10月31日(金)きっくり腰

朝、タンスから靴下を取り出そうと腰を捻った瞬間、何やら身体の内部からピキーン!という音が聞こえ、激痛が走った。おおおおお!これが噂に聞くギックリ腰というやつかとそのまましばし動かず、しばらくしてゆっくりとベッドに横になった。

もしこのまま動けなくなってしまったら本日のスッキリ隊はどうなってしまうのか。古書現生の向井さんと浜本は不参加で、立石書店の岡島さんと私が出動することになっているのだ。岡島さんがどんなに仕事ができるといってもあの急な階段を何度も登り降りさせるのは申し訳ない。

ゆっくりゆっくり身体を動かしてみると、痛みはそれほどひどくなく、立ち上がることができた。腰を動かしてみると痛いというほどでない違和感がある程度。ぎっくり腰手前のきっくり腰か。恐る恐る身体を曲げて靴下を履き、スッキリ隊出動となる。

依頼主の自宅に着く頃にはほとんど痛みもなく、それでもゆっくり荷物を持ち上げるようにする。約3時間の作業を終え、できるかぎりの本を運び出す。昨日に引き続き、神保町の古書会館に本を下ろし、任務完了。

午後、会社に出社し、夜までデスクワーク。土砂降りの中、帰宅する。

10月30日(木)段ボール40箱

直行で都内某所へスッキリ隊出動。腰の調子が悪いスッキリイエローこと古書現世の向井さんは残念ながら不参加。

段ボール箱40箱と聞いていたので運び出すだけと考えていたのだが、玄関をあけるとすぐに本棚があり、なぜかそこに本がずらりと並んでいる。しかも案内されるがままに各部屋を見ていくと驚くほど大量に本があるのだった。それらをすべて整理してほしいらしい。

依頼主が伝えてくる本の数ほどあてにならないものはない、というのは古本屋講座の一時間目に教わることらしいが、ここまで数が違うのもなかなか珍しい。

スッキリグリーンこと立石書店の岡島さんが今日一日で終わらないことを瞬時に判断され、明日もスッキリ隊出動が確定する。臨機応変にスケジュールを調整するのも古本屋講座の一時間目に教わることだ。

段ボールといってもいろいろなサイズがあるのだが、本日本がみっちり詰められた段ボールはかなり大きな方の段ボールで、それを必死に持ち上げ、急な階段を登り降りする。階段のファンタジスタ見参!と気付けばTシャツ一枚になっているのであった。

昼過ぎに本日分の作業を終え、神保町の古書会館に向かう。

夕方会社に戻って、デスクワーク。明日の予定が変更となり、版元営業の私は頭を抱える。

10月29日(水) ネジが緩む

「働き過ぎだから休みなさい」と妻から厳命が下り、会社を休む。言われてみればここで休まねば、あやうくまた19連勤になるところだったのだ。

休むと決めた瞬間に全身ネジが緩んだのか強烈な疲労感に襲われ、そのまま終日ベッドの上で過ごす。

10月28日(火)間違う力

夕方、AISAの小林渡さんと高野秀行さんの家に向かい、初出店する「文学フリマ」の打ち合わせ。

今回は高野さんの初ZINE『チャットGPT対高野秀行 キプロス墓参り篇』(B6並製 132ページ 1300円税込)という旅行記と、『寛永御前試合』(B6並製 72ページ 1000円税込)というプロレス剣豪小説を作り、販売することになっている。

作り始めたら写真を入れたり、地図をつけたり、しまいにはカラーページを作ったりと日頃やっている仕事となんら変わりなくなってしまい、もうZINEなんて二度と作らない!と絶叫寸前となっていたのだけれど、高野さんと渡さん曰く、そうなったのは私のせいで、お二人はもっとゆるいものを考えていたという。

ビール片手の高野さんから「なんで杉江さんがこんなに本気になってるのか不思議に思ってたんだよ」と言われ、「完全に杉江さんの間違う力の暴走だよ」と呆れられたときには愕然となった。

