オリジナル文庫大賞

2021年のオリジナル文庫大賞は三川みり『龍ノ国幻想』に決定!

単行本の文庫化ではなく、初めから文庫として刊行される「オリジナル文庫」の大賞を勝手に決める「オリジナル文庫大賞」はいよいよ10年目。今年も書評家4名+文芸編集者7名&北上次郎の12名が集結したぞ!
  • 龍の国幻想1 神欺く皇子 (新潮文庫)
  • 『龍の国幻想1 神欺く皇子 (新潮文庫)』
    三川 みり
    新潮社
    781円(税込)
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  • サンドの女 三人屋 (実業之日本社文庫)
  • 『サンドの女 三人屋 (実業之日本社文庫)』
    原田 ひ香
    実業之日本社
    748円(税込)
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  • 置き去りのふたり (小学館文庫 す 17-1)
  • 『置き去りのふたり (小学館文庫 す 17-1)』
    砂川 雨路
    小学館
    704円(税込)
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  • 血と炎の京 私本・応仁の乱 (文春文庫)
  • 『血と炎の京 私本・応仁の乱 (文春文庫)』
    健, 朝松
    文藝春秋
    979円(税込)
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候補作一覧

『サンドの女 三人屋』原田ひ香(実業之日本社文庫)
『インナーアース』小森陽一(集英社文庫)
『龍ノ国幻想〈1〉神欺く皇子』三川みり(新潮文庫nex)
『置き去りのふたり』砂川雨路(小学館文庫)
『血と炎の京』朝松健(文春文庫)
『凜として弓を引く』碧野圭(講談社文庫)



