東京はポエムでできている。
空と緑の都市に咲くあだ花か、アーバンライフの幻想か。
マンション広告のコピーに託された〈東京〉の正体を読む。
「本の雑誌」連載および「手のひら1」掲載「マンションポエム東京論」、「手のひら2」掲載「どこまで東京?」を全面改稿、書き下ろしを大幅に加え、再構成。
[著者プロフィール]
大山 顕(おおやま けん)
写真家/ライター。1972年埼玉生まれ、千葉育ち。工業地域を遊び場として育つ。千葉大学工学部卒業後、松下電器産業(現Panasonic)に入社、シンクタンク部門に10年間勤めた後、写真家として独立。団地研究家としの顔も持つ。著書に『ショッピングモールから考える』(幻冬舎新書、東浩紀と共著)、『モールの想像力』(本の雑誌社、監修・編)など、多数。『立体交差/ジャンクション』で令和元年度土木学会出版文化賞を受賞。
■A5判並製 ■344ページ
ISBN 978-4-86011-604-0
[目次]
はじめに 010
第一章 マンションポエムとは何か
1 マンションポエムは何を「隠して」いるか 016
▪本気では受け止められないメッセージ
▪第一位「街」、第二位「都心」
▪津田沼と港区の一億円差
▪音感失認症患者のように読む
▪図ではなく地を見る
2 マンションポエムの文法的特徴 024
▪「刻」「棲む」「澄む」
▪マンションポエムとキラキラネーム
▪句点の多用と一九九七年
▪「都市も自然も」セオリー
▪マンションポエムにコンプライアンスとリスク回避を
▪マンションポエムの真髄「を」
3 マンションポエムはいつからあるか 038
▪マンションポエムのパイオニア
▪マンションポエムとポップミュージック
4 タレント起用と埋立地開発 043
▪一九九〇年代のマンション広告コピー
▪空撮と夜景ビジュアルの影響
▪二〇〇六〜〇八年のタレントブーム
▪タレントからアノニマスへ
▪「おとぎ話が欲しいのよ」(プリティ・ウーマン)
▪「ジャン・レノ、錦糸町へ帰る。」
|コラム| チャールズへの私信ポエム 056
第二章 消費財化する街
1 街のスペックと序列 060
▪住む場所を自由に選べることは「当たり前」か
▪団地とマンションの違い
▪武蔵小杉の「ベネフィット」
▪街のスペック化
▪「住みたい街ランキング」の思想
▪名前拝借系ポエム
2 住民は街の「お客様」になる 071
▪街を遍歴して「上り」へ
▪比較可能なパラメーターの束としての人間
▪街を/人材を「享受」する
▪「迎賓」の思想
▪立地アピールのための「迎賓」
▪何を選択したかが、あなたを表す
3 「緑」とポエムの「フラットさ」 083
▪「月刊髙層住宅」を読む
▪一九六〇年代の特徴
▪「緑」の「観葉植物化」
▪説明しすぎるマンションポエム
▪アイテム化する「日本」
▪ポエムにおける主客関係
▪「ほんとに優秀な人は」
▪戦後住宅政策の画一性
|コラム| 「城」とワーカホリック礼賛 106
4 恋愛とポピュラーソング、結婚とマンションポエム 112
▪柏のラブソング
▪ポピュラーミュージックゆかりの地
▪「イエ」から脱却しポエムが召喚される
▪「入居記念日」の誕生
5 マンションポエムに残るバブル 119
▪「男は、こうありたいね。」
▪マンションポエムアニメ
▪マンションを買えば、娘さんと恋人同士になれますよ
▪「ファミリーの一日」に見るジェンダーバイアス
▪マンション口コミ掲示板の地獄絵図
▪クイーンでもマダムでもなく「プリンセス」
|コラム| 横浜、湘南、アンダルシア 131
・夫婦間の郷土愛問題
・戸塚はどこへ行こうとしているのか
・「その横浜は、本物か。」
