作家の読書道 第160回:薬丸岳さん

2005年に『天使のナイフ』で江戸川乱歩賞を受賞、以来少年犯罪など難しいテーマに取り組む一方で、エンタメ性の高いミステリも発表してきた薬丸岳さん。実はずっと映画が好きで、役者をめざして劇団に所属していたり、シナリオを書いて投稿していたことも。そんな薬丸さんを小説執筆に導いた一冊の本とは?

その1「映画を観て原作を読む」 (1/5)

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――薬丸さんは、お生まれは兵庫県なんですね。

薬丸:一応そうなんですけれど、あまり記憶にないんです。あっちこっち引っ越していたので。小学校4年か5年までは奈良にいて、それから関東に来たんですが、その後も東京と埼玉のあちこちに引っ越しておりまして。小学校だけで4回くらい引っ越しました。

――そんななか、読書の思い出はありますか。

薬丸:関西にいた頃は本を読んだ記憶はあまりないですね。読んでいたのは漫画の『少年ジャンプ』くらいでした。「キャプテン翼」や「キン肉マン」などの連載が始まった頃じゃなかったかな。唯一、『スターウォーズ』の映画が公開されて話題になっていたので、その紹介本を奈良の小学生の頃に買った記憶があります。といっても映画は観ていなくて。映画館も少ないですし、簡単に子供一人で行けないですし。うちの家族は必ず大晦日に家族で映画を観に行く習慣があったんです。田舎の映画館はロードショーが2本立てなんですが、『スターウォーズ』の上映はなかったんですね。映画で観ることができないから本を買ったんだと思います。

――今振り返ってみると、どういう子供だったのでしょう。

薬丸:暗かったと思いますよ。活発でもなかったですし。結構いじめられっ子でした。あまり楽しい思い出がないんです。友達とガンプラを作ったりはしていたので、普通に遊んでいたとは思うんですけれど。小中学生の頃は母親が「成長不良じゃないか」と心配するくらい背も低くて、背の順ではずっと一番前だったんです。高校1年生の時に25センチくらい伸びて、今は178センチあるかないかくらいなんですが。

――そんなに一気に伸びるものなんですね。ガンプラづくり以外は、なにかハマっていたことはありますか。

薬丸:父親が広告代理店に勤めていた関係で、映画の券をよくもらっていたんです。それで一人で映画を観に行くようになりました。その頃は名画座もすごく安くて、小学生なら2本立てを400円くらいで観ることができたんです。東京にいた時は近くに二子玉川の名画座があったので、そこによく行っていました。映画を観るようになってからは東京生活が楽しくなりました。

――どんな映画が好きだったのでしょうか。

薬丸:何でも観ていました。小学校の頃はロードショーものは片っ端から観ていました。『E.T.』も観れば『愛と青春の旅だち』も『バタリアン』も観て。中学校に入るともうちょっとマニアックな方向にいきまして、アメリカン・ニューシネマとか、ATGという日本のちょっとアングラな、独立系の映画会社の作品を観たりとか。中学校の時は早稲田に住んでいたので、近くにミニシアターがあったんですよね。畳敷きで、年間1万円だったかを払うと、月5本くらい自由に観られました。まあ上映しているのは『戦艦ポチョムキン』とか『灰とダイヤモンド』といった古い作品で、たまにメジャーな『イージー・ライダー』を上映する時は別料金でした。早稲田松竹も近くにあったし、その頃からレンタルビデオ屋さんもでき始めたので、貪るように観ていました。 正直、小説はあまり読んでいなくて、高校の時に夏休みの宿題でロマン・ロランとかヘミングウェイの『武器よさらば』を読んで感想をかけというのがあった時も、僕は小説を読まずにビデオを借りてきて、登場人物の名前が出るたびに一時停止して書き留めて、それで感想を書くくらいだったんです。
ただ、映画で観て好きだったものの小説を読むというパターンはありました。中学生の時か高校生の時かはっきり憶えていないんですが、『犬死にせしもの』という、真田広之さんと佐藤浩市さんと安田成美さんが出ていた海賊の映画がありまして、それが面白かったので西村望さんの原作を読んだんです。それが僕の記憶にある、おそらくちゃんと読んだ最初の小説じゃないかなと思います。

――読んでみて、いかがでしたか。

薬丸:映画よりも小説のほうがむちゃくちゃ面白かったんです。「小説って面白いんだな」と思ったきっかけとなった本です。学校の教科書に載っているような小説とはまったく違ったし、映画とは違ってその人の視点に立って描かれていくので、感情移入して読めたんです。昭和20年代くらいの話で、当時の僕にとっては結構難しかったんですけれど、でもすごく面白くて一気に読みました。それから多少は小説を読むようになりました。

――西村望さん以外には、どんな作品を読んだのですか。

薬丸:岡嶋二人さんの作品を読みましたね。確か『あした天気にしておくれ』だったと思うんですけれど、それをたまたま早稲田の古本屋で見つけて、買って読んだらすごく面白くて、そこから岡嶋さんの作品を立てつづけに読みました。

――映画雑誌や関連本などは読みませんでしたか。

薬丸:雑誌は『ロードショー』や『スクリーン』を結構買っていましたし、『ぴあ』で名画座の上映を調べて、三軒茶屋やちょっと遠くの名画座まで、観そびれてしまった映画を見に行っていました。高校の頃から役者さんに興味がありましたから、『switch』の役者さんの特集も読みましたね。サム・シェパードとか。

――とりわけ好きな役者や監督はいたのですか。

薬丸:小学校の頃からもう、スティーブ・マックイーンが好きでしたね。それは今でも変わりません。高校を出て芝居を目指していた頃は、ミッキー・ロークが好きでした。彼が全盛期の頃です。『エンゼル・ハート』とか『ナインハーフ』とか。スティーブ・マックイーンは自分にまったくないものを持っているから憧れて、まあミッキー・ロークもそうなんですが、頑張れば近づけるんじゃないかなとあの頃は思い込んでいたかもしれません(笑)。馬鹿みたいに似たようなコートを買って着たり、オールバックにしたりとかしていました。恥ずかしい時代ですよね。

――監督や俳優の自伝や伝記を読んだりもしました?

薬丸:ヒッチコックのものですとか、スティーブ・マックイーンのグラフィティとか、そういう本はよく買いましたね。シナリオもよく買っていましたよ。黒澤明さんの全集とか。黒澤さんの作品はその頃あまりビデオがなかったので観られる機会が少なかったんですが、『七人の侍』を映画館に観に行ってやっぱりすごいなと思って。後に何かの機会で『天国と地獄』を観て、これもやっぱりすごかった。『生きる』とかも。やはり、昔にこんな大胆な構成で物語を作っていたなんて、と思いました。 それと野沢尚さんが好きだったので、脚本が本になった時はよく買っていました。野沢さんはシナリオの勉強をしている頃に読んで、いろんな意味でうまいなと思いました。当時あったドラマとは全然違うタイプのものに感じて。

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プロフィール

薬丸岳 一九六九年兵庫県生まれ。二〇〇五年に『天使のナイフ』で第五十一回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。著書に『ハードラック』『友罪』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』『神の子』など多数。最新刊は、過去に罪を犯した人間を主人公に据えたエンターテイメント小説『誓約』。今、最も注目されている若手ミステリー作家のひとり。