12月24日(水)赤神諒『夏鶯』(集英社)
あの、たとえ口を押さえてもしゃべり続けるであろう多弁で雄弁なPOP王こと内田剛さんが、感に堪えない様子で「いいんですよねええ」と一言いったきり言葉を失っていた赤神諒『夏鶯』(集英社)。
その様子が気になり読み始めたところ、最近では飲み会で出版界の明石家さんまとも呼ばれる私も無言になって、内田さんのようにただただ読了後、本を撫でさすってしまった。
本をおすすめするのには言葉が必要なんだけれど、本当にすごい本を読んだときには言葉を失ってしまうものなのだ。
しかし言葉を失う前には、何度も何度も何度も激しく涙を流すことになるので、この本を読む前にはティッシュペーパーかフェイスタオルを傍に用意しておくことをおすすめする。
まず冒頭で幕末の1868年に吉備藩の行列をフランス人が横切り発砲事件となった「三宮事変」が記される。そしてすぐに時代は25年ほどさかのぼり、吉備藩金谷村の一人の俊英が登場する。その俊英は砲術家の家督を継ぐ藩士の次男・滝田蓮三郎といい、文武共に頭ひとつどころかいくつも抜きに出ており、末は吉備藩どころか日本を支える存在になるだろうとめされている。
読者は当然ここで気づくのだ。冒頭に記された吉備藩の行列を率いていたのが滝田とあったことに──。
それ以上のことを語ってはこの本を読む喜びを奪ってしまうので一切ストーリーには触れない。とにかく何も知らずに読み、どうして? なんで? もうやめて!とあなたも物語の濁流に飲み込まれてほしい。
それにしてもを『夏鶯』を読まずして2025年のベストを語っていた自分の愚かさを大いに恥じたい。申し訳ございませんでしたと深く首を垂れる。誰に? 読者に。著者に。そしてやっぱり北上次郎さんに。北上さんだったら速攻で手にして大絶賛していたことだろう。
そろそろ仕事納めとなろうかと思うが、帰りに本屋さんに寄ってぜひ『夏鶯』買って帰ってほしい。
この本が読めたことで、2025年がいい年だったと思えるはずだ。







