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第14回:戸梶 圭太さん (とかじ・けいた)

戸梶 圭太

『トカジノフ』『トカジャンゴ』と1カ月の時間差で短編集を2冊刊行した戸梶圭太さん。『溺れる魚』『牛乳アンタッチャブル』など他の作品同様、描かれるのは、どうしようもない登場人物たちのどうしようもない行動、そして犯罪……。もちろん、彼らの存在と行動にはちょっと苦い味の笑いが含まれています。そんなトカジワールドの形成に関係したはずの、戸梶式読書と愛すべき本をご紹介します。

(プロフィール)
1968年東京都生まれ。学習院大学文学部心理学科卒業。1999年『闇の楽園』で第3回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。著書に、『溺れる魚』『the TWELVE FORCES〜海と大地をてなずけた偉大なる俺たちの優雅な暮らしぶりに嫉妬しろ!』『なぎら☆ツイスター』など。

・戸梶圭太公式ブログ 「戸梶圭太'S なんトカかんトカ人生地雷地獄」

【子どもの頃の読書、最近の読書】

トカジノフ
『トカジノフ』
戸梶圭太(著)
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トカジャンゴ
『トカジャンゴ』
戸梶圭太(著)
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――作家の方にお話を聞いていると、本をそんなに読むほうじゃないとおっしゃる方も少なくありませんね。

戸梶 : 中途半端に読むと影響を受けてしまうからかもしれませんね。まったく読まないか、またはものすごく読むかのどちらかにしないと。量が多ければ、それだけひとりの作家やひとつの作品からの影響は薄まりますから。

――戸梶さんは、よく本を読むほうの作家ですか?

戸梶 : 作家デビューしてからは、小説は全然読んでないですね。資料も読むことは読みますが、楽しくないから必要最低限だし。仕事で本を書いていて、それ以外でも本に触れているというのは世界が狭くなってしまうような気がして……。書いていない時間には、本よりも人に向かうようなことをやりたいんです。本のビジュアルを作ったり、自主映画を撮ったり。

――短編集『トカジノフ』『トカジャンゴ』にも戸梶さんの写真とイラストが使われていますね。

戸梶 : 本屋に行っても見るのは写真集や画集ばかりで、字がぎっしり入った本からはどうも遠ざかってますね(笑)。これまでの読書はどうだったかというと、僕の人生には3回ぐらい、集中して本を読んだ時期がありました。初めて読んだちゃんとした本が大藪春彦さんの『処刑軍団』で、それが小6だったはずです。新書版でしたね。そこから中学にかけてがまず第1回目の読書期間です。『処刑軍団』は主人公がひとりではなくて4人いたりして、大藪さんの作品の中でも異色だと思います。その頃、僕はガンマニアで、銃に関する記述を読んで喜んでましたね。

――『トカジノフ』の中の一編『ターゲット508 』も主人公がはっきりせず、男数人が銃を持って追いかけっこをしますよね。大藪作品の影響があるのでしょうか?

戸梶 : 具体的に『ターゲット508 』がどうなのかはわかりませんが、僕が影響を受けているのはたしかです。もうひとり、その頃読んで影響を受けたのが筒井康隆さんでした。こっちはゲラゲラ笑えるから好きで、カバーの山藤章二さんのイラストも好きでした。でも、世間でいいと言われる文芸作品はまったく読みませんでした(笑)。

――すでにハードボイルドやミステリなどのエンターテインメントの世界にどっぷりだったわけですか?

戸梶 : 探偵小説は読まなかったですね。アクション小説、犯罪小説がほとんどでした。

――それが第1回目の読書期間だとすると、第2回目はいつだったのでしょう?

戸梶 : 浪人の頃です。この時は文芸作品、岩波文庫系の作品も読みました。ドストエフスキーもソルジェニーツィンもカミュも読んだはずです、今も本棚に残ってますから。何が書いてあったのかは全然、覚えてないですけど(笑)。それで、3番目の時期が大学を出てフリーター3年目ぐらいかな。小説を書き始めた頃です。

――というと、読んでいたのは日本のミステリや犯罪小説になるのでしょうか?

戸梶 : ええ、逢坂剛さんや岡嶋二人さん、他にもたくさん読んでました。

――作家になろうと思ったのは、その頃が初めてだったのですか?

