌之, 久住,ジロー, 谷口
    扶桑社
    660円(税込)
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    honto
  • 釣れんボーイ 上 (ビームコミックス文庫)
  • 『釣れんボーイ 上 (ビームコミックス文庫)』
    いましろ たかし
    エンターブレイン
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    honto
 昼。某所で新規書店をオープンさせる店長さんと食事。
 猛烈に忙しそうなのであるが、大変楽しそうな表情でお店の図面を広げていた。もうすぐ名店が生まれるのだ。

 その後、かつてリブロ渋谷店でお世話になっていたSさんが、雑司が谷にオープンさせた、謎の本屋・ひぐらし文庫を訪問。「ただただやってみたかったのよ」と話す店内は、たった5坪ながらなんだか居心地の良い空間になっていた。本棚にはSさんのお気に入りの新刊本&古本や雑貨が、対面する側はカウンターとなっておりコーヒーや紅茶が飲める。

「まだまだなのよ〜」と話すとおり発展途上のお店だけれど、なんだかこういうことを私もしてみたい。

 給料日なので、定時にあがってブックファースト新宿店へ。京王線新宿改札から一番近い大きな本屋であり、品揃えもしっかりしているので、最近はついここに足が向かってしまう。ここは迷路のようなというか、カオス的な売り場のなっているのだが、私のコースはいつも決まっていて、文庫、新書、サッカー本を見、めぼしいものを一度精算。その後、雑誌をちろちろ見ながら、文芸、芸術、旅本と漁り、また精算。人文書を見た後、児童書コーナーに向かい、その後は階下の理工書の売り場を徘徊する。

 そしてこの日そんな無目的徘徊から素晴らしい本を発見したのであった。
 それは旅本のところに並べられていた『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』左剛蔵(エンターブレイン)で、なんだろうとページをめくってみると、写真のなかにイラストで自分を書き入れるという独特な手法で書かれた旅漫画であった。

 なんだか猛烈にピンとくるものがあって、すぐレジに向かったのであるが、これがもう帰りの埼京線で読み出したら止まらない。久しぶりに電車をわざと乗り過ごし、大宮まで埼京線に揺られてしまった。

 内容は大阪から伊勢まで徒歩で寺社仏閣をお参りしながら、野宿で向かうというただそれだけの話なのだが、この独特な手法で描かれる世界は、名作「孤独のグルメ」久住昌之、谷口ジロー(扶桑社文庫)か傑作『釣れんボーイ』いましろたかし(エンターブレイン)に通じるものがある。

 いまのところ私の2010年ベスト1である......ってまだ1ヶ月だけれど。

1月28日(木)

  • かながわ定食紀行 (かもめ文庫―かながわ・ふるさとシリーズ (63))
  • 『かながわ定食紀行 (かもめ文庫―かながわ・ふるさとシリーズ (63))』
    今 柊二
    神奈川新聞社
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    honto
 通勤読書は『定食学入門』今柊二(ちくま新書)。『定食バンザイ』(ちくま文庫)や『かながわ定食紀行』(かもめ文庫・神奈川新聞社)など定食にこだわりまくっている著者の新刊である。今までの本に比べるとさすがに定食「学」と付くだけに、その歴史から発展など事細かに定食が研究されている。それでもやっぱり読んでいると白米と味の濃いおかずが食べたくなってしまう。

 一日中社内にこもって、恒例となりつつある「本の雑誌」5月号の特集、作家さんへの出版・執筆アンケートの依頼状を書く。新人編集者が驚いていたが、100人近い作家さんすべてに私一人で対応しているのである。だから何だというわけではないが、こういう日は酒が美味い。

 というわけで夜は伊野尾書店を訪問し、こちらは個人的に研究している「カバー折り」についての取材。そのまま酒となり、なぜか最後に私が「プロレスはすごいんですよ」と釈迦に説法していたのであった。

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