その1「少女漫画と絵本と詩」 (1/5)
――幼い頃の読書の思い出といいますと。
加藤:一人っ子だし運動も本当にできないので、家で一人で遊ぶことが多かったんです。なので本も小さい頃から好きでした。保育園に通っていた頃に母が漫画の『コボちゃん』にふりがなをふってくれて、それで漢字が読めるようになって、そこからいろいろ読むようになりました。それはすごくありがたく思っています。でも父も母もあまり本を読まなくて、家にあるものといえば漫画で、『美味しんぼ』とか『クッキング・パパ』、『ブラック・ジャック』、『ドラえもん』、『サザエさん』とか...。『パタリロ』も小学生の頃に読んだように思います。母が谷川俊太郎さんの『はだか』や『いちねんせい』といった詩集を何冊か買ってくれて、とても面白く感じました。小説を読むようになったのは小学校中高学年の頃で、文庫のティーンズハートのシリーズがすごく好きでした。中でも小林深雪さんをいろいろ読みました。主人公がアイドルだったり、双子の女の子が出てきたりして、恋愛が絡んでくるような少女小説です。最初は表紙が可愛いなと思って買って、友達何人かで本について話したりして。もちろんコバルト派もいました...派閥というほどでもなかったですけれど。家にあった星新一さんも結構読んだし、銀色夏生さんの詩集も読みました。あとはとにかく少女漫画雑誌の『りぼん』を読んでいました。
――『りぼん』はどんな漫画が好きだったのですか。
加藤:矢沢あいさんの『天使なんかじゃない』とか『ご近所物語』、吉住渉さんの『ハンサムな彼女』、水沢めぐみさんの『姫ちゃんのリボン』とか。いまだに名作として残っているものをいろいろ。『りぼん』のDNAは私の中に確実にありますね。
――それはどういうDNAといいますか。女の子らしいものが好きとか?
加藤:例えば雨の日に子猫を拾うような不良の男の子に弱いです、今でも(笑)。『天使なんかじゃない』や一条ゆかりさんの『有閑倶楽部』といった生徒会の漫画が好きで、中学校で生徒会に入りました。いまだに少女漫画の世界で生きている感じです。
――自分でも描いたりはしなかったのですか。
加藤:いえ、絵が壊滅的に下手だったので(笑)。一人遊びの延長で、詩や物語は書いていました。でも小説家になりたいと思ったことはなかったです。国語がすごく好きで、高学年の時に先生とそういう話をしていたら、息子さんが東京でコピーライターをしていると聞いてそんな職業があるんだと思って。広告に書かれている言葉も作った人がいるんだということをはじめて意識しました。それからは「将来の夢」という欄には「コピーライター」と書くようになりました。
――作文なども得意だったのですか。
加藤:得意というか、褒めてもらうことは多かったように思います。書くことが好きだったんです。でも遊びで書いている物語も、クラスの子の名前を使って書くような、小説の体をなしていないものでしたよ(笑)。
――中学生になってからは読む本に変化はありましたか。
加藤:国語の先生が授業に絵本を取り入れる方だったんです。読み聞かせてくれたり、それぞれのおすすめを持ち寄って話あったり。私はあまり絵本を読んでこなかったので、『ぐりとぐら』のような有名な作品もその時に読みました。絵本って面白いなと思って、スズキコージさんや長谷川集平さんの絵本を図書館で借りて読んでいました。その先生は詩もよく授業に取り入れていたんです。「国語通信」みたいなものを作ってくださっていて、そこで必ず詩を一編紹介してくれたんですよね。それで自分もいろいろ読むようになって、谷川俊太郎さんはもちろん、吉原幸子さんや井坂洋子さん、木坂涼さん、室生犀星や草野心平といった日本の詩人を読んでいきました。
――詩のどういうところが中学生の加藤さんにとって魅力的だったのでしょうか。
加藤:フレーズでしょうか。短い言葉でぐっと引きつける、引力の強さに惹かれました。それは今でも変わっていないですね。はっとするような表現のある詩が好きです。
――その先生の出会いは大きかったですね。
加藤:いろいろ教わったように思います。話が脱線しますが、先生もいろいろ本を出されていて、今年出す本で私の短歌を紹介したいとおっしゃってくださっていて。大人になって先生とこんな風に仕事で関わることになるとは思っていませんでした。人のつながりのおもしろさを感じますね。