戸梶 : それまでに書こうと思ったことはなかったです。自称ミュージシャンだったんですが、「自称」が取れそうにないとわかって、何かしなきゃいけないと思ったんですね。会社員になるのは絶対にイヤだったし。

――大藪春彦と筒井康隆の名前が出ましたが、戸梶さんの作品からは映画の影響も感じます。2冊の短編集からは、タランティーノを思い出しました。

戸梶 : それはありますね。大学時代は映画と音楽中心の生活でしたから。映画はメジャー、マイナーを問わず観てました。

――作家になってから小説は読んでいないということでしたが、本屋はどうでしょう? よく行くところはありますか?

戸梶 : 住んでいるところから近いのが池袋なので、ジュンク堂、旭屋、リブロ……。ジュンク堂はゆっくり見られていいですね。ヘンな雑誌も多いし。

――ヘンな雑誌というのは?

戸梶 : さっきも言ったように本屋に行っても画集や写真集を見ることが多いんですが、それ以外だとディープな雑誌をよくチェックしてます。入れ墨の雑誌とか、特殊車輛の雑誌とか。100m伸びるクレーンがあるんですよ(笑)。文芸のところは自分の本が出たときに一回眺めるぐらいで、普段は行かないですね……。それから地元にもよく行く本屋がありますね。今、『アサヒ芸能』で連載をしていて、その写真も撮ってるんです。顔の出ない女性のポートレートなんですが、僕が撮った写真の中から掲載するものを編集者が選ぶんです。雑誌が家に送られて来るのは木曜日になってしまうので、編集者がどの写真を使ったのかを発売日の火曜日に見に行きます。でも、その本屋では写真を見るだけで買いません。

――コミックは読むんですか?

戸梶 : コミックもあまり読みません。伊藤潤二さんぐらいかな。きっかけは忘れましたが、絵がていねいで気に入ったんです。僕の『レイミ』ではオビの言葉をもらったり、伊藤さんの作品が文庫になった時は解説を書かせてもらいました。

【お気に入りの本たち】

――戸梶さんが愛する、お気に入りの本を教えてください。

戸梶 : はい、『ドリー・モートンの想い出』『ジャックと七人の艶婦たち』『ぼくのヴィヴィエ夫人』……。これはロマン文庫というシリーズで、カバーと装丁が金子國義さん。内容はポルノですが、それよりもカバーが重要。金子さんの絵が大好きなんです。買ったのは浪人の頃だったと思います。金子さんは一時、世間から消えてた時があったんですが、数年前からまた精力的に活動されてますね。

ドリー・モートンの想い出
『ドリー・モートンの想い出』
アウタラー・マルダーン(著)
富士見書房
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ジャックと七人の艶婦たち
『ジャックと七人の艶婦たち』
作者不詳
富士見書房
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ぼくのヴィヴィエ夫人
『ぼくのヴィヴィエ夫人』
ユーゴ・ソレンツァ(著)
富士見書房
591円(税込)
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BOUTIQUE HOTEL TEXTBOOK '88
『BOUTIQUE HOTEL TEXTBOOK '88』
GROUP・T(著)
笠倉出版社
完全脱獄
『完全脱獄』
ジャック・フィニイ(著)
早川書房
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クイーン・メリー号襲撃
『クイーン・メリー号襲撃』
ジャック・フィニイ(著)
早川書房
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5人対賭博場
『5人対賭博場』
ジャック・フィニイ(著)
早川書房
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Buried SPIRIT
『Buried SPIRIT』
都築響一(編)
アスペクト
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13のショック
『13のショック』
リチャード・マティスン(著)
早川書房
 
(改訂版)
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ダークサイド・オブ・ザ・ロック
『ダークサイド・オブ・ザ・ロック』
洋泉社
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別トータス松本
『別トータス松本』
トータス松本(著)
マガジンハウス
918円(税込)
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――お会いになったことは?

戸梶 : 個展に行ったときにその場にいらっしゃったことがありますが、声をかけるなんてとても……。次はこれ、『ブティックホテルブック』、ラブホテルのガイドです。

――そんな本があったんですか(笑)?

