12月18日(水)売るよ
打ち合わせをしていて出られなかった電話の主は、高野秀行さんの新刊『酒を主食とする人々』のゲラをお渡ししていた書店員さんだった。
折り返ししなきゃと思ってスマホを確認したら、留守電が入っており、再生ボタンを押した。
「杉江さん、忙しいところごめん。高野さんのゲラ読み始めたんだけど、これめっちゃ面白いじゃん。これ、売るよ!」
と録音されていた。
本を作っている間というのは本当に孤独で、不安に陥いるものなのだった。
書き手からお預かりしている原稿は当然めっちゃ面白い!と思っているんだけど、もしかしてそう思うのはこの世で自分ひとりなんじゃないかとゲラを読んでいるうちにどんどん編集ブラックホールに落ちていくのだ。
『酒を主食とする人々』は高野さんの魅力が存分に詰まった傑作で、今のところ唯一の読者である私はすごく自信があるのに、やっぱりその編集ブラックホールに引き寄せられていた。
そんな中、初めて第三者の人から「めっちゃ面白い!」と言われたことが編集ビッグバンを起こすほどうれしかった。しかしそれ以上にその書店員さんが「売るよ!」と言ってくださったのが泣けるくらいうれしかった。
そしてまたそれは自分の胸に突き刺さる言葉でもあった。自社の本の売上が芳しくなかったときに、「売れなかった」と言いがちだ。しかしそれは間違っていて、本当は「売らなかった」と言わなければならないのだ。
「売るよ」と留守電を残してくださった書店員さんは、それだけプロフェッショナルなのだった。こんなに心強い言葉はそうそう聞けるものではない。