作家の読書道 第179回:田丸雅智さん

ショートショートの書き手として、次々と作品集を発表、さらには一般参加者が作品を作る講座など、さまざまなイベントも精力的に開催している田丸雅智さん。幼い頃にハマったのはもちろん星新一さん、ではいちばん好きな作品は? 他にもハマった作家や作品や、さらにデビューに至るまでの苦労や現在の活動についてもおうかがいしました。

その1「工作が好きな子ども」 (1/5)

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  • 『なん者ひなた丸ねことんの術の巻 (なん者・にん者・ぬん者)』
    斉藤 洋
    あかね書房
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  • おしゃべりなたまごやき (日本傑作絵本シリーズ)
  • 『おしゃべりなたまごやき (日本傑作絵本シリーズ)』
    寺村 輝夫
    福音館書店
    1,296円(税込)
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  • クワガタクワジ物語 (偕成社文庫)
  • 『クワガタクワジ物語 (偕成社文庫)』
    中島 みち
    偕成社
    756円(税込)
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  • SLAM DUNK(スラムダンク) コミック 全31巻完結セット (ジャンプ・コミックス)
  • 『SLAM DUNK(スラムダンク) コミック 全31巻完結セット (ジャンプ・コミックス)』
    井上 雄彦
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  • 『HUNTER×HUNTER 33 (ジャンプコミックス)』
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――田丸さんは、どんな子どもだったんですか。

田丸:好奇心は旺盛だったと聞いています。興味がわくと夢中になってしまうようで、レストランの食品サンプルのディスプレイの前で動かなくなっていたそうです。
本はあんまり読んでいないんです。ただ、読書と言っていいのか分かりませんが、僕が0歳の頃から母親が読み聞かせを相当してくれたらしくて、膨大な量のストーリーには親しんではきているんですよね。小学校の時から図書館で本を借りるようになり、『なん者ひなた丸』という忍者見習いの話のシリーズを借りて読んだのを憶えています。それと寺村輝夫さんの「王さまシリーズ」。『おしゃべりなたまごやき』とかありましたよね。あれが大好きでした。小学校3年か4年の時に読んで忘れられないのは『クワガタクワジ物語』。子クワガタが越冬するっていう話なんですけれど、虫が好きだったので一時期それを何回も繰り返して読んでいました。

――インドアでした?それともアウトドアでした?

田丸:どちらもです。それこそ小さい頃はスポーツが大好きで、弟と一緒にキャッチボールをしたり、サッカーをしたり。一方で、工作が好きだったので、部屋でちまちま何かを作っていました。プラモデルでも既製品をそのまま作り上げるというより、勝手に改造していました。面倒で説明書を読まずに作るので、だいたい壊れるんですけれど(笑)。もともと片方の祖父が大工で、もう片方の祖父が造船所をやっていたんです。木と鉄のプロが身近にいたので、それで工作みたいなことをするのが好きでした。両親は二人とも教員で、学校の教材も身の周りにあったりしたので、幼稚園の頃から磁石の反発力で遊ぶというようなことをやらせてもらえました。家の庭に勝手に穴を掘ってゴルフのミニパターコースを造ったりもしましたね。

――愛媛のご出身ですよね。どのあたりだったんですか。

田丸:松山市の出身です。少し行けば海に出るようなところでした。両親が共働きなので海沿いにある祖父母の造船所の工場によく預けられて過ごしていたんです。それで海が好きで、作品でも海が出てくるものが多いですね。その一方で道後の奥のほうには山もあるので、山奥や雑木林をうろうろして木の穴を照らしてクワガタがいるところをほじくり返したりもしていました。今考えるといい環境でした。

――学校の作文は好きでしたか。

田丸:ダメでした(笑)。成績は別に悪くはないです。ただ、なんだか作業に近かったというか、正直、途中から「こういうの書けばいいんでしょ」というのが何となく分かってきて...(苦笑)。模範解答って数学とかよりもよっぽど感想文のほうが書きやすいですよ。だいたい小説の中で起こったことを自分の立場に置き換えて書いて、「今後も生かしていきたい」などと結んでおけば受けやすい。そうやってこなすように書いていたので、何も面白くない。別に賞をもらうこともないですけれど、成績は普通よりもよかったですね。

――将来は何になりたかったんでしょうね。

田丸:小学校高学年から中学、高校とずっと宇宙物理学者になりたかったんです。アインシュタインとか、日本でいうと佐藤勝彦さんとか、ホーキング博士とかに憧れました。もちろんちゃんと理解できていないんですけれど、何か魅力を感じたんですよね。最初はUFOとかから入ったんでしょうけれど「宇宙ってすごいなあ」と思うようになって、いろんな実用書も読むようになりました。あ、小学校低学年の頃はぶどう屋になりたかったりもしました。今別にぶどうが好きじゃないのに。どうしてだったのか分からないです(笑)。

――田丸さんはショートショート作家ですが、星新一さんの作品にはいつ頃出合ったのでしょうか。

田丸:小学校高学年ですね。僕があまりに本を読まないので母親が「星新一なら読めるでしょう」と。「昔教科書に載っていたあの作品が星新一だよ」と言われて「あ、あの面白かった話の人か」と気づいて、それから読み始めてハマっていきました。教科書に載っていたのは「おみやげ」ですね。人類が繁栄する前に宇宙人がやって来て、不老不死などの技術の粋を集めた情報を詰め込んだカプセルを置いていくんですが、時が経っても人類はその存在を知らず、知らないうちに核実験でその貴重なカプセルが塵と化してしまうという話です。
そこからはほぼ星新一さんばかり読んでいました。他に憶えているのは、親が読書好きで家に結構本があったので、たまにつまみ読みをしたこと。赤川次郎さんの「三姉妹探偵団」のシリーズはいくつか読みました。
高校時代は吉本ばななさんの本も読みましたね。それと、読書体験といえるのか分かりませんが、国語の試験問題で出てくる小説の抜粋が好きだったんですよね。小学校の頃から好きでしたが、中高くらいで「問題文のこの文章って面白い」と意識するようになりました。評論よりも小説の抜粋が面白かった。ダムの底に沈んだ町か村の話を読んで、大学に入ってから、たしか井伏鱒二を読んだ時に「これ、高校のテストの時に読んだやつだ」と興奮しました。あとは漫画ですね。

――漫画は何を読んでいたのですか。

田丸:「少年ジャンプ」「少年マガジン」「少年サンデー」あたりが中心でした。今は雑誌で連載も追いかけますけれど、昔はコミック本になったやつを買って読むことが多かったです。超メジャーどころでいいますと『スラムダンク』『ワンピース』『HUNTER×HUNTER』...。今も尾田栄一郎さんと冨樫義博さんは大天才だと思っています。『めぞん一刻』とかも読んでいました。真島ヒロさんの『RAVE』も大好きで、多大な影響を受けていると思います。
父親が漫画好きで、野球漫画のほかに『クッキングパパ』とか『美味しんぼ』とか全巻持っていたんですよ。母に「蘊蓄ばかりで料理しない」となじられていましたけれど(笑)。ああいうのは僕も読んでいました。『クッキングパパ』は今も好きです。

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プロフィール

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化された。「ショートショート大賞」の立ち上げに尽力し、審査員長を務めるなど、新世代ショートショートの旗手として精力的に活動している。著書に『海色の壜』など多数。