その1「漫画でエンタメを知る」 (1/7)
――相場さんは新潟のお生まれですよね。
相場:一応プロフィールでは新潟の三条市になっているんですが、実態は両親とも燕市という、隣町出身の人間なんです。たまたま親が三条市に安い土地を見つけて家を建てたのでそこが所在地になったんですが、中身は燕の人間なんですよ。僕は三条の学校に行っていたんですが「お前、燕もんだな」とか言われました。それで結構内向的なガキになりまして。両親はどちらも働いていて、親父は工場をやっていて、御袋は自分の実家の会社を手伝っていて、僕は一人っ子だったので、学校が終わるとどちらかの会社に行ってました。そうすると若い従業員が20人30人いるので、彼らの休憩所とか食事場所に少年誌が全部そろっているんですよ。漫画誌が。なので、文字の本よりも先に漫画を読み始めましたね。
――「少年ジャンプ」とか「少年マガジン」とか「少年サンデー」とか。
相場:「少年キング」「少年チャンピオン」も。全部読んでいました。月並みなんですけれども、「少年チャンピオン」で連載していた手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』が好きでした。連載も読んで、単行本も買いに行って、版元には非常にいいタイプのお客さんをやっていました。あの頃は青年漫画誌がない時代でしたんで、お色気のやつや、ちょっときついナンセンスギャグのものも全部少年誌に載っていたんですよね。小学校2、3年のガキがシュールな『天才バカボン』を読んで笑ったりしていたんですよ。それを周りの大人が見て「お前、このギャグの本当の意味が分かってないだろ」っていう。それで背伸びして、ませた嫌なガキになるという典型的なパターンです。
手塚先生は小学校の間、『火の鳥』もずっと読んでいましたね。朝日ソノラマの、あのでっかい版で。いまでも読み返します。
最初のうちは文字の本はあまり読みませんでしたね。親がかなりの読書家なので「本を読め」と言って『十五少年漂流記』とか与えられるんですけれど、面白くもないじゃないですか。
――面白いですよ!(笑)
相場:後々になって面白さが分かるんですけれど、その当時はね。ちょうどNHKで『大草原の小さな家』のドラマを放送していて、ローラ・インガルス・ワイルダーの原作本も読まされて、分厚くて無理、って思ってました。その状態が小学校2年生くらいまであったんですが、3年生になると学校の図書館でホームズ、ルパン、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読み始めたんです。そうなってくると面白くてやめられなくて、今度は親が「やめろ」と言うまで本を読んでいました。
――とりわけ好きだったものはありますか。
相場:江戸川乱歩先生が子ども向けではなく、大人向けに書いたものをライトにした『パノラマ島奇譚』とか『人間椅子』とか、ああいうのが好きになって。後々親本を読んでみて「とんでもなく変態本じゃん」って(笑)。小学校高学年になるとポプラ社さんの子ども向けのホームズやルパンでは物足りなくなって、文庫でオリジナルの翻訳本を読むようになっていました。『バスカヴィル家の犬』とかがめちゃくちゃ面白くてですね。その頃は本当に、本が友達でしたね。
――あれ、冗談ではなく本当に内向的だったんですか。
相場:本当です本当です本当です!今こんなですけど。いろいろあったんですよ、この50年で。