その1「母親からの読書指南」 (1/6)
――幼い頃、本を読むことは好きでしたか。
湊:母親が本が好きで、家にもたくさん本がありました。うちはみかん農家で、夏休みの時期は涼しいうちに作業をするので、母ははやいうちに家を出るんです。私が起きてくると、机の上に課題図書が置いてある。年齢にあわせて「こういうものを読んでみたらどうか」という感じで、私が読めそうなものを出しておくんです。子供用の本もありましたが、母親が自分用に買って私に与えてくれたのは「怪盗ルパン」の『八つの犯罪』でした。すごく読みやすいし、ルパン格好いい! と思って。ポプラ社のルパンのシリーズが図書室にあったので、それを読むようになりました。本棚の同じ並びに江戸川乱歩の少年探偵団のシリーズもあって、そちらを読んだら、外国名が出てくる本よりも日本が舞台の話のほうが馴染みやすく感じて、夢中になりました。あの独特の、サーカスの音色が聞こえてきそうな不気味な雰囲気も好きでしたね。なので小学生の頃は、ルパンと少年探偵団のシリーズを借りるために図書室に通っていました。
――ご実家はみかん農家だったんですね。
湊:因島はみかん農業がさかんなんです。うちは祖父母と同居していて、両親と私と妹との6人家族でした。父は会社員という、ありがちな兼業農家です。島なので、山の斜面にみかん畑があって、そのすぐ向こうには海があって。田舎の子供なので川遊びをしたし、夏は毎日のように海に行っていました。都会の子が「海水浴に行きました」と作文に書いているのを読んで、作文に書くようなイベントなんだと意外に思ったくらい。夏休みは早朝にラジオ体操に行ったあとは、午前中は外に出たらいけないという決まりがあったので、プールや海に行くのはお昼から。なので午前中と夜に本を読むという生活でした。
――お母さん、教育熱心だったんですか。
湊:自分も本が好きだし、子供は本を読めば感性が豊かになると思っていたのかもしれません。なので、毎回感想を言わせるんですよ。途中で犯人が分かったものでも、「途中でやめないで最後まできちんと読みなさい」って言われました。他の登場人物がどうなったのか、最後がどうなったのか、確認するかのように訊かれましたね。いつも自分が外にいるので、本を通じてコミュニケーションをとるという目的もあったみたいです。怪盗ルパンを薦めてくれていたのに、小学校で『小公女』や『若草物語』などの世界の名作シリーズを借りてきた時は、「ああ、そういういい本もあった、うんうん」という感じでしたね(笑)。
――お母さんに読書感想文を書かされたりしなかったのですか。
湊:書けとは言われなかったんですが宿題の感想文を読むんですよ、読まれたくないのに(笑)。隠しても探し出して読んでいました。私はわりと淡々と比喩などは使わずに書くんですが、母は「なぜそう思ったのか、そこから自分はどうしようと思ったのかを書きなさい」って。自分が小学生の頃から読書感想文などで優秀作に選ばれていたらしいので、こういう風に書いたらいい、と教えてくれていたんじゃないかな。でも、書いたものを親に読まれるのは恥ずかしかったですね。お母さんが読まなければ、私ももうちょっと踏み込んで書くのに、と思っていました(笑)。
――じゃあ、日記なんかもみんな読まれていたんでしょうか。
湊:日記は三日以上続かないので。でも小学校の宿題の日記は、隠していて学校に行く前にランドセルに入れるようにしていたのに、それも読んでいるんですよ! 小学生の隠す場所なんて、親にはすぐ分かりますよね。4つ下の妹はそこまで課題図書などは出されていなかったんですが、だいたい親って上の子に理想を託して、下の子は自由にさせますから(笑)。
――ルパン、乱歩のほかにはどのようなものを読んでいたんですか。
湊:『なかよし』に赤川次郎さんの原作の漫画が載っていたんです。『殺人よ、こんにちは』や『死者の学園祭』とか。映画になった『セーラー服と機関銃』の作者だというので、読んでみようと思いました。それまで生活圏内の書店というとスーパーの隅っこにあるくらいだったのが、中学生になった頃にやっとちゃんとした書店ができたんです。そこで『セーラー服と機関銃』をまず買って、そこからは本のあらすじの部分を読んで、10代の子が主人公のものを買って読むようになりました。でも本屋のおばちゃんが同級生の男の子のお母さんで、「あんたこんな大人が読むような本読むなんてませとる」って言われるのが恥ずかしくて。そうしたらコバルト文庫で赤川さんの本が出ているのに気づいて、ああ、自分が読むような文庫があるんだなと、そこからコバルト文庫を買い集めるようになりました。小林弘利さんの「聖クレア・ファンタジー」というSFチックなシリーズがありましたね。『月が魔法をかけた夜』など4冊あって、上級生が狼に変身するといった事件が学園内で起きるんです。それを主人公の女の子と幼なじみが解決するという内容なんですが、はじまりが「ハロー、マイダーリン」といった文章で、空想好きな主人公が彼氏もいないのに将来結婚する相手に向かって「実はこのたびこんな事件がありました」と語りかける手紙で始まるんです。エピローグも「こうして解決しました」という手紙で終わる。そういうところが好きでしたね。あとは新井素子さんの『星に行く船』や、藤本ひとみさんのまんが家マリナ・シリーズとか。