11月25日(水)本屋さんで思い出す

  • 尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照 (ハヤカワ文庫JA)
  • 『尚、赫々【かくかく】たれ 立花宗茂残照 (ハヤカワ文庫JA)』
    羽鳥 好之
    早川書房
    1,056円(税込)
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飲み会まで少し時間があったので、駅前にあった本屋さんに入った。30坪ほどのまさしく街の本屋さんだ。

雑誌売り場をふらふらしていると肩の力が抜けていくのがわかった。まるで山に登り森林浴を味わっているような心地だ。元を正せば本も木だから同じ効果があるのだろうか。

学参、実用、文芸と棚にそって足を進め、文庫の棚に辿り着いたとき、「そういえば俺なんか本を買おうとしていたな」と思い出す。

なんだったけ? 買う気になっていた本があったはず。ちくま文庫だった気もするけれどとちくまの棚と5冊ほど平台にささっている新刊を見るも背表紙に思い当たる文字がない。

ちくまじゃなくて......と新刊コーナーで目を動かしていると、ある一冊が光って見えた。ああ! これだ!と手を伸ばした。光っていたのは羽鳥好之『尚、赫々たれ 立花宗茂残照』(ハヤカワ文庫)だった。

そうなのだ。先週の大阪出張の帰りに新幹線の乗車まで時間があり、新大阪の駅の中にある本屋さんをぶらぶらしていたのだ。

そして文庫売り場の一角にPOPが立っており、何やら縄田一男さんの強烈な推薦コメントがでかでか記されていて、手にとったのだった。手に取りながらそういえばこの本、新刊のときに北上次郎さんが熱烈に推薦してたなと思い出したのだ。

買おう、と思ったのだがすでにリュックがぱんぱんだった。もちろんそれもほとんど本なのだった。新幹線の中で読む本はすでにあり、リュックの中には積読本というか詰め読本が山なのだ。

仕方ない。今日は買わずに神保町か営業先に伺った本屋さんで買おうと平台に本を戻したのだけれど、そのこと自体をすっかり忘れていた。

それが今、本屋さんに入り、棚を眺めているうちにまるでタイムカプセルを開けたかごとく思い出す。

そして私は本を手にレジに向かった。

11月25日(火)単純作業

朝8時、出張明けで一週間ぶりの出社。溜まっている仕事が山ほどあるのだけれど、それに手をつける前に、高野秀行さんの初のZINEの予約注文分の発送をせねばならず。せねばならずと言ったところで、そう簡単にできる量ではないのであった。さらに2点同時に刊行し、そしてサインありサインなしとあるものだから、発送する本が4種類に及ぶのだ。これで混乱しないなんてことはなく、全集中で対応せねばならない。

事務の浜田を図書カードで雇い、ラベル出しと納品書の印刷をお願いする。そうしているうちに高野秀行さんがやってきてZINEにサインしていただく。もはや製造直売所だ。2時間ほどかけてサインしていただいたのち、納品書を二つ折りし、ラベルを封筒に貼っていく。

今夜何時までかけても終わらせたい気持ちはあるものの、夜の8時半からオンラインの座談会があるのだった。それまでには家に帰らねばならない。

やっぱり俺は町工場の倅だなあと思うときはこういうときだ。あれはたしか小学6年生のときだったと思うけれど、独立したばかりの父親の会社に遊びに行ったとき、会社は新たに受けたばかりの仕事でおおわらわになっていた。するとパートのおばさんから「つぐちゃんも手伝って」と声をかけられ、プラスチックの部品を組み付ける製造ラインに入れられたのだった。

めんどくさがるかすぐに飽きてしまうようなその単純作業に私は没頭したのだった。左の人から流れてくる部品を私が所定の位置に差し込み、それを右の人に渡す。左の人も右の人もベテランだから仕事が早い。私が戸惑えば両隣の人の手を止めてしまう。