そ、そうなのか......。私が一人相撲をとっていたのか......。私はてっきり逆だと思っていたのだが、いったい私はどこで間違えたのだろうか。

ひとつはやはり人のものを作るというところだ。これが自分の日記をまとめたZINEならば肩の力も抜け、売れなくても当然という気分で作れたはずだ。

それが人の本、特に高野さんの本となればやはり通常の仕事モードに突入せざるを得ない。

さらにこれを「売ろう」と思ってしまったところだ。原価計算をして、損益分岐点を出し、何部売れたらいくら利益がでるなんて皮算用をしてしまった。ZINEだから儲ける気もないのに、やはり本を前にすると私は儲けるのが至上命題になってしまう。これはもはや職業病だ。

会場に何冊持っていくか、釣り銭はどれくらい用意したらいいのかなど3人で話し合っていると、高野さんがぽつりともらした。

「50歳過ぎて、こんな文化祭みたいにワクワクことがあるのすごいよね」

そう、そのためにZINEを作っているのだ。

10月27日(月)寅雄帰還

  • ブラッド・コバルト~コンゴ人の血がスマートフォンに変わるまで
  • 『ブラッド・コバルト~コンゴ人の血がスマートフォンに変わるまで』
    シッダルタ・カラ,夏目 大
    大和書房
    2,750円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 埼玉高校サッカーの復権を担う男たち
  • 『埼玉高校サッカーの復権を担う男たち』
    河野正
    カンゼン
    1,980円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

朝ラン6キロ。少し前は4時台に走れていたのに、今では6時を過ぎないと明るくならず、通勤を考えるとランニングのペースも上がる。

9時半に出社。すずらん通りで天を見上げ青空を睨む。社内には半分以下に減るはずだった段ボールが山積みで、しばらくすると荷物を預かっていた太田出版のSさんがお礼方々挨拶にやってくる。初参加で二日間完全中止という不幸に懲りず、来年も出店してくれることを願う。

昼食は錦華通りの「立喰いそば 梅市」でゲソかき揚げそば。最近のお気に入り。

3時過ぎに内澤旬子さんから「これ以上帰ってこないと辛くて寅雄の原稿が書けなくなるかもしれない」と中断していた「猫に転んで」の原稿がメールで届いたので、夢中になって読んでいるとその内澤さんから電話が入る。

原稿送付の報告かと思い電話に出ると、内澤さんの背後から猫の声が聞こえてくる。「杉江さん! 今、寅雄が帰ってきたの!! 原稿送ってすぐ目撃情報が届いて」。ううう、そんな奇跡みたいなことがあるのか。二十日間も行方知れずになっていた寅雄が帰ってくるとは。万歳三唱。さすが寅雄だ。

東京堂書店さんから『神保町日記2025』の追加注文をいただいたのですぐに持っていく。ISBNもついていないZINEを取り扱っていただけ、しかもこのように追加注文もいただけるとは大感謝。あっという間にこれまで直接注文で発送してきた数に匹敵する数が東京堂書店さんからお客さまの手に渡ったこととなる。

こうして基本直販のみの本を作ってわかるのだけれど、結局売り場のない本は売れないのだ。売り場があってこそ本は売れるのだ。本を売るには売り場を増やすしかないのだ。

夜、お茶の水の丸善さんに寄って、担当のSさんとお話。

新書売り場で多面展開している水島弘史『プロが大切にしている たった一つの料理のルール』(青春新書プレイブックス)は発売3ヶ月で300冊以上販売しており、さらに文庫売り場で展開を始めた昨年12月刊行の今村暁『朝「10秒そうじ」のすすめ』(王様文庫)は、多面積みを始めて1ヶ月で100冊以上売れているそう。

シッダルタ・カラ『ブラッド・コバルト コンゴ人の血がスマートフォンに変わるまで』(大和書房)と河野正『埼玉高校サッカーの復権を担う男たち』(カンゼン)を購入して帰宅。

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