北上 それでは、オリジナル文庫大賞の選考会を始めます。ええと、このオリジナル文庫大賞、今年で第10回です。だからどうだってわけじゃないんですが。
編E もう10回なんだ。早いね。
北上 それでは、まずみなさんの点数を聞いていきましょう。コメントはあとで。5点満点です。小数点はなし。
編A はい。じゃあ、ぼくから行きます。まず、『サンドの女』が5点。
北上 いきなり満点だよ、すごいな。
編A うまいですよねこの著者は。
北上 コメントはあとでいいです。採点を先に。
編A はい。『インナーアース』2点。『龍ノ国幻想』3点、『置き去りのふたり』1点、『血と炎の京』2点、『凜として弓を引く』が2点です。
北上 はい、それでは次の方。
編B 『サンドの女』から順に4点4点4点2点3点3点です。
北上 満点の作品はなしと。
編B そうですね。
北上 それでは、ええと、次は誰?
評A 私です。いきます。3点4点4点2点3点2点。
北上 また満点なしか。
評A ダントツに抜けた作品はなかったということですね。でも、粒揃いでどれも面白かった。
評B ぼくも満点なしです。ええと、4点3点4点1点4点2点。
北上 『置き去りのふたり』に、みんな、厳しいね。そんなに悪い作品じゃないと思うんだけど。
評C ぼくはその『置き去りのふたり』に3点をつけました。
北上 ほお。
評C 順番に採点をつければ、4点3点2点3点3点3点。
編C 次、行きます。2点4点4点2点3点3点。
北上 まだ満点が出ないね。
編D ぼくも満点はありません。4点4点3点2点3点1点です。
編E お待たせしました(笑)、満点ありです。
北上 どれが満点?
編E 『血と炎の京』が5点です。
評B おお、すごい。
北上 最初から全部の採点を言ってくれる?
編E はい。4点4点2点1点5点3点。
北上 5点が光るなあ。
編F いいですか僕がいっても。
北上 はいどうぞ。
編F 4点3点4点2点4点3点。
北上 もう全員、終わった?
評D まだです(笑)。
北上 おお、悪い。
評D 4点3点5点1点5点2点。
評B すごい。満点が2作。
評D 本当は1作にしたかったんですが、どうしても1作に絞れないので、2作に満点をつけました。
北上 それでは全部の集計を出すまで、しばらく待ってください。
編G ぼくの採点も聞いてください笑。
北上 いや、悪い悪い。
編G 4点3点3点2点3点3点です。
北上 最後は私ですが、3点4点4点3点3点4点。
評B 北上さんも満点はなしですか。
北上 そうなんだよ。それでは、集計を。
編B 『サンドの女』45点、『インナーアース』41点、『龍ノ国幻想1』42点、『置き去りのふたり』22点、『血と炎の京』41点、『凜として弓を引く』31点です。
編E 6作中4作が差のない接戦だ。
北上 ええと、『サンドの女』『インナーアース』『龍ノ国幻想1』『血と炎の京』の4作がほぼ横一線か。
評B でもね、『インナーアース』には満点なしなので、実質的には3作が横一線と言ってもいいんじゃないですか。
北上 まあまあ、それではそれぞれの作品に対するコメントを聞いていきましょう。でも6作全部の評は載せられないので、そうだな、3作にしましょう。必ずしも自分が最高点をつけた作品に対するコメントじゃなくてもかまいません。どうしてもこれは言っておきたいという作品があったら、コメントをつけてください。
編A はい。ぼくは『サンドの女』に5点をつけたんですが、これはシリーズの第2作ということですが、これだけでも十分に楽しく読める。筆力もいちばん安定していますよ。『インナーアース』は、面白そうな話なので最初は期待しましたが、女性の造形が古臭いですね。『龍ノ国幻想』は、敵があまりに類型的。もう少し彫りが欲しかった。そんなところです。
北上 はい、ありがとう。
編B 『サンドの女』は圧倒的にうまかった。『インナーアース』は設定にわくわくしましたが、あとは尻つぼみ。文章も粗い。『龍ノ国幻想』は悪役の彫りが甘い。でも力のある人だなという印象でした。
評A 『サンドの女』は図抜けてうまいけれど原田ひ香さんにはもっと弾けたものを書いてほしい。ええと、あとは『置き去りのふたり』かな。
北上 君は低い評価だけど。
評A 採点は2点なんですが、あえてコメントをつけておきたい。置き去りにされるのは普通ひとりなんですよ。
北上 そうなの?
評A そうですよ。でも、ここではそれをふたりにする。それがこの小説のポイントですよね。つまり定型を外している。文章はまだ粗いけど、その意気を買いたい。
北上 なるほど。ええと、次は?
評B ぼくです。『サンドの女』は安心して読めますが、オリジナル文庫大賞にはもっと刺激的なものが欲しい。『インナーアース』はお仕事小説が冒険小説になっていく構成はいいけれど、前半のケービングの描写はいらなかったんじゃないかなあ。『龍ノ国幻想』は意外に悪くない。ぼくは異世界もの、ファンタジーは苦手なんですが、ミステリー的部分はしっかりしているし、日常よりも大きなものを描いているのがなによりもいい。
北上 ほお。
評C 『サンドの女』は前作の繰り返しでないところがうまいです。特に欠点がない。『血と炎の京』は、伝奇小説としての破天荒さをもっと出してほしかった。『凜として弓を引く』は、弓道を学ぶ手順が単調だった。『置き去りのふたり』は、謎を探っていくという構成が面白い。
編C 『龍ノ国幻想』は出たばかりの第2巻を読んだんですが。
北上 ちょっと待ってね。今回の候補は第1巻の「神欺く皇子」で、第2巻は対象外なんだけど。
編C そうですよね。だから参考程度に聞いてほしいんですが、第2巻を読むともっといい。
北上 そう言われると早く読みたくなるなあ。
編C それと『サンドの女』は、前作から読んだほうが絶対に面白い。これだけ読んでも面白いってどなたかが言ってましたけど、ここから読むのは反対です。
北上 それは難しい問題だな。
編D 次は私なんですが、いっていいですか。
北上 おお、いいよ。
編D 『サンドの女』はみなさんがおっしゃったことに付け加えることはないんで。『インナーアース』は、地底探検お仕事小説ですよね。地図を作るという地味な話を、ここまで壮大な話にしていて、楽しく読みました。このあとに、地図を作る平岡陽明『道をたずねる』を続けて読んだので、地図小説にはまりそうです。『龍ノ国幻想』は都合のいい展開が多すぎると感じました。
編E 何といっても『血と炎の京』だよ。これを読むまでは、『サンドの女』か『インナーアース』が今年の大賞と思っていましたが、『血と炎の京』を読んだら断然これ。歴史ものが好きということはあるんだけど、骨皮道賢と日野富子を二つの核として応仁の乱を描くというのがいいよ。よく出来た西陣の織物みたい。
編G でもなあ、骨皮道賢なら垣根涼介の『室町無頼』のほうが圧倒的に面白いよ。それに比べるとなあ。『血と炎の京』もよく調べてわかりやすく書いているけど、創作の部分は都合よすぎる。あとは『置き去りのふたり』。点数は低いけど、謎を追っていくというアイディアはいいんだよ。もったいないと思う。肝心の男がろくでなしすぎるだろ。それをくつがえしてくれるものがないと納得できない。たとえば、消えたカリスマということなら、桐野夏生さんの『インドラネット』があるけど、最後の迫力が半端ないし。
評A 桐野さんと比べたら、可哀想でしょ。
北上 それはそうだな。
編F その『置き去りのふたり』ですが、この設定はめっちゃいい。まだ小説は粗いけど、将来性はありますよ。ぼくの一推しは『龍ノ国幻想』ですが、こういうものは映画とかコミックよりも小説のほうが絶対にいい。
北上 もう全員のコメントはすんだかな。
評A 満点を2作につけたDさんがまだですよ。
北上 おお、悪い。その満点の理由を聞きましょう。
評D 満点は『龍ノ国幻想』と『血と炎の京』なんですが、まず『龍ノ国幻想』。異世界ファンタジーは苦手というか、存在意義がわからないくらい読むのが辛いんですが、これはよかった。性役割に縛られた世界で、かつ男女ともに逸脱が死を意味するという設定なので、主人公が秘密をかかえているというだけで緊迫感が生まれて、ずっとテンション高めでした。文章もよく、続けて読みたい作品ですね。
北上 『血と炎の京』は?
評D 骨皮道賢と日野富子を中心にして応仁の乱を描くという着想がよくて、さらに血の匂いが立ち上がってくる戦闘の描写もよく、さすがは中世ものの名手ですね。これをハードカバーで出せない日本の出版界は実にせちがらい。

