12月2日(火)ブックツーリズム・イン・群馬

夕方、高崎線に揺られながら、これから前橋や高崎を足繁く通うことになるだろうと確信していた。それだけ前橋や高崎の本屋さんが面白いのだ。もしかすると群馬は、本好き、本屋好きの人におすすめのブックツーリズムの街なのかもしれないと思った。

前橋には老舗の「煥乎堂」さんがあり(本日も覗いたけれどこれぞまさしくTHE本屋の品揃えに胸が震えた)、すぐ近くの商店街にはこの夏オープンした「本屋水紋」さんがあり(感度のたいへんよいぴかぴかの独立系書店さんだった)、本日は訪問できなかった「HENGENI BOOKS」さんや絵本専門店「本の家2」さんもあるそうだ。

そういえば以前絲山秋子さんと訪問した「フリッツ・アートセンター」さんも忘れられないお店であり、さらに駅前には「TSUTAYA BOOKSTORE」さんがあって、ショッピングモールには「紀伊國屋書店」さんもある。

そして高崎はなんといっても「REBEL BOOKS」さんがある。独立系書店でオープン9年といったらもう老舗といってもいいだろうが、その歳月が棚にしっかり積み重ねられており、ここがカルチャーの発信基地だということがびんびんと伝わってくる。

まだまだ魅力的な本屋さんが群馬にはたくさんあるはずで、それらを訪れるために私はこれから何度も高崎線に揺られることになるだろう。

12月1日(月)筋肉痛

  • 沖縄 最後の追い込み漁―宮古島狩俣集落・友利組―
  • 『沖縄 最後の追い込み漁―宮古島狩俣集落・友利組―』
    大浦 佳代
    南方新社
    2,860円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

筋肉痛もなく9時半に出社。毎朝の定番となりつつある高野秀行さんのZINE『チャットGTP対高野秀行 キプロス墓参り篇』と『寛永御前試合』の出荷作業から本日の仕事がスタート。

11時に『おすすめ文庫王国2026』の見本を持って、市ヶ谷の地方小出版流通センターさんへ。その地方小さんで大浦佳代『沖縄 最後の追い込み漁 宮古島狩俣集落・友利組』(南方新社)を購入する。

このまま吉祥寺へ向かい今週末にオープンするヒロミブックスさんに納品とご挨拶。こちらのお店は「探検と冒険の本、身体が喜ぶデリ、スイーツ、喫茶」の組み合わせになるそうで、店主が敬愛する関野吉晴さんの話などで盛り上がる。

夕方、会社に戻ってオンラインの打ち合わせ。

11月30日(日)学問の棚

スッキリ隊出動のため、朝10時半に新小平の駅で立石書店岡島さんに車で拾ってもらい、都内某所に向かう。

現地に到着すると写真で送られてきていた通り、玄関までのアプローチが階段なのだった。数えてみると33段あり、ということは車が満載となる100本を下ろすのに50往復1650段登り降りするということだ。こんな計算が早くなってもなんの意味もないのだが。

依頼主にご挨拶をして、蔵書を拝見させてもらう。そして言葉を失う。

そこには30年以上古本屋をし、市場の仕切りもしていた岡島さんや古書現世の向井さんも見たことがない近現代史の資料が綺麗に背表紙を見せて並んでいるのだった。

蔵書の持ち主は大学の先生だったそうで、お亡くなりになる寸前まで本を広げ、研究に没頭していたらしい。

まさに「学問」の棚である。GoogleもAIも到底及ばぬ知の泉のような書庫だった。本とはそういうものなのだ、と改めて教わるような思いで、いくつもの書庫を巡った。

スッキリ隊をやってきてよかった、とその棚を見ながら深く深く思う。

階段は結局、60往復合計1980段を登り降りした。呼吸はまったく乱れなかった。

11月29日(土)ROTH BART BARON

今週も週末実家介護はお休みで、母親は施設に預けっぱなしなのだった。

なぜにお休みなのかというと今もっとも愛するアーティスト、ROTH BART BARONのライブがあるからだ。これだけはどうしても行きたい。行かないわけには生きている意味がないと予定を組んだところ、その前後の週に「文学フリマ」と「出会う つながるブックフェス in Matsudo」が入ってしまい、結果母親を3週迎えにいけないという事態になってしまったのだ。

介護をはじめて約2年、週末に母親を施設に預けているといまだに罪悪感を覚えるのだけれど、過ぎてしまえば忘れてしまうというやけくそな気持ちも備わりつつある。いやもしかすると介護から逃げるために週末の物販のイベントを入れているのかもしれないのだけれど。

それでも家にいて、夜のライブの時間を待っていると罪悪感に押しつぶされそうなので、昼前に会社に出社する。夕方まで溜まっている仕事を片付け、青山一丁目の草月ホールに向かう。

ROTH BART BARONのライブは7月の「BEAR NIGHT 6」の渋谷O-EAST以来だが、この間にニューアルバム「LOST AND FOUND」がリリースされ、さらに今回のライブはストリングス隊が入っているのだった。

ライブは誰も立つことなく、手拍子も打たず、もちろん拳を振り上げるなんてこともなく、2時間椅子に座って、こんなに美しい音楽がこの世にあるのかという思いで聞き惚れた。まるで天に召されたような気分で、至福の夜を過ごす。

11月28日(金)読者の訪問

午前中、『おすすめ文庫王国2026』の初回注文締め作業をしていると、ひとりの男性が会社に顔を出す。

スーツでないその格好から私の知らない執筆者かどこかの編集者かと思ったが、「あの、ただの読者なんですが...」と小声で名乗られる。

神保町に移ってからこういうことはよくあり、また「本の雑誌」に「今月遊びに来た人」というコーナーまで設けているので、読者の訪問は大歓迎なのだ。

会社に招き入れ、お話を伺うと九州からやって来られたそうで、明日国立競技場で開催される陸上のセレモニーのついでに、そういえば神保町に本の雑誌社があったと思い出し、訪問してくれたそう。

しばらくお話ししていると、「うわー、ここで本の雑誌が作られているんですか。すごい感動です。手が震えてますよ。いやあ涙が出ちゃう」と本当に目尻をぬぐうのだった。

そう言われても本の雑誌社は小さな雑居ビルの一室で、「本の雑誌」が作られるといってもここで印刷製本しているわけではなく、さらに今は椎名さんや目黒さんがいるわけではないのである。私からしたら感動要素はまったくのゼロであり、いったいなにが読者の方の心を揺さぶったのか皆目見当がつかない。

おそらく「本の雑誌」に心を揺さぶる何かがあるのではなく、「本の雑誌」を読んでいる自分の人生を走馬灯のように思い出したのだろう。

その方の人生を私はまったく知らない。けれど仕事のこと家族のこと恋人のこといろいろとあったときに、必ず毎月一度「本の雑誌」を手にする時間がある。そのときだけ思い悩んだり苦しんだりしていることを忘れ、笑ったり頷いたり大好きな本の世界に没頭できたりして、私が毎週聴くラジオを楽しみにしているように、この方は「本の雑誌」を読んでいるのではなかろうか。

雑誌というものはつくづく不思議なものだ。書籍よりも双方向で、上から下というよりは、同じレベルの平坦な街のよう。

私たちにできるのは、おもしろいものを作って、とにかく刊行し続けること。

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