必死も必死で作業に冒頭していると気づけば2時間が経っていた。休憩のブザーが鳴り、お茶を振る舞われると、周りのおばちゃんたちが心底感心した様子で私を褒め称えてくれたのだ。それは私が手先を使う単純作業に向いていると気づいた瞬間でもあった。

今、私は納品書を手にして、必要な本を取り、封筒に詰め、それを台車に乗せるという作業を繰り返している。納品書はまだまだ厚く、封筒の束もたくさんある。声も発さず、黙々とそれをこなしている。

夕日が差し込む窓の向こうから父親が見ている気がした。

11月24日(月・祝)レディア

朝、息子を駒場スタジアムに送り、その後、妻と娘と美園のイオンにできた浦和レッズのマスコット、レディアのショップを覗く。

娘はそのまま仕事に行き、妻と私は家に帰って、終日ぼんやり過ごす。さすがに疲れているのか走る気もせず。

11月23日(日)文学フリマ

10時に国際展示場でAISAの小林渡さんと待ち合わせ。国際展示場はすでに長蛇の列ができており、それは文学フリマの出店者と一般入場者とで分かれていた。我々は高野秀行辺境チャンネルという団体で参加を申し込んでいたため出店者の列に並び、一般入場開始の1時間半前に会場に入る。

サッカーコート一面くらいに日本中の会議室から集められたのではと思わされるほどの長机がずらりと並んでいる。事前送られてきていた「せ-72」というブースを探すとすでにお隣さんが開店準備をスタートされていた。

そうなのだ。申し込むときについケチってしまい、一コマしか申し込まなかったのだ。だから今日高野秀行辺境チャンネルに割り当てられたスペースは、長机の半分、90センチ×45センチしかないのである。ここに大人2人が座り、本(ZINE)を売るのだ。

事前に送って置いた荷物を取りにいき(段ボール5箱)、すぐに開封して売り場を作る。

並べる商品は高野秀行『チャットGTP対高野秀行 キプロス墓参り篇』『寛永御前試合』、高野道行『ヘレネの旅』、内澤旬子『こんにちはヤギさん!』、ツカヌンティウスよしゆき『旅する、本屋巡る。』、本の雑誌社『神保町日記』、「高野秀行辺境チャンネル粗品タオル」、さらに間違う力Tシャツの8アイテム。机はパンパンだ。

準備をしているといろんな人に声をかけられる。いろんな出版社の人が会社だったり、個人だったりで出店しているのだった。その顔がみな上気しているのがわかる。

12時になり、一般のお客さんが入場されると続々と高野さんのZINEを買い求めにいらっしゃる。1時前に高野さん自身がやってきてブースに立つともはやお客さんが途切れず、まさしく飛ぶように売れる状態に。売り子は高野さんと渡さんに任せ、私は補充に勤しむ。そしてとにかく周りのブースの人たちにご迷惑をおかけしないよう気をつける。

やっと人心地がついたときには終了の30分前の4時半だった。文学フリマおそるべし。そしてなによりも高野秀行おそるべし。

なにせ高野さん、お客さんに立って応対し、両手で本を受けとり、両手で本を手渡すのだ。さらにそのお客さんに30度のお辞儀をしてお見送りまでしていた。これだけ真摯な接客ができるなら明日から三越の売り場に立っていても違和感がないだろう。

いったいどこでこんな立派な接客を学んだのだろうか? そういえば酒を主食とするエチオピアのデラシャでは、ひょうたんに入った酒を両手で受け取ると書いていた。そしてそれを次の人に両手で渡すとも。きっとそこでは「美味しい」といってお辞儀もすることだろう。

もしやデラシャで接客研修を受けていたのか。

11月22日(土)長い距離を走る

明日、文学フリマに出店するため、週末実家介護はお休み。しかしそれは今週だけでなく、来週末はROTH BART BARONのライブとスッキリ隊出動があり、再来週末は「出会う つながるブックフェス in Matsudo」に出店するため、母親は三週間施設に預けっぱなしとなる。

母親のことは考えないようにしたいが、どうしても顔が浮かぶ。

長い距離を走る。

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