戸梶 : 1988年、バブルが始まった時代の貴重な記録ですよ。あっ、このページ、折り目が付いてる、行こうと思ったのかな(笑)。今では「ブティックホテル」なんて言わないですよね、「ラブホ」でしょ。

――ええ。では、ラブホに続いては、ジャック・フィニィ『完全脱獄』『クインメリー号襲撃』『5人対賭博場』です。

戸梶 : 完全犯罪ものですね。今、あまりないんですよ、不可能な犯罪を遂行していくストーリーって。資料を読まないといけないからかな。僕もいつかは書きたいと思っているんですが。

――この『Buried SPIRIT』は写真集ですか?

戸梶 : これは最近買った本の中で一番のヒットです。写真家でもある都築響一さんが編集した本で、ガーナの棺桶の写真集なんです。あの国では死んだ人の職業や家族の注文で職人が一点ものの棺桶を作るんです。

――ベンツやスペースシャトルや魚の形のがありますね。

戸梶 : 死に対する概念をひっくり返されますよ。棺桶が笑えるアートとして作られるなんて、目からウロコでした。同じシリーズにタイのエロ雑誌の表紙や電飾トラック、ピンク映画のポスターを集めたものもあります。

――また小説にもどって『13のショック』ですが。

戸梶 : リチャード・マティスンという作家の短編集です。この人の『激突』はスピルバーグが映画にしました。僕は被害妄想人間を書くのが好きなんですが、この本の中に妄想に取りつかれた男がバスに乗りこんで何人も刺し殺してしまう話があって(『陰謀者の群れ』)、今日的なものを感じます。1953年に書かれた小説で相当に古いにもかかわらずです。

――そして、音楽ものが2冊。

戸梶 : 『ダークサイド・オブ・ザ・ロック』はバカな人がいっぱい出てて好きです。愛すべきバカ。G.G.アリンという人がいるんですが、その紹介のされ方が「小さいチンコでウンコまみれ」……(笑)。CD探しに行ったんですが、ありませんでした。ロックはまじめにやっちゃダメですよ。日本のミュージシャンは行儀がよすぎます。でもトータス松本の『別トータス松本』はいい。バカな写真とマンガで最高です。

【新作『トカジノフ』『トカジャンゴ』のことなど】

ドクター・ハンナ
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戸梶 圭太 (著)
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――『トカジノフ』と『トカジャンゴ』は1カ月間隔で出た短編集ですが、書き手にとっての長編と短編の違いはどのようなものなんでしょう?

戸梶 : 特にないですね。強いて言うと、短編のほうが世の中の断片を拾いやすいということぐらいです。アイデアはこういう人がきっといるだろうというところから始まります。今、日本はレベルが下がっているから、こういう人も多分いるだろうと思ってお話を書いて、その日新聞見ると本当にいたりするんですよ(笑)。

――親の権力と金で自分専用のAVを警官に作らせるストーカーが出てきたり、公園の鳩をめぐるトラブルが題材になっていたり……。読んでいてとてもリアルに感じました。リアルかつ、同時に日本のレベルの低下を笑えるストーリーですね。

戸梶 : その低下はもう止めようがなくて、嘆いてもしかたない。と言うより、日本はすごく頭がいい人とすごいバカに二極化してますね。昔は小学生、中学生、高校生、大学生と各レベルがいたのに今は小学生と大学生しかいない。そんな感じです。

――そんな時代の中、戸梶さんが今、書かれているものについて教えてください。

戸梶 : 『アサヒ芸能』に連載している美人外科医の話、『ドクターハンナ』が来年、単行本になります。他には『小説推理』の『俺の神と踊れ!』。民間刑務所の所長が好き放題やってしまう。囚人どうしにプロレスやらせて、人気があって稼げる奴は所内の待遇が厚くて、一方で才能がなく何もできない囚人には所内の発電所で1日何時間も自転車をこがせたり。

――何だか日本の二極化の話と重なりますね……。

戸梶 : そうかもしれない。『別冊文藝春秋』に連載している『CHEAP TRIBE 』は1950年生まれの男の生涯を約10年ごとにジャンプして描いているんですが、時代に呑まれ、安い方へ安い方へと流されていく。これも、こういうやつきっといるよという話です。

(2002年10月更新)

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