作家の読書道 第93回:佐藤友哉さん

19歳の時に書いた作品でメフィスト賞を受賞、ミステリーの気鋭としてデビューし、その後文芸誌でも作品を発表、『1000の小説とバックベアード』で三島由紀夫賞を受賞した佐藤友哉さん。もうすぐ作家生活10周年を迎える佐藤さんの、「ミジンコライフ」時代とは? 小説家を志したきっかけ、作家生活の中で考え続けていること、その中で読んできた本たちについて、ユーモアたっぷりに語ってくださいました。

その1「エヴァとラジオとホラー」 (1/6)

――いつもみなさんに幼い頃からの読書遍歴をおうかがいしているのですが...。

佐藤 : 「作家の読書道」のバックナンバーを読ませていただいたんですが、「小さいころは読んでいなかった」という方も多くて安心する一方、みんな人並み以上に読んでいるじゃないか! というのもあって、今、非常に困っています(笑)。記憶をこじあけてみると、確かに絵本を何冊かは読みましたが、まったく読まなかったというのが正直なところですね。

――ほかに何か夢中になるものがあったのでしょうか。漫画とかテレビとかゲームとか。

佐藤 : 小さい頃はまだ、ファミコンが一家に一台ある状況ではありませんでした。さらにCDもレコードもオーディオ機器もビデオデッキもない、ただの箱みたいな家に暮らしていたので、音楽であったり映画であったりという娯楽に飛びつくこともできず、子供ですから漫画をたくさん買えるわけでもないため、文化ゼロでした。あの頃、毎日毎日何をしていたのか、一切の記憶がありません。自意識が発動したのは中学生になってからで、それまではろくに本を読んでいないんです。

――小学生の頃は自意識が発動されていなかった、ということですか。

佐藤 : 小学生時代の唯一の記憶は、入学式の時に学校に行こうと思ったら道に迷って、初日早々大遅刻をしたことです(笑)。そのトラウマがあるだけで、ほかの思考なり葛藤なり喜怒哀楽なりはみじんも残っていないですね。

――人間関係を形成する過程を学ぶ大切な時期なのに。

佐藤 : しくじりの第一歩だったということがよく分かりますね(笑)。あそこでちゃんとしておけばよかったといまだに反省をしております。それでも小学校では友達もできまして、その頃にはファミコンも家にあったのでソフトの貸し借りをしたり、『週刊少年ジャンプ』を買っている子に読ませてもらったりもして、大げさにいえば他文化に触れたといいますか。漫画は読んで楽しい、ゲームはやって面白い、ということを経験した時代として小学生時代はありました。でも何かに熱中するとか、作家になりたいと思うといった、未来像につながるものはなかったです。

――中学校に入ると変化が起きるのですか。何か熱中したものができたとか。

佐藤 : 中学3年生の頃に「新世紀エヴァンゲリオン」がテレビ放送していて、なぜだか大ハマリしました。初めて何かに熱中することができました。自分の年齢が主人公たちに近いこともあったんですよね。それで、「エヴァンゲリオン」の情報をもっと得ようと調べたら、東京でラジオをやっているとの噂を聞きまして。僕は北海道に住んでいたので、例えばTBSラジオに合わせても、ロシア放送が入ってくる状態でした。基本がロシア放送で、たまにTBSラジオやニッポン放送が入ってくる。主にロシアの人の声が響く中で、東京のラジオを聞いていたわけです(笑)。

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――ロシアからの電波のほうが強かったんですねえ。

佐藤 : あとは雑誌を初めて買いました。「エヴァンゲリオン」のことが載っていると聞いて『Newtype』という雑誌を買ってパラパラめくっていたら、ラジオ番組表があったんです。当時TBSラジオで毎週月曜から金曜までの深夜0時から、パーソナリティーや内容が日ごとに変わる「ファンタジーワールド」という、角川書店が提供している番組があり、ためしに聴いてみたら、冒頭の10分がラジオドラマだったんです。それが『パラサイト・イヴ』でした。それを聴いて面白いな、続きが気になるな、と思い、原作本を買ってみたんです。

――ホラーブームの頃だったんですね。

佐藤 : ブームの真っ最中だったので、北海道の田舎でも、すぐ手に入れることができました。まったく本を読んでいなかった僕が、専門用語だらけの『パラサイト・イヴ』を頑張って読破しまして、めちゃめちゃ面白かったのですが、「こんなに面白いのか、小説は!」と、小説自体にハマったりはしませんでした。ホラーの面白さを学びはしましたが、読書経験ゼロの僕には、例えばそこからスティーヴン・キングを読んでみようという発想も知識もない。『パラサイト・イヴ』を足がかりにちょっとずつ進むしかなくて、そうなると当然『リング』になる。そうやって角川書店のホラーブームに見事に乗っかりました。とはいえ、これでようやく本を読むようになりました。角川ホラー文庫ばかりですが。

――学校の課題図書や感想文などの思い出はありますか。

佐藤 : 読書感想文、ありますよね。夏休みなどに好きな本を一冊読んで感想を書けというやつ。課題図書のカタログを見た記憶はあるんですが、読んだ記憶も書いた記憶もないので、おそらくやっていないと思います。よく逃げ切ったもんですね。カタログのあらすじを読んで、海賊の島なんて興味ないよ、と憂鬱になっていたことは覚えています。作文も全然書けなくて、原稿用紙の1枚も埋められなかった。作文のタイトルと名前を書いたら、もう何も書けないという感じでした。でも、国語の教科書は楽しく読んではいました。「よし、この作者の他の本を読んでみるか」というモチベーションにはつながりませんでしたけどね。

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プロフィール

作家。2001(平成13)年、『フリッカー式―鏡公彦にうってつけの殺人 ―』でメフィスト賞を受賞し、作家デビュー。2007年、『1000の小説とバックベアード』で三島由紀夫賞を受賞。『灰色のダイエットコカコーラ』『世界の終わりの終わり』など著作多数。