謎の地図をめぐる冒険譚『非在の街』を一気読み!

文=大森望

  • 非在の街 (創元海外SF叢書)
  • 『非在の街 (創元海外SF叢書)』
    ペン・シェパード,安原 和見
    東京創元社
    3,960円(税込)
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  • 超機動音響兵器ヴァンガード (創元SF文庫)
  • 『超機動音響兵器ヴァンガード (創元SF文庫)』
    アレックス・ホワイト,金子 浩
    東京創元社
    1,760円(税込)
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  • 宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)
  • 『宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー (ハヤカワ文庫SF)』
    倪 雪婷,立原 透耶,阿井 幸作,齊藤 正高,大恵 和実,根岸 美聡
    早川書房
    1,980円(税込)
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  • すばらしき新式食 SFごはんアンソロジー (集英社オレンジ文庫)
  • 『すばらしき新式食 SFごはんアンソロジー (集英社オレンジ文庫)』
    新井 素子,須賀 しのぶ,椹野 道流,竹岡 葉月,青木 祐子,深緑 野分,辻村 七子,人間 六度,カシワイ
    集英社
    814円(税込)
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  • 成層圏の墓標
  • 『成層圏の墓標』
    上田早夕里
    光文社
    2,090円(税込)
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  • エルギスキへの旅
  • 『エルギスキへの旅』
    森下一仁
    プターク書房
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 Hell's Cartographers(地獄の地図製作者)というのはSF作家のかつての二つ名だが、ペン・シェパードの『非在の街』The Cartographers, 2022(安原和見訳/創元海外SF叢書)★★★★½には、まさに〈カルトグラファーズ〉と呼ばれる秘密結社が登場し、幻の地図を求めて暗躍する。主人公ネルは高名な地図学者の娘。順調に地図学者への道を歩んでいたが、あるとき父の勘気を被り夢を絶たれる。数年後、急死した父が遺したのはNY市近郊の平凡な道路地図。だがその地図はあらゆる記録から消されていた。この世に1枚しかない地図の謎を追い、ネルの途方もない冒険が始まる。

 かつて地図製作会社は盗用を防ぐため地図に意図的な間違いを仕掛け、実在しない街を書き入れたという。そんな街のひとつが実在しはじめたというウソみたいな史実(ジョン・グリーンのエドガー賞YA部門受賞作『ペーパータウン』の元ネタ)からラファティ的な妄想の翼を広げたのが本書。ブッキッシュな幻想文学かと思えば警察に囲まれる絶体絶命のピンチを地図で突破するエンタメ度の高い活劇もあり、一気に読ませる。

 アレックス・ホワイト『超機動音響兵器ヴァンガード』(金子浩訳/創元SF文庫)★★★½は同じ22年に出た米国発のスーパーロボットSF活劇。時は2657年。繁栄を謳歌する人類文明圏にヒト型巨大ロボ群が来襲、殺戮の限りを尽くす。マニアックなファンを持つジャズピアニストのガスは、モナコでセレブなパーティに参加している最中、二体のヴァンガードの戦いに遭遇。死を覚悟してピアノを弾き始めたガスにロックスターのヴァイオレットが加わる。その音楽に反応したヴァンガード〈魔猫〉がガスを体内にとりこみ、共闘を求めてくる......。メカ設定は、著者が影響されたというエヴァやエスカフローネよりブレイバーンぽい感じですが、音楽設定とSF設定はよく考えられている。三部作になるらしく、次が出たらたぶん読む、かも。