オリジナル文庫大賞表.jpg
北上 ということで、みなさんの評も出そろったんですが、どうしようか。
編C 北上さんがまだですよ。
北上 おお、そうか。それではみなさんの評価が低い2作にだけコメントをつけておきます。まず、『置き去りのふたり』。これはどなたかが言いましたけど、謎を追うという展開がいい。さらに言うならば、感傷に流されていない。たしかにまだまだ小説としては甘いけれど、奥行きのある作家だと思うので長い目で見ていきたい。『凜として弓を引く』は、碧野さんの作品はほぼ読んでいると思うけど、いちばんいいんじゃないかなあ。昔懐かしい青春小説という感じがする。神社の境内の隅にある道場の、しんとした静けさが伝わってくる。そういう余韻がいい。
編A でも点数的にはその2作は少し離れているから──。
編E 残り4作から決めるべきかな。
評A 4作じゃなくて、満点のある3作を対象にすべきだと思う。『サンドの女』『龍ノ国幻想』『血と炎の京』の3作。
編B その中でも、いちばん点数が高いのは『サンドの女』です。
編G 点数順でいいのなら、こんな会議をする必要はないよね。
北上 そりゃそうだ。でも、このあとどうするの? その4作なら、甲乙つけがたいからなあ。
評A 異世界ファンタジーが苦手のDさんが『龍ノ国幻想』を絶賛している意味は大きいと思う。
北上 そういう力をこの作品が持っている、ということだね。
編C 第2巻もいいから(笑)。
北上 よし、それでは2021年のオリジナル文庫大賞は、『龍ノ国幻想』に決定!

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