第三章 マンションポエムと鉄道
1 吊革につかまって都市を把握する 142
▪同心円メソッド
▪3・11首都圏「帰宅ログ」
▪鉄道依存性方向音痴
▪中央線は「方向音痴」
▪人間はどうしようもなく方向音痴
▪都市をダイアグラムとして認識する
▪川の代わりの皇居
▪「われわれには時だけが残された」
|コラム| 金沢は「へ」、富山は「が」 157
2 東京は「田んぼ」 161
▪路線図界の問題児
▪東京の地下にはパリが広がっている
▪成熟した都市はストリートでできている
▪NYの地下鉄の浅さ
▪家康の「帰宅困難」対策
|コラム| 地名のポエム化 168
・恐ろしい忖度
・「奏の杜」問題
3 どこまで東京? 174
▪原木中山は日本橋の「飛び地」
▪「瞬間環境転換装置」
▪「都心」を謳う苦心
▪定義とイメージのズレ
▪「どこまで東京?」
▪せたがやたがやせ
▪イメージの東京、その千差万別
▪各線の集計結果
▪川を渡る狼
▪なぜ地名はまとまっているのか
▪「東京」の外は北海道
▪千葉っ子、無駄にシビア
▪真の敵は神奈川
▪「東京のおじさん」
▪住めば東京(みやこ)
|コラム|AIはマンションポエムを謳えるか 216
4 マンションポエムは「電車住宅」を目指す 222
▪世界征服系ポエム
▪ポエム大航海時代
▪鉄道を「住まい」の一部として売る
▪実現していた「電車住宅」
|コラム| 大阪・京阪線沿線のポエムキャラ 230
|コラム| マンションポエム分析から見る東西比較 236
・首都圏には「歴史」がなく、関西には「緑」がない
・関西の「地」、首都圏の「街」
第四章 垂直に伸びた郊外
1 聳え立つ「裏面」 244
▪三万階建てのタワーマンション
▪工法・構造の時代
▪居室の裏側
▪裏面から都市を見る
▪「福音」としての眺望
▪「装飾」としてのマンションポエム
2 垂直に伸びた郊外 252
▪構造を持たない「ヤドリギ物件」
▪鉄道高架を縦にするとマンションになる
▪閑静な住宅街を都心に出現させる
▪垂直のオアシス
▪縦の洞窟
3 武蔵小杉のタワーマンションに住む鴨長明 263
▪垂直に立ち上がった台地の傾斜
▪一二一二年の「郊外文学」
▪分譲へのアンチテーゼ
|コラム| 不思議なエレベーター 270
・街を「縦割り」にする鉄道
・「最寄り駅」という「階」
4 超高層住宅住民への「怖れ」 274
▪「土から離れては生きられない」
▪現代の「異常な」郊外文学
▪郊外からタワーマンションへ
▪マンション屋上の浄水場
▪死から住民間の格差やいじめへ
▪『家族ゲーム』と高層団地
▪社会問題をあぶり出す「高さ」
▪高層物件「災害」物語の元祖
▪バベルの塔とWTC
▪「ホテルライク」による「怖れ」の緩和
|コラム| 超高層の「上から目線」が嫌われる時代 289
・叩けば誇りが出る
・自慢げな「憧憬」「羨望」
・SNS的「感じのよさ」へ
5 ポエムが隠す「うたかた性」 300
▪商品化した住宅
▪国家経済の詩
▪災害と住宅論
▪コロナ禍のマンションポエム
▪再び・マンションポエムは何を隠しているか
|コラム| 京都の観光ポエムと歴史のアイテム化 308
・東京はせいぜい江戸時代
・京都の千年モノポエム
・寝殿造りのマンション
・「是非もなし」
・観光ガイドとマンションポエム
・投資物件の台頭と観光型ポエム
・歴史のアイテム化
6「世界は自由に想像できる。」 323
▪作り話のマンションポエム
▪フィクションの「異物」
▪歴史のNIMBY
▪「良い感じの歴史」を選ぶ
▪「東京湾に切り取られた欠損部」
▪「海の周囲に厳かな埒を結うのだ」
▪マンションポエムの「晴海化」
あとがき 341