 倪雪婷編『宇宙墓碑 現代中国SFアンソロジー』(立原透耶他訳/ハヤカワ文庫SF)★★★½は、21年に出た英訳アンソロジーの全訳(ただし収録作12編は中国語から邦訳)。『両京十五日』で『このミス』1位に輝いた馬伯庸の「大衝運」(齊藤正高訳)は数十億人が移動する春節ラッシュを未来の火星(宇宙港に帰省客が押し寄せる)に置き換えた悲喜こもごものドタバタ大移動小説。ベストは百頁を超える阿缺のゾンビ小説「彼岸花」(阿井幸作訳)。新型ウイルスによるゾンビ禍が広がる近未来。主人公はゾンビで、記憶のほとんどを失っているが、元恋人だという女性との出会いから徐々に人間らしさを取り戻していく。右肩から生える花はそれと関係しているのか? ゾンビのとぼけた語りが絶妙のペーソスを醸し出す。いつかゾンビ小説アンソロジーを編むことがあったらぜひ入れたい秀作。序文は夏笳。韓松の表題作、南京大虐殺を描く趙海虹「一九三七年に集まって」などのほか、顧適、念語、王晋康、糖匪、呉霜、宝樹、王侃瑜、江波が参加。

 対する『すばらしき新式食  SFごはんアンソロジー』(集英社オレンジ文庫)★★½は、食事を描くSF8編を収める(寄稿者8人のうち7人が女性)。トップを飾る深緑野分「石のスープ」は、博士が"煮るだけで栄養満点の不味いスープが無限に作れる石"を発明する。星新一のショートショートふうの懐かしい味わい。個人的ベストは、人間六度の書き下ろし「敗北の味」。給仕ロボットとの長い戦争を経て、料理文化が失われた未来。狙撃手が出会ったのは、料理をつくるウエイツだった......。再発見される古代の料理がたいへん美味そう。他に竹岡葉月、青木祐子、辻村七子、椹野道流、新井素子、須賀しのぶが参加。

 上田早夕里『成層圏の墓標』(光文社)★★★★は、新作2編を含む全10編のハイレベルな作品集。6編が《異形コレクション》掲載ということもあり、ホラー/ファンタジーとSFの中間(ややSF寄り)の作品が多い。『超常気象』初出の表題作は、雨が夜にだけ降る異常気象が何年も続く世界で、"雨坊"と呼ばれる謎めいた存在に遭遇した人々がそののち奇妙な現象に見舞われる話。SF的アイデアの扱いがなんとも独特で素晴らしく、もし『ベストSF2023』が出ていればぜひ入れたかった一編。巻末の書き下ろし中編「南洋の河太郎」は、1940年のパラオ熱帯生物研究所を舞台に、河童に似た緑色の生物との交流が描かれ、やがて戦時上海シリーズ(とりわけ『破滅の王』)とも通じるテーマが浮上してくる。未来事務管理局の春節オンラインイベント用に中国向けに書かれた宇宙SFも収録されている。

 スザンヌ・パーマー『影と陽』(はるこんブックス)★★½ははるこん恒例のGoH作品集。宇宙商人が救命ポッドを回収する話(大串京子訳)と、宇宙ステーションの果物屋で働く少年を描く話(浅井和徳・崎田和歌子訳)の2編。読後感は意外と重い。カバーと挿画はタケダサナの描き下ろし。

 森下一仁『エルギスキへの旅』(プターク書房)★★★½は、91年から94年にかけてSFマガジンに連載された長編のクラウドファンディングによる書籍化。〈騒乱〉と呼ばれる大災厄により世界が崩壊して8年後の日本。生き別れになった母の消息を求めて、11歳の少年・裕次は父に連れられ、山間の村エルギスキを訪れる。そこは極東ロシアから移住してきたツングース系エヴェンキ族がシャーマン文化を守って暮らしている村だった......。思春期の恋と青春の終わりを叙情的に描く異色のシャーマニズムSF。

(本の雑誌 2025年7月号)

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●書評担当者● 大森望

書評家、翻訳家。責任編集の『NOVA』全10巻と、共編の『年刊日本SF傑作選』で、第34回と第40回の日本SF大賞特別賞受賞。著書に『21世紀SF1000』『同 PART2』『新編 SF訳講座』『50代からのアイドル入門』など。訳書に劉慈欣『三体』(共訳)、テッド・チャン『息吹』など。ゲンロン大森望SF創作講座」主任講師。

http://twitter.com